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絡みつく鎖のような
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妊娠の兆候にいち早く気づいたのはノヴァイアスだった。
言われてみれば、確かにここ二月ほど月のものが来ていない。
余り表情が豊かではないノヴァイアスだが、それでもこの時ばかりは少し嬉しそうにしていて。
早速、召使いに言いつけて医者を手配させた。
ここ数か月、ノヴァイアスとの接触しかなかったユリアティエルは、久しぶりに見る彼以外の人間をベッドからぼんやりと見上げる。
診察の後「ご懐妊です」と告げられるが、ユリアティエルには何の感情も湧かない。
自分のお腹の中に新しい命が宿るというのはとても神聖で厳かなことである筈なのに、それがノヴァイアスとの行為によるものだと考えるだけで、頭はそれ以上考えることを拒否してしまう。
・・・お腹の子には何の罪もないのに。
なのに、考えるだけで罪悪感に押し潰されそうになる。
最奥の部屋に閉じ込められ、家の中でさえ自由に歩くこともままならない。
そんな自分が、ノヴァイアスの手から逃げられる日など来る筈もないのに。
そうよ、どうせ逃げられないのは同じなのに。
なのにお腹の子が、自分をこの家に縛りつける鎖のように思えてしまう。
・・・私は生まれてくる子を愛せないかもしれない。
なんの根拠もない、そんな考えがユリアティエルを苛んだ。
妊娠が判明してから、ノヴァイアスはユリアティエルを抱くことを止め、ただただ静かに身の回りの世話だけをするようになった。
王都に関する話題を意図的に避けているようで、カルセイランの結婚に関する詳しい話は聞かせてはもらえない。
だから日付はおろか、妃となる人物についても何も知らされないままだった。
・・・ただ、この家に連れてこられた時、新しい婚約者が決まっているとノヴァイアスは言っていたわ。
悪阻で気分の優れない日々が続く中、そんな事をぼんやりと考える。
だとしたら、きっとその人と結婚する日もそう遠くない筈。
カルセイランは、この先もずっと術に囚われたまま一生を送ることになるのだろうか。
そして自分は、ここで一生、閉じ込められて終わるのだろうか。
いつか、術が解けたあの人に会うことができるのだろうか。
そんな事を考えていた時だった。
下腹部に激痛が走り、ユリアティエルは痛みで膝をついた。
はずみでぶつかったテーブルの上のカップが、床に落ちて派手な音をたてる。
だが、今はそんな事を気にかける余裕などはなかった。
まるでお腹の中をぐちゃぐちゃに掻きまわされているような痛み。
そのあまりの鋭さに、ユリアティエルは声を出すことも出来ない。
・・・痛い。痛い。痛い。
思考は停止し、助けを呼ぶなどという発想も出来ないまま、お腹を両手で抑えて蹲る。
気の遠くなりそうな痛みに、冷や汗が頬を伝う。
これは、一体・・・?
薄れそうな意識を辛うじて繋ぎ止めたその時、自分の腿に何か生温かいものが流れるのを感じた。
足元に目をやれば、床に赤いものが点々と散っている。
まさか・・・。
悪い予感が頭をかすめたその時、カップの割れる音を聞きつけたのであろうノヴァイアスが、血相を変えて飛び込んできた。
そして床に蹲るユリアティエルの姿を見て、その元へと走り寄る。
・・・何故そんな顔をするの。
今にも泣きそうな、置いていかれた子どものような、言いようのない不安で揺れる銀の瞳に、ユリアティエルは薄れゆく意識の中で問いかける。
それじゃ、まるで私を大事に思っているみたいじゃない。
私をこんな目に遭わせたのは貴方でしょう?
ノヴァイアス、貴方の考えていることが分からないわ。
ノヴァイアスの逞しい腕に包まれた時、ユリアティエルはゆっくりと意識を手放した。
言われてみれば、確かにここ二月ほど月のものが来ていない。
余り表情が豊かではないノヴァイアスだが、それでもこの時ばかりは少し嬉しそうにしていて。
早速、召使いに言いつけて医者を手配させた。
ここ数か月、ノヴァイアスとの接触しかなかったユリアティエルは、久しぶりに見る彼以外の人間をベッドからぼんやりと見上げる。
診察の後「ご懐妊です」と告げられるが、ユリアティエルには何の感情も湧かない。
自分のお腹の中に新しい命が宿るというのはとても神聖で厳かなことである筈なのに、それがノヴァイアスとの行為によるものだと考えるだけで、頭はそれ以上考えることを拒否してしまう。
・・・お腹の子には何の罪もないのに。
なのに、考えるだけで罪悪感に押し潰されそうになる。
最奥の部屋に閉じ込められ、家の中でさえ自由に歩くこともままならない。
そんな自分が、ノヴァイアスの手から逃げられる日など来る筈もないのに。
そうよ、どうせ逃げられないのは同じなのに。
なのにお腹の子が、自分をこの家に縛りつける鎖のように思えてしまう。
・・・私は生まれてくる子を愛せないかもしれない。
なんの根拠もない、そんな考えがユリアティエルを苛んだ。
妊娠が判明してから、ノヴァイアスはユリアティエルを抱くことを止め、ただただ静かに身の回りの世話だけをするようになった。
王都に関する話題を意図的に避けているようで、カルセイランの結婚に関する詳しい話は聞かせてはもらえない。
だから日付はおろか、妃となる人物についても何も知らされないままだった。
・・・ただ、この家に連れてこられた時、新しい婚約者が決まっているとノヴァイアスは言っていたわ。
悪阻で気分の優れない日々が続く中、そんな事をぼんやりと考える。
だとしたら、きっとその人と結婚する日もそう遠くない筈。
カルセイランは、この先もずっと術に囚われたまま一生を送ることになるのだろうか。
そして自分は、ここで一生、閉じ込められて終わるのだろうか。
いつか、術が解けたあの人に会うことができるのだろうか。
そんな事を考えていた時だった。
下腹部に激痛が走り、ユリアティエルは痛みで膝をついた。
はずみでぶつかったテーブルの上のカップが、床に落ちて派手な音をたてる。
だが、今はそんな事を気にかける余裕などはなかった。
まるでお腹の中をぐちゃぐちゃに掻きまわされているような痛み。
そのあまりの鋭さに、ユリアティエルは声を出すことも出来ない。
・・・痛い。痛い。痛い。
思考は停止し、助けを呼ぶなどという発想も出来ないまま、お腹を両手で抑えて蹲る。
気の遠くなりそうな痛みに、冷や汗が頬を伝う。
これは、一体・・・?
薄れそうな意識を辛うじて繋ぎ止めたその時、自分の腿に何か生温かいものが流れるのを感じた。
足元に目をやれば、床に赤いものが点々と散っている。
まさか・・・。
悪い予感が頭をかすめたその時、カップの割れる音を聞きつけたのであろうノヴァイアスが、血相を変えて飛び込んできた。
そして床に蹲るユリアティエルの姿を見て、その元へと走り寄る。
・・・何故そんな顔をするの。
今にも泣きそうな、置いていかれた子どものような、言いようのない不安で揺れる銀の瞳に、ユリアティエルは薄れゆく意識の中で問いかける。
それじゃ、まるで私を大事に思っているみたいじゃない。
私をこんな目に遭わせたのは貴方でしょう?
ノヴァイアス、貴方の考えていることが分からないわ。
ノヴァイアスの逞しい腕に包まれた時、ユリアティエルはゆっくりと意識を手放した。
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