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期待
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私はなんて愚かだったのかしら。
一瞬だけ、期待してしまった。
宿に泊まった時、見張りを置かれたとはいえ、ノヴァイアスは部屋を別に取ってくれたから。
以前と変わらぬ態度のままで、ユリアティエルに触れようともしなかったから。
もしかして。
もしかして、彼はカルセイランの部下として本当に私を迎えに来てくれたのかも、なんて思ってしまった。
そんな筈はないと、わかっていたのに。
愚かな私は見たい夢を見ようとしていた。
そして今。
ノヴァイアスの言う『隠れ家』の一室で、私は彼にベッドの上で組み敷かれていた。
「・・・怯えた顔も美しいですね」
上から見下ろしながら恍惚とした表情で、彼はそんな言葉を呟いた。
「ああ、カルセイラン殿下に操を守る必要はありませんよ。あの方には新しい婚約者が決まっていますから」
その言葉に思わず息を呑むと、ノヴァイアスは嬉しそうに微笑んだ。
「あの方も随分と粘られました。何度も術を破られてしまって・・・魔力も持たないというのに、あそこまで抵抗出来るものなのですね。感心しました」
改めてそう告げられて初めて、どこかでノヴァイアスを信じたいと思っていた自分に気づいた。
幼い頃から、ノヴァイアスはカルセイランの隣にいた。
影のようにいつもぴったりとカルセイランに寄り添い、支えていた。
そんな人が、カルセイランが一番の信頼を寄せていた男が、今、ユリアティエルの唇に自分のそれをゆっくりと重ねる。
思わず頬を打とうとして手を上げれば、即座に両手を捕まれ、捻り上げられる。
顔を逸らそうとしても、手でがっちりと顎を抑えられて動かすことが出来ない。
何度も角度を変えて唇を重ねられ、動揺と羞恥で気が遠くなりかけて、意を決して彼の唇に噛みついた。
「・・・っ!」
ユリアティエルからゆっくりと顔を離したノヴァイアスの唇からは、薄く血が滲み出て。
「・・・優しくされるのはお好みではないのでしょうか」
血を指で拭いながら薄い笑みを浮かべる彼の言葉に、ユリアティエルの背はぞくりと粟立つ。
「お願い・・・します。もう、止めてくださいませ・・・」
涙で視界が滲む。
恐怖で声が震える。
なのにノヴァイアスは、そんなユリアティエルを見てもただ目を細めるだけだ。
胸元のリボンをしゅるりと解き、襟元を広げる。
胸元を留めていたボタンを外し、肌を露わにしていく。
「ああ、思っていた通りですね。真っ白できめ細やかで、まるで陶器のように美しい肌だ」
記憶にある彼となんら変わらない穏やかな表情のまま、ノヴァイアスは衣服を剥ぎ取っていく。
「ノヴァイアスさま・・・お願いです。どうかこれ以上は・・・お止めくださいませ・・・」
置かれた状況に理解が追いつかず、これは現実なのかと疑問すら湧く。
なのにユリアティエルに触れるノヴァイアスの掌は熱く、悪夢であってほしいという願いも打ち砕かれる。
「泣いても叫んでも無駄ですよ。殿下は貴女が私とこうしてここにいることをご存知ありませんし、そもそも貴女のことをもう何とも思っておられない。じきに今の婚約者との正式な結婚の日取りも決まることでしょう」
ユリアティエルの頬を優しく撫でながら、ノヴァイアスは残酷な現実を耳元で囁いた。
「ユリアティエルさま。ノヴァイアスは貴女をずっとお慕いしておりました。まだ殿下の婚約者候補でもなかった幼い頃から、私は貴女ひとりをずっと見つめていたのです」
ノヴァイアスの手が、ユリアティエルの柔らかな丸みへと伸ばされる。
ユリアティエルはただ涙を流し、ノヴァイアスから顔を背けた。
そんな様子すら嬉しく思うのだろうか、ノヴァイアスの口元から妖しい笑みが溢れる。
そして、これ以上抵抗できないようユリアティエルの両手を頭の上で拘束すると、両手でやわやわとふくらみを揉みしだいた。
「貴女は私のものだ」
そう呟くと、ノヴァイアスは唇をユリアティエルの身体の上に這わせていく。
もう彼女には口をきく余裕もない。
出来ることと言えば、ぎゅっと目を瞑り、時間が過ぎゆくのをただ待つことだけだった。
一瞬だけ、期待してしまった。
宿に泊まった時、見張りを置かれたとはいえ、ノヴァイアスは部屋を別に取ってくれたから。
以前と変わらぬ態度のままで、ユリアティエルに触れようともしなかったから。
もしかして。
もしかして、彼はカルセイランの部下として本当に私を迎えに来てくれたのかも、なんて思ってしまった。
そんな筈はないと、わかっていたのに。
愚かな私は見たい夢を見ようとしていた。
そして今。
ノヴァイアスの言う『隠れ家』の一室で、私は彼にベッドの上で組み敷かれていた。
「・・・怯えた顔も美しいですね」
上から見下ろしながら恍惚とした表情で、彼はそんな言葉を呟いた。
「ああ、カルセイラン殿下に操を守る必要はありませんよ。あの方には新しい婚約者が決まっていますから」
その言葉に思わず息を呑むと、ノヴァイアスは嬉しそうに微笑んだ。
「あの方も随分と粘られました。何度も術を破られてしまって・・・魔力も持たないというのに、あそこまで抵抗出来るものなのですね。感心しました」
改めてそう告げられて初めて、どこかでノヴァイアスを信じたいと思っていた自分に気づいた。
幼い頃から、ノヴァイアスはカルセイランの隣にいた。
影のようにいつもぴったりとカルセイランに寄り添い、支えていた。
そんな人が、カルセイランが一番の信頼を寄せていた男が、今、ユリアティエルの唇に自分のそれをゆっくりと重ねる。
思わず頬を打とうとして手を上げれば、即座に両手を捕まれ、捻り上げられる。
顔を逸らそうとしても、手でがっちりと顎を抑えられて動かすことが出来ない。
何度も角度を変えて唇を重ねられ、動揺と羞恥で気が遠くなりかけて、意を決して彼の唇に噛みついた。
「・・・っ!」
ユリアティエルからゆっくりと顔を離したノヴァイアスの唇からは、薄く血が滲み出て。
「・・・優しくされるのはお好みではないのでしょうか」
血を指で拭いながら薄い笑みを浮かべる彼の言葉に、ユリアティエルの背はぞくりと粟立つ。
「お願い・・・します。もう、止めてくださいませ・・・」
涙で視界が滲む。
恐怖で声が震える。
なのにノヴァイアスは、そんなユリアティエルを見てもただ目を細めるだけだ。
胸元のリボンをしゅるりと解き、襟元を広げる。
胸元を留めていたボタンを外し、肌を露わにしていく。
「ああ、思っていた通りですね。真っ白できめ細やかで、まるで陶器のように美しい肌だ」
記憶にある彼となんら変わらない穏やかな表情のまま、ノヴァイアスは衣服を剥ぎ取っていく。
「ノヴァイアスさま・・・お願いです。どうかこれ以上は・・・お止めくださいませ・・・」
置かれた状況に理解が追いつかず、これは現実なのかと疑問すら湧く。
なのにユリアティエルに触れるノヴァイアスの掌は熱く、悪夢であってほしいという願いも打ち砕かれる。
「泣いても叫んでも無駄ですよ。殿下は貴女が私とこうしてここにいることをご存知ありませんし、そもそも貴女のことをもう何とも思っておられない。じきに今の婚約者との正式な結婚の日取りも決まることでしょう」
ユリアティエルの頬を優しく撫でながら、ノヴァイアスは残酷な現実を耳元で囁いた。
「ユリアティエルさま。ノヴァイアスは貴女をずっとお慕いしておりました。まだ殿下の婚約者候補でもなかった幼い頃から、私は貴女ひとりをずっと見つめていたのです」
ノヴァイアスの手が、ユリアティエルの柔らかな丸みへと伸ばされる。
ユリアティエルはただ涙を流し、ノヴァイアスから顔を背けた。
そんな様子すら嬉しく思うのだろうか、ノヴァイアスの口元から妖しい笑みが溢れる。
そして、これ以上抵抗できないようユリアティエルの両手を頭の上で拘束すると、両手でやわやわとふくらみを揉みしだいた。
「貴女は私のものだ」
そう呟くと、ノヴァイアスは唇をユリアティエルの身体の上に這わせていく。
もう彼女には口をきく余裕もない。
出来ることと言えば、ぎゅっと目を瞑り、時間が過ぎゆくのをただ待つことだけだった。
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