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お別れします
しおりを挟む衝立で仕切った奥の席に座っていたのはセシリエと彼女の兄ハワード、そしてハワードの親友でエーリッヒの兄でもあるアーノルドだ。
たまたまイアーゴと同学年だったというだけで、今日この場に駆り出されたエーリッヒ。ほぼほぼ初対面なのに出張ってくれた彼に、セシリエは礼を言おうと口を開きかけ。
けれど、「ばっちりだったぞ、弟よ」と言った兄アーノルドの方が早かった。
「ほら座れ。約束通り、好きなだけここのケーキを注文して食べるといい。お代は全部、金持ちのこいつが払ってくれるから」
こいつ、と指さされ、向かいに座っていたハワードは反射的に眉を寄せる。だがすぐに笑顔でエーリッヒに「君には感謝している」と話した。
「ケーキくらいお安い御用だ。お陰でイアーゴの考えを知れた。あんなくだらない言い分で妹を蔑ろにしていたとはな」
「ホントホント、こんな可愛いセシリエちゃんと婚約できたのに、何バカなことを言ってんだろうね。なあ、お前もそう思うだろ? エーリッヒ」
「うん、まあそれは・・・」
気まずそうに同意するエーリッヒに、セシリエはカフェメニューを差し出した。
「エーリッヒさま。今日はご協力いただき、本当にありがとうございました。どうぞケーキをお好きなだけ食べて下さいね」
「あ、ありがとうございます。僕も、この話は男としてちょっと見過ごせないと思ったので、お気になさらず・・・ええと、セシリエさんの役に立てたならよかったです」
エーリッヒが席に着いたのを確認すると、セシリエの兄ハワードが気遣わしげな視線を妹に向けた。
「セシ、どうする? あいつはお前を蔑ろにして女遊びを続けるつもりでいるくせに、結婚だけはする気でいるぞ」
「そうですね。今日はイアーゴさまの名言を聞けてよかったです。お陰で目が覚めました」
「名言?」
ハワードは微妙な顔で聞き返す。それに同意する様に、向かいの席に座る2人の頭も上下に動いた。
セシリエは苦笑する。
「名言ですよ。恋人にしたい人と結婚したい人とは別と聞いて、なるほどと納得しちゃいましたもの。確かに、恋人の場合は少しくらい冒険しても取り返しがつきますけど、結婚となったらそうはいきませんよね」
「それは・・・まあ、そうかもしれないが」
「結婚で冒険はできません。だから結婚するなら真面目で頭がよくてしっかり者と―――ええ、イアーゴさまの言う通りです、同意しかありません。私だって、結婚するならそのような方がいい。イアーゴさまみたいな人なんて、夫にしたくないですもの」
「セシ・・・」
「だからお別れします」
そうか、とハワードは妹の手を握った。
「・・・うん、そうだな。そうした方がいい。あんなろくでもない男なんか、こっちから捨ててやれ」
「はい、そうします。といっても、これからの話し合いにかかってますけどね」
「あ、そういう事なら」
頬杖をつき、黙って話を聞いていたアーノルドが手を上げる。
「俺も力になるよ。情報ギルド勤めのアーノルドさんは頼りになるよ? さっきの会話だって、ちゃ~んと記録石に収めておいたしね」
そう言うと、アーノルドは胸元のポケットをぽんと叩いてみせた。
すると、メニューを見ていたエーリッヒまでもが顔を上げ。
「ぼ、僕も何かできる事があるなら協力します」
と意気込んだ。
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