上 下
141 / 183

暴徒発生

しおりを挟む

「では、この腕輪は・・・」
「はい。隣国ミネルヴァリハの術師により作られた防御の魔道具です」


リュクスは自分の腕にはめられた三連の腕輪をしげしげと眺めた。


「これを付けていれば、この建物から出てもヴァルハリラの術の影響を受けないままなのですね?」


感心したように問うと、ユリアティエルは頷いた。


「ですが先ほどお話しした通り、数に限りがあるため騎士団の皆さま全員にお渡しする事は出来ません。ですから・・・」
「分かりました。私から話をしておきます。この魔道具を装着していない者は、建物から一歩も外に出る事は許さないと」
「ご協力に感謝致します。リュクスさま」


頭を下げたユリアティエルを「とんでもありません」とリュクスは慌てて止める。


「このような建物が準備してあったから良かったものの、これがなければ、私たちはまたあの忌々しい術中に嵌ってしまうところでした」


リュクスは落胆と後悔の入り混じった声で、絞り出すようにそう言った。




リュクスは、目覚めた後ユリアティエルに伴われ別室へと移動し、事の仔細を聞かされた。


だが、説明を受けながらも、当然ながら直ぐには頭が追いつかない。


何度か同じことを尋ねながら、漸くこの数年の間に国内で何が起きていたかを理解する事が出来た。


それから、リュクスが最初にした事は謝罪だった。


深々と頭を下げるリュクスを、ユリアティエルは困ったように見つめる。


「どうか頭をお上げくださいませ。リュクスさまの落ち度ではありません」
「しかし・・・っ!」


ユリアティエルを逆賊と見なし、こんな国境近くにまで討伐隊を率いてやって来たのが、よりによって自分だったという事実に、リュクスは打ちのめされていた。


「・・・リュクスさま。それ程に『傀儡』という術の力は強いものなのですよ。今や王国全土がその力に覆い尽くされているのですから」
「ユリアティエルさま・・・」
「今のこの国で、その術から逃れている者はごく僅かです。その一人に、リュクスさま、貴方が加わって下さいました。そして騎士団の皆さまも」


ユリアティエルは柔らかく微笑んだ。


「今はまだ、防御の魔道具の数が足りませんので、対策が講じてあるこの家から出られない方も多いかもしれません。でも、わたくしは皆さまが加わって下さった事を、とても心強く思っております」


リュクスは唇をきゅっと引き結んだ。

再び涙が滲みそうになるのを必死で堪える。


「あり・・・がとう、ございます・・・」
「頼りにしています。リュクスさま」


その時だった。

ノックの音と共に扉が開く。


「リュクス団長。ご無沙汰しています」


入ってきたのはノヴァイアスだった。


リュクスは立ち上がり、ノヴァイアスにも謝罪の言葉を述べようとしたところで、逆に遮られる。


「謝らないでください。あの術に自身の力だけで抗う事は、誰にとっても不可能です。それよりもリュクス殿、怪我の具合はどうですか? 右肩を負傷したと聞いていますが」

ノヴァイアスの問いに、リュクスは軽く肩を回してみせた。


「大した怪我ではない。攻撃を受けた際に少し痛めた程度だ。問題なく動けるよ」
「そうですか。それは良かった。実はリュクス殿に折り入ってお願いしたい事があるのですが」
「願い、ですか。何でしょう? 私に出来る事なら何なりと」
「ありがとうございます」


ノヴァイアスは懐に手を入れ、ジャラリと音を立てながらある物を取り出した。


「ここに使用可能な魔道具が五つあります。貴方の部下の方々から特に腕の立つ者を選出してもらいたい。そしてその者たちには、この魔道具を身に付けて頂きたいのです」
「魔道具を・・・?」
「はい」


ノヴァイアスは一度、言葉を切り、少しの間を置いてから再び口を開いた。


「先ほど、斥候からの知らせがありました。麓近辺の村や町の人たちが、ここを目指して山に入ったと」


新たな知らせに、一瞬その場を静寂が支配した。


「村や町の者たちがここを目指して・・・? それは・・・」


ノヴァイアスは重々しく頷いた。


「ヴァルハリラの差し金でしょう。恐らくは騎士団たちが襲撃に失敗したとでも結論づけたのではないでしょうか」


リュクスの顔が強張る。


「それは・・・つまり・・・」
「ええ。お察しの通りです」


ノヴァイアスはまずユリアティエルを、それからリュクスへと視線を移した。


「術に操られて暴徒化した近隣の町や村の者たちがこの村を目指して山中を彷徨い歩いているのです」



しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

処理中です...