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あれほど似合いの二人はいない
しおりを挟むヨルンとラエラの結婚式は、予想以上に盛大なものとなった。
直前に参列希望者がどっと増えたのだ。元凶・・・いや、原因はトライスルフ第三王子が出席を表明したこと。
媚薬事件の後、トライスルフ直々に指名され、財務管理部から王子の側近に抜擢されたヨルンは自然、多くの貴族たちから注目される事になった。
自動的に爆上がりしたのが、政略結婚の相手としてのヨルンの価値だ。
そのせいで、夜会などでヨルンたちの周辺をウロチョロする令嬢たちの数もかなりの数に上る事になってしまったが、当然ながらヨルンとラエラの仲を割ける訳がない。
大方はラエラにぴったり張り付いているヨルンが撃退したものの、たまにヨルンの目をかいくぐってラエラに近づく強者令嬢もいた。
だが、ヨルンの愛を確信したラエラはまさしく『強いひと』となっていて、にっこり鮮やかに、そして時には嘘泣きまで織り交ぜて、奪う気満々の令嬢たちを追い払った。
『ヨルンさまがお可哀想だわ。5歳も年上の方がお相手だなんて』
『ええ、わたくしもそう思ったのですけれど、ヨルンさまったら、7歳の頃からずっとわたくしを望んで下さっていたそうですの。そのせいかしら、結婚の事では、前ロンド伯爵夫人からも感謝の言葉を頂いてしまったので、年齢だけを理由にお断りするのも難しいのですよね・・・ああでも、ヨルンさまと前伯爵夫人には、貴女さまのご意見をお伝えしておきますわね。きっと善処してくださいますわ』
最終的には、第三王子をして『あれほど似合いの二人はいない』と言わしめ、以降、二人の間に入ろうとする者はいなくなった。
そうして今日、迎えた大聖堂での結婚式は、王族のそれと並ぶ程の豪華絢爛なものとなった。
個人的な好みから言えば、ヨルンもラエラも慎ましい式を望む性質だが、今回のこれは完全に対外的な意味合いのものだ。
兄の婚約者だった女性との結婚、しかも5歳年上の女性で、二人が結婚したすぐ後には前当主夫妻はどこか田舎に引っ込むと言う。ラエラのかつての婚約者だったアッシュの動向を知る者はなく、その生存すら訝しむ声もあった。
ここで慎ましく密やかな結婚式を挙げようものなら、痛くもない腹を探る者が増えるのは明らかだった。
だから堂々アピールを兼ねて、とんでもなく豪奢な式にしたのだ。トドメは王族の参列。
結果、この婚姻の正当性に疑問を口にする者は、一人もいなくなった。
「ヨルン・ロンド。汝、妻を生涯愛する事を誓うか?」
「はい。僕はラエラさまおひとりを生涯愛し、慈しみ、大切にし、惜しみなく愛情を注ぎ、丁重に扱い、敬意を示し、日夜可愛がり、どんな艱難辛苦が臨もうとも、ラエラさまだけは必ず守り抜く事を誓います」
「「「「「・・・・・・」」」」」
誓います、というただひと言を答えるだけでいい筈が、ヨルンは長々とラエラへの愛と献身と忠誠を誓った。
参列者たちは呆気に取られ、大神官すら続く言葉を口にする事を忘れて口をぽかんと開けている。
しん、と大聖堂内が鎮まり返る中。
「ぷっ」
ただひとり、思わずと言った感じで吹き出した人物がいた。言わずもがなのトライスルフ第三王子である。
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