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謁見で爆弾発言
しおりを挟む結婚式での誓いの口づけをどうする事にしたのかは、当日のお楽しみにするとして。
ケイヒル伯爵領を訪れてから約10日後、オスカー・マンスフィールドは、王都カイネリアにある王城に来ていた。
国王アルリケに謁見する為だ。申し入れたのは4日前。
謁見目的が気になる国王アルリケは、跪き挨拶の言葉を述べるオスカーに少々前のめり気味で声をかけた。
「お前が謁見を申し込むとは珍しい。嬉しい報告があると聞いたのだが」
「はい。国王陛下には常々お気遣いいただいておりましたが、漸くお望みのご報告ができそうです」
王家の縁戚で、貴族最高位の公爵家当主であるオスカーは、アルリケのお気に入りだ。
秀でた執務処理能力と、騎士としても優秀な身体能力。見目もとびきりよく、領地は商業で栄え、財力も十分。
もしオスカーとリベットの年齢が近かったら、幼少期に婚約が決まっていただろう。
幼い頃の10歳差は大きく、幼少期はほぼ交流がなかった。というか、リベットがオスカーに興味を示さなかった。それが変化したのが、彼女が14か15になる頃。
我が儘で自分勝手な性格が苦手で昔からリベットを毛嫌いしていたオスカーに、突然まとわりつくようになった。
これまでずっと、令息たちを侍らせたり気に入らない令嬢を虐めたりと、リベットが王女として問題ありな行動ばかりしても、アルリケはいつも見逃してきた。
けれどリベットが20歳になる頃に漸く、アルリケはこのままでは娘が行き遅れてしまうと焦り始めた。
けれど当然ながら、この頃にはもう同年代の令息令嬢たちは、婚約どころか結婚している者がほとんどで。
そうでない令息となると、だいぶ年下か、あるいは年上―――となり、本格的にオスカー・マンスフィールドがロックオンされた。
だが、これまで幾度となくアルリケが娘との縁談を匂わせても、オスカーは首を縦に振らない。
いつまで経っても話が進まないせいで最近のリベットは癇癪を起こしがちで、アルリケは少々手を焼いていた。
もう最終手段で王命を出すか、などと思い始めていた矢先の謁見申請。いい様に誤解した国王は、その日を楽しみに待った。
いよいよ王女との婚姻を願い出る気になったとホクホク顔のアルリケは、すぐにリベットを呼べるように、控えの間で待機させる事にした。
どのタイミングで娘を呼ぼうかなどとアルリケが考えていると、なぜか背後からリベットの声がした。
「もうお父さまったら。わたくし抜きで大事な話を始めないでくださいな」
どうやら待ちきれなかったらしい。
「リベット、呼ぶまで待ってなさいと言ったじゃないか」
「だって、オスカーのする大切なお話を、わたくしも直接聞きたかったんですもの」
これは公式に申し入れた謁見、王女といえど乱入など許されない場の筈。
なのにそれを「仕方ない」で済ませてしまうのが、残念ながらアルリケ王とリベット王女なのだ。
リベットは、苦笑いする父親から視線を外し、オスカーに向かってにこやかに笑いかけた。
「随分と久しぶりね、オスカー。あなたったら、なかなかわたくしに会いに来てくれないんだもの。照れ屋すぎるのも問題ね。結婚後が心配だわ」
「・・・リベット王女殿下にはご機嫌麗しく」
「そういうのはいいから、早く肝心な話をして頂戴。お父さまもわたくしも、あなたが何の用件で謁見を申し込んだか、よ~く分かっているの。やっと決心してくれたみたいでよかったわ」
「・・・そうですか。お2人が既に明日の式の事を把握しておられるとも知らず、失礼しました」
「「・・・え?」」
オスカーがさらりと落とした爆弾発言に、アルリケとリベットがぴしりと固まった。
先に硬直が解けたのはアルリケだ。
「ちょ、ちょっと待て。オスカー、明日の式とは何の事だ」
「・・・ご存知なのですよね? 明日、私は式を挙げます」
「式? おい、それはまさか・・・」
「もちろん私の結婚式です。報告が不要だったとも知らず失礼いたしました。では、まだ準備が残っておりますので、私はこれで」
「ま、待ちなさいよ・・・っ!」
オスカーが一礼して踵を返すと、リベットが震える声で呼び止めた。
「あなた頭おかしいんじゃないの? 結婚式が明日ですって? そんないきなり言われても無理に決まってるじゃない。王族の結婚は、準備に時間がかかるのよっ?!」
「・・・は?」
オスカーは首を傾げ、不思議そうに答えた。
「私の妻になる女性は王族ではないので問題ないかと」
「・・・なんですって?」
「シャルロッテ・ケイヒル伯爵令嬢、まあ、明日にはマンスフィールド公爵夫人になりますが。私の一目惚れで急に決まった結婚なので、各貴族家への知らせもギリギリになってしまいました。せめて陛下には直接私の口からと思い、謁見を申し入れたのですよ」
「ひとめ、惚れ・・・?」
「ええ」
オスカーは誰もが見惚れるような笑みで段上の2人を見上げ、頷いた。
「出会ってまだひと月も経っておりませんが、これ以上はもう待てなくて」
―――直後、謁見室内に王女の金切り声が響き渡った。
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