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苛立ち
しおりを挟む「どういうことよっっ!」
朝、誰も居なくなった寝室で、ヴァルハリラは大声を上げた。
「なに・・・? なんなの、アレは。どういう事なの? どうして勃たないのよ?」
ここ一週間の出来事をヴァルハリラは思い返し、苦々しく呟いた。
「え・・・? どうしてですの? わたくしの何がいけなかったのでしょうか?」
初夜となる筈だった日、ヴァルハリラは目の前で起きたことが信じられずにいた。
今夜、カルセイランの精が自分の中に注がれる筈だった。
そうなれば契約条件は達成した事になる。
自分は人外から人に戻り、三月後の対価の支払い時に、ほぼ全員の王国民を差し出して終了。
あとは、身の回りの世話をするための使用人数名と、愛する夫カルセイランとヴァルハリラとで、いつまでも幸せに仲睦まじく暮らすだけ。
そう、小さい頃、母が枕元で読んできかせてくれたお伽話のように。
・・・不遇だった可哀想なお姫さまは、苦難を乗り越えて王子さまと真実の愛で結ばれ、皆からの祝福を受けて結ばれました。そして二人はいつまでも幸せに暮しましたとさ。
めでたし、めでたし。
そうよ、そうなる筈でしょう?
そうならなきゃいけないわ。
楽勝の筈。簡単に事が済む筈だった。
残り三月もあるけど、まあ余裕を持って終わるのも悪くない。
なんて思っていたのに。
なのに、なによ。
男としての役割を果たせないなんて。
しかも、原因は自分ではない、とまで断言された。
--- 変だな。どうしてだろう ---
--- 私は以前、閨教育だと称する叔父に、何回か花街に連れて行かれた事があるんだ。だがその時は何の問題もなくいつも最後まで行えたよ ---
--- だから・・・
だから? だから何よ?
まるで私に問題かあるみたいに言わないでちょうだい。
私だって、これまで何の問題もなく出来てたわよ。
今まで、私の前で勃たなかった男はいない。
そんな腑抜けはカルセイランさまだけ。
--- おかしいね。こんな事は初めてだ ---
私とだから勃たないとでも言いたいの? 馬鹿にしないでよ。
私は、ただ横になってされるがままの面白みのない女じゃない。
サービスだって色々してあげたわ。
胸の間に挟んで擦ってもみた。
口に含んで舐め回してもみた。
いやらしいポーズを取ってみたり、おねだりしたり。
なのにどうして、何の反応もないの?
--- あまり気にしないで。疲れてるせいかもしれない ---
・・・そうよ、きっと疲れてたのよ。
はあ、と息を吐き、髪の毛を掻きむしる。
だけど、もう何もないまま一週間が過ぎてしまったわ。
落ち着いて、大丈夫。
まだ三月あるわ。
そうよ。まだやり用はある。
まずは媚薬を用意しよう。
それから、念のために、また『傀儡』と『魅了』をかけ直すの。
ヴァルハリラは、頭の中で色々と算段を立てはじめる。
頭の中は、女として味わった屈辱のことで一杯だ。
いくら勃たないからって、房事で服を脱ぎもしないなんて、馬鹿にするのもほどがあるわ。
王族としての務めを分かっているのかしら。
妃を愛し、慈しみ、後継を残すためにたっぷりと子種を注ぐことよ?
・・・ああ、苛々する。
こんなところで手間取るなんて。
苛立ちが募り、ぎり、と爪を噛む。
早速、媚薬の入手を命じないと。それも急ぎで。
・・・大丈夫。きっとうまくいくわ。
何も心配はいらない。
そんな呟きを残して。
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