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覚えのある声
しおりを挟む衝撃と同時に、一瞬、浮遊感を覚え、身体が地面にたたきつけられる。
どさりという音と共に、騎士団長リュクスは、ああ自分は倒れたのだと他人事のように考えていた。
薄れゆく意識の中、リュクスは、敬愛する王太子妃殿下に詫びの言葉を唱える。
何度も、何度も。
申し訳ありません。
重要な任務をお任せいただいたのに。
私の力が及びませんでした。
申し訳・・・ありません。
「・・・お前、加減しろよ。なるべく怪我させるなって言われてるだろ?」
「バカ言うなよ、ドルトン。相手は王城勤めの騎士だぞ? 素人を相手にしてるんじゃねぇんだ。そんな上手く加減なんか出来っかよ」
「いや、そこは上手くやれよ。プロは雇い主の頼みは最優先で聞くもんなんだよ」
プロ? と言うことは、こいつら・・・傭兵・・・か・・・?
「知るかよ、んなこと。だいたい俺は雇われたんじゃねぇ。気が向いたからお姫さんを手伝ってるだけだし」
「シャイ、お前なぁ・・・」
傭兵、が・・・何故・・・こんな所に・・・。
お姫・・・さんって、一体・・・だ、れ・・・
男たちの声を聞きながら、リュクスはゆっくりと意識を手放した。
次に目を開けた時、リュクスは見知らぬ部屋に寝かされていた。
既に日が変わったのか、窓からは明るい光が射し込んでいる。
ここは・・・?
リュクスはゆっくりと瞬きを繰り返した。
視界に映る天井も、窓も、壁も、まったく見覚えがない。
身体が重い。
ずきりと右肩が痛み、思わず眉を顰める。
すう、と深く息を吸いこんで、そして吐いた。
落ち着け。まずは状況把握だ。
首を巡らすと、周りには部下たちがずらりと横たわっているのが見えた。
一瞬、殺されたのかと不安を覚え、だがすぐに部下たちの胸が規則正しく上下している事に気づき、ほっと安堵する。
見れば、それなりの広さがある部屋の中、所狭しと部下たちが横になって寝かされていた。
何故・・・こんなところに・・・?
ここはどこだ?
ぼんやりと考えながら別方向に目を遣ると、青い髪の少女が視界に入った。
向こうも視線に気づいたようだ。立ち上がってリュクスの方にやって来る。
「気がつきましたか」
「・・・ここは・・・? お前は、誰だ・・・?」
膝をついて様子を問う少女に、リュクスはまだふわふわと定まらない意識を堪え、声を発した。
頭がくらくらする。
水底から引き上げられたかのような、何か自分を覆っていたものが取り除かれたかのような、ようやく解放されたかのような。
そんな奇妙な解放感に、リュクスはどこか不安を覚える。
思わず左手で頭を押さえ、そこで自分の腕に見慣れない腕輪が付けられているのに気づいた。
三重の腕輪。
自分のでは、ない。
「具合はどうですか? 手荒なやり方で連れてきてすみませんが、他の皆さんも無事ですから安心してください」
「手荒・・・?」
その言葉に、意識を手放す前のことを思い出す。
そうだ、自分は王太子妃から直々に命令を受けて、逆賊を討つために遙々と国境付近まで・・・。
ここでリュクスの体は硬直した。
・・・王太子、妃・・・?
あれが、王太子妃・・・?
いや、違う。
そんな筈はない。
王太子殿下が選ばれた方は・・・。
「お気づきになられましたか。リュクスさま」
聞き覚えのある声。
どこか懐かしい響きの声に、リュクスは視線を上げる。
青い髪の少女が呼んだのか、開いた扉の横には、輝く銀の髪の女性が立っていた。
少し不安げに細められるのは紫色の瞳。
その美しい、水晶のように透き通った色は。
「あ・・・」
「・・・リュクスさま。お久しぶりでございます」
知らず、リュクスの瞳から涙が溢れる。
「貴女・・・は・・・」
視界がぼやけ、リュクスは慌てて袖で涙を拭った。
幻などと思いたくない。
幻で終わって欲しくない。
逆賊だなんて、どうして。
ああ。
何故、今までこの方を忘れ去っていたのか。
何故、私は。
「・・・どうして・・・こんな・・・っ!」
かつて騎士団にもよく差し入れを届けてくれた、王太子カルセイランの最愛の女性、ユリアティエル・アデルハイデンがそこに立っていた。
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