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これは病気じゃない
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よかった、食べてくれて。
これで少しは元気になるかな。
初めはひどく嫌がられたものの、結局、サーヤからの「あーん」で野菜スープを完食したアユールは、目を覚ましてから大した時間も経っていないというのに、再び眠たそうな顔をしていた。
少し乱れた布団をかけ直しながら、サーヤにはちょっとした疑問が湧いていた。
でも、なんでこんなに具合が悪くなっちゃったんだろう?
思い返せば、最初にあったときからひどく具合が悪そうだった。
ここに連れてきてから3日間眠り続けて、やっと目を覚ましたかと思えば、スープ一杯飲んだだけでもう疲れてしまってるのだ。
見たところ、怪我とかはなかったのに。
こてん、と首を傾げて、不思議そうな顔でアユールを見つめる眼差しに気づいたのか、アユールが小さくふっと笑みを漏らした。
「……すまん、眠くなった。話は……後で……する、から……」
と、そこまで言いかけて、眠りに落ちてしまった。
あーあ、寝ちゃった。
少し残念に思いながらも、もう命の心配はしなくて良さそうで、それがとても嬉しくて。
空っぽのスープ皿を手に台所に行くと、レーナが自分たちの食事を用意してくれていた。
「あら、結局きれいに食べたのね。お腹空いてたくせに、まったく意地っ張りなんだから」
皿を洗うサーヤに、サラダを取り分けながらそうレーナは笑って言った。
そして、結局、アユールが次に目を覚ましたのは、翌日の午後をまわったところで。
「・・・アユールさんって何か悪い病気にでも、かかってます?」
心配そうにレーナが質問した。
隣にいるサーヤも、不安そうに首を傾げている。
その手には、たくさんの薬草の入った鍋が抱えられていて。
ここまで眠って、ようやく首が軽く動かせる程度しか回復しないアユールの姿に、気だての良すぎるこの親子は、心配でたまらない様子だ。
いろいろな薬草を煎じて、アユールが目覚めたら飲ませねばと、待ち構えていた。
どんな薬草かを確認してから、アユールは有難くそれら全てを飲み干すことにして。
・・・苦いこと、この上なかったが。
薬効で少しは体が楽になったのか、今回はすぐに眠りに落ちることもなく。
ベッド脇で、心配そうにオロオロし続ける親子を見て、しばしの逡巡の後、アユールは意を決したように口を開いた。
「これは病気ではないから安心していい。・・・少々、油断してな。攻撃を受けたのだ、宮廷魔法使いに。それで力を封じられて、動けなくなってしまった」
「・・・宮廷、・・魔法使い・・・?」
初めて聞く言葉に、サーヤは、こてんと首を傾げるが。
レーナの顔は目に見えて青ざめた。
「アユールさん、あなた、まさか・・・宮廷魔法使いの一人なの?」
「まさか。そんなものになる程、俺は落ちぶれちゃいない。まぁ、俺は確かに魔法が使えるし、王城に呼び出されて宮廷魔法使いになれと命令はされたが、もちろん断ってやったさ」
その時のことを思い出したのか、アユールは思い切り渋面になって。
「・・そうしたら、あのイカれた王妃が、宮廷魔法使いの長をけしかけて俺に魔力封じの術をかけさせやがった」
「宮廷魔法使いの・・・長・・」
「まぁ、なんとか自力で王城から逃げ出せたまでは良かったんだが、奴のかけた術の効果が現れ出してな、どんどん力が吸い取られてしまって。・・・最後には、とうとう動けなくなってしまったって訳だ」
アユールの返答に、レーナはほっと息を吐く。
「宮廷魔法使いが、どうかしたのか? こんな辺境で、その存在に詳しい者がいるとも思えないが」
その問いにレーナはすぐには答えず、しばらくの間、じっとアユールを見つめている。
だが、やがて、落ち着いた静かな声で、アユールにこんな問いを投げかけた。
「あなたに術をかけたという、その宮廷魔法使いの長とは、もしや、サルマンという名の人ではありませんか・・・?」
聞き覚えのある名に、アユールの眉がぴくりと上がった。
これで少しは元気になるかな。
初めはひどく嫌がられたものの、結局、サーヤからの「あーん」で野菜スープを完食したアユールは、目を覚ましてから大した時間も経っていないというのに、再び眠たそうな顔をしていた。
少し乱れた布団をかけ直しながら、サーヤにはちょっとした疑問が湧いていた。
でも、なんでこんなに具合が悪くなっちゃったんだろう?
思い返せば、最初にあったときからひどく具合が悪そうだった。
ここに連れてきてから3日間眠り続けて、やっと目を覚ましたかと思えば、スープ一杯飲んだだけでもう疲れてしまってるのだ。
見たところ、怪我とかはなかったのに。
こてん、と首を傾げて、不思議そうな顔でアユールを見つめる眼差しに気づいたのか、アユールが小さくふっと笑みを漏らした。
「……すまん、眠くなった。話は……後で……する、から……」
と、そこまで言いかけて、眠りに落ちてしまった。
あーあ、寝ちゃった。
少し残念に思いながらも、もう命の心配はしなくて良さそうで、それがとても嬉しくて。
空っぽのスープ皿を手に台所に行くと、レーナが自分たちの食事を用意してくれていた。
「あら、結局きれいに食べたのね。お腹空いてたくせに、まったく意地っ張りなんだから」
皿を洗うサーヤに、サラダを取り分けながらそうレーナは笑って言った。
そして、結局、アユールが次に目を覚ましたのは、翌日の午後をまわったところで。
「・・・アユールさんって何か悪い病気にでも、かかってます?」
心配そうにレーナが質問した。
隣にいるサーヤも、不安そうに首を傾げている。
その手には、たくさんの薬草の入った鍋が抱えられていて。
ここまで眠って、ようやく首が軽く動かせる程度しか回復しないアユールの姿に、気だての良すぎるこの親子は、心配でたまらない様子だ。
いろいろな薬草を煎じて、アユールが目覚めたら飲ませねばと、待ち構えていた。
どんな薬草かを確認してから、アユールは有難くそれら全てを飲み干すことにして。
・・・苦いこと、この上なかったが。
薬効で少しは体が楽になったのか、今回はすぐに眠りに落ちることもなく。
ベッド脇で、心配そうにオロオロし続ける親子を見て、しばしの逡巡の後、アユールは意を決したように口を開いた。
「これは病気ではないから安心していい。・・・少々、油断してな。攻撃を受けたのだ、宮廷魔法使いに。それで力を封じられて、動けなくなってしまった」
「・・・宮廷、・・魔法使い・・・?」
初めて聞く言葉に、サーヤは、こてんと首を傾げるが。
レーナの顔は目に見えて青ざめた。
「アユールさん、あなた、まさか・・・宮廷魔法使いの一人なの?」
「まさか。そんなものになる程、俺は落ちぶれちゃいない。まぁ、俺は確かに魔法が使えるし、王城に呼び出されて宮廷魔法使いになれと命令はされたが、もちろん断ってやったさ」
その時のことを思い出したのか、アユールは思い切り渋面になって。
「・・そうしたら、あのイカれた王妃が、宮廷魔法使いの長をけしかけて俺に魔力封じの術をかけさせやがった」
「宮廷魔法使いの・・・長・・」
「まぁ、なんとか自力で王城から逃げ出せたまでは良かったんだが、奴のかけた術の効果が現れ出してな、どんどん力が吸い取られてしまって。・・・最後には、とうとう動けなくなってしまったって訳だ」
アユールの返答に、レーナはほっと息を吐く。
「宮廷魔法使いが、どうかしたのか? こんな辺境で、その存在に詳しい者がいるとも思えないが」
その問いにレーナはすぐには答えず、しばらくの間、じっとアユールを見つめている。
だが、やがて、落ち着いた静かな声で、アユールにこんな問いを投げかけた。
「あなたに術をかけたという、その宮廷魔法使いの長とは、もしや、サルマンという名の人ではありませんか・・・?」
聞き覚えのある名に、アユールの眉がぴくりと上がった。
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