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暴徒発生
しおりを挟む「では、この腕輪は・・・」
「はい。隣国ミネルヴァリハの術師により作られた防御の魔道具です」
リュクスは自分の腕にはめられた三連の腕輪をしげしげと眺めた。
「これを付けていれば、この建物から出てもヴァルハリラの術の影響を受けないままなのですね?」
感心したように問うと、ユリアティエルは頷いた。
「ですが先ほどお話しした通り、数に限りがあるため騎士団の皆さま全員にお渡しする事は出来ません。ですから・・・」
「分かりました。私から話をしておきます。この魔道具を装着していない者は、建物から一歩も外に出る事は許さないと」
「ご協力に感謝致します。リュクスさま」
頭を下げたユリアティエルを「とんでもありません」とリュクスは慌てて止める。
「このような建物が準備してあったから良かったものの、これがなければ、私たちはまたあの忌々しい術中に嵌ってしまうところでした」
リュクスは落胆と後悔の入り混じった声で、絞り出すようにそう言った。
リュクスは、目覚めた後ユリアティエルに伴われ別室へと移動し、事の仔細を聞かされた。
だが、説明を受けながらも、当然ながら直ぐには頭が追いつかない。
何度か同じことを尋ねながら、漸くこの数年の間に国内で何が起きていたかを理解する事が出来た。
それから、リュクスが最初にした事は謝罪だった。
深々と頭を下げるリュクスを、ユリアティエルは困ったように見つめる。
「どうか頭をお上げくださいませ。リュクスさまの落ち度ではありません」
「しかし・・・っ!」
ユリアティエルを逆賊と見なし、こんな国境近くにまで討伐隊を率いてやって来たのが、よりによって自分だったという事実に、リュクスは打ちのめされていた。
「・・・リュクスさま。それ程に『傀儡』という術の力は強いものなのですよ。今や王国全土がその力に覆い尽くされているのですから」
「ユリアティエルさま・・・」
「今のこの国で、その術から逃れている者はごく僅かです。その一人に、リュクスさま、貴方が加わって下さいました。そして騎士団の皆さまも」
ユリアティエルは柔らかく微笑んだ。
「今はまだ、防御の魔道具の数が足りませんので、対策が講じてあるこの家から出られない方も多いかもしれません。でも、わたくしは皆さまが加わって下さった事を、とても心強く思っております」
リュクスは唇をきゅっと引き結んだ。
再び涙が滲みそうになるのを必死で堪える。
「あり・・・がとう、ございます・・・」
「頼りにしています。リュクスさま」
その時だった。
ノックの音と共に扉が開く。
「リュクス団長。ご無沙汰しています」
入ってきたのはノヴァイアスだった。
リュクスは立ち上がり、ノヴァイアスにも謝罪の言葉を述べようとしたところで、逆に遮られる。
「謝らないでください。あの術に自身の力だけで抗う事は、誰にとっても不可能です。それよりもリュクス殿、怪我の具合はどうですか? 右肩を負傷したと聞いていますが」
ノヴァイアスの問いに、リュクスは軽く肩を回してみせた。
「大した怪我ではない。攻撃を受けた際に少し痛めた程度だ。問題なく動けるよ」
「そうですか。それは良かった。実はリュクス殿に折り入ってお願いしたい事があるのですが」
「願い、ですか。何でしょう? 私に出来る事なら何なりと」
「ありがとうございます」
ノヴァイアスは懐に手を入れ、ジャラリと音を立てながらある物を取り出した。
「ここに使用可能な魔道具が五つあります。貴方の部下の方々から特に腕の立つ者を選出してもらいたい。そしてその者たちには、この魔道具を身に付けて頂きたいのです」
「魔道具を・・・?」
「はい」
ノヴァイアスは一度、言葉を切り、少しの間を置いてから再び口を開いた。
「先ほど、斥候からの知らせがありました。麓近辺の村や町の人たちが、ここを目指して山に入ったと」
新たな知らせに、一瞬その場を静寂が支配した。
「村や町の者たちがここを目指して・・・? それは・・・」
ノヴァイアスは重々しく頷いた。
「ヴァルハリラの差し金でしょう。恐らくは騎士団たちが襲撃に失敗したとでも結論づけたのではないでしょうか」
リュクスの顔が強張る。
「それは・・・つまり・・・」
「ええ。お察しの通りです」
ノヴァイアスはまずユリアティエルを、それからリュクスへと視線を移した。
「術に操られて暴徒化した近隣の町や村の者たちがこの村を目指して山中を彷徨い歩いているのです」
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