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決着

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その後、灰と化したオズワルドは。


「・・・え? 帰したのですか?」

「もう聞き取りが終わったからな」



ラクスライン公爵邸のポーチにて、ケヴィンを前にルネスへの愛の誓いめいた言葉を叫んでしまったエリーゼは、その後、ルネスに背後から抱きしめられたまま今度は愛を叫ばれる事態になり、夜に熱を出した。
いわゆる知恵熱である。

熱は翌朝には下がったが、念の為にその日は休むことにして、さらにその次の日。
朝食の席で、エリーゼはアリウスとそんな会話をした。


「私、オズワルドとまだ話していないのですが」

「ああ、もうそれは解決したから気にするな」


解決?と首を傾げるエリーゼに、アリウスはそれよりも、と話題を変えた。


「お前たちの結婚式の準備を、そろそろ始めないといけないのではないか?」

「!」


アリウスの言葉に、エリーゼは思わず、カチャン、とカトラリーを落としてしまった。


アリウスは気にせず話を続ける。


「お前ももうすぐ十九になる。結婚式まであと一年だ。式場の予約や、ドレス用のデザイナーの確保、デザイン選び、記念品の選定、やることは山とあるぞ」

「は、はい・・・」


顔を赤くしたエリーゼは、メイドから新しいカトラリーを受け取りながら、言葉少なに頷いた。


「ああそうだ。ケヴィンが『花嫁のドレスは、出来たらクルルス産の絹を使ってください』と言っておった」

「ま、前向きに検討します」

「ラウエルも張り切っていたから、お前から手伝いを頼めば喜ぶだろう」


アリウスは憂いの晴れた顔で、真っ赤な顔で照れる娘に向かって微笑んだ。









その後、国王から、今回の薬草の密輸入に関しての沙汰が下った。

レフスタ侯爵家は、薬草を密輸入していた期間、本来なら支払われる筈だった関税額および国内での売買金額をそれぞれ二倍にして納めること。
その支払いをした場合、爵位を一つ落とすのみとされた。

支払い不能であれば、爵位を二つ落とした上で、未納分の代わりに所有領の三分の二を王家に返納することに。

ちなみに、計算してはじきだされた実際の支払い総額は、レフスタ侯爵領を売却したのとほぼ同額である。

どちらを選んでも、一つ落ちるか二つ落ちるかの違いはあるが、爵位が落ちることは確定であった。

儲けた金の二倍を罰金額としたのは、もちろん見せしめの為。最初から正直に払っていればよかったのに、と今後の為に皆に思ってもらおうということだ。


結果、レフスタ家は最初の罰―――全額を支払い、爵位を一つ落とす方を選んだ。

タウンハウスや別荘、所有する絵画や宝石、ドレスや装飾品、証券類などを売り払い、そこに個人資産なども足した上で領地を切り売りし、レフスタ領の三分の二を残すことに成功した。

これから十数年は王都に出て来ることもないだろう。必死に領地経営に励む筈。それが成功するか否かは、もっと先になってからしか分からない。


レフスタ家の手先となって動いていた伯爵家と子爵家は、もう少し軽い罰だった。
密輸入期間に儲けた金額をすべて王家に納め、一つ下に爵位を落とす。
そう、関税を含めた総額でもないし、二倍でもない。各家が儲けた金額を全納するだけだ。

ただし、密輸入をしていた期間は約八年。
八年分の儲けを一括で納めねば、残る道は爵位返上、つまり没落平民しかない。

これまで不正に儲けた金でウハウハしていた彼らが、平民となる未来をよしとする筈もなく、やはりレフスタ家と同じく必死で金策をして金をかき集め、何とか全額を納めた。

納めはしたが、彼らは元々がレフスタ家ほど資金力のある家ではない。
取り敢えず生き残れはしたが、じわじわと衰退していくことだろう。



そして、カリス公爵家。

裏帳簿により、国に報告していなかった金の流れが多く見つかった。

ただ、その裏帳簿の記載も隠語が用いられていた為、薬草の密輸入に直接結びつけることはできなかった。
その他、これまで国が摘発していた犯罪との関連も、同じ理由で関連を指摘することはできず。

ただし、膨大な金を未申告のまま懐に入れていたことは間違いなく、国王はその裏帳簿を元に追加徴税を命じた。
たった五年分の帳簿だったが、課された額は三年分の国家予算に匹敵するものとなった。

そして、これから五年は毎年国からの監査が、それからさらに十年は三年ごとに監査が入ることになる。

加えて、爵位を一つ落とした上で、現当主は爵位を嫡男に譲り隠居することが決まった。


これまで、ありとあらゆる悪事をずべてトカゲの尻尾切りで躱してきたカリス公爵家の醜聞は珍しく、しばらく世間を騒がせることになった。









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