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エリーゼ、暴走する
しおりを挟む「ええ、断言しますわ。オズワルドはすぐに次の相手を見つけるでしょう! もちろん、その相手の方がオズワルドでいいと言ってくださらなければ成立しませんが」
珍しくぽかんと口を開けるケヴィンに、エリーゼは自信満々にそう宣言した。
「そしてケヴィンさま。あなたは今も亡くなった婚約者のご令嬢を想っておられるのではないでしょうか。
その傷が癒える日が来るかどうか、私には分かりませんが、少なくとも言えるのは、目も眩むような美女が目の前に現れたくらいでは、ケヴィンさまの心はグラつかないでしょう!」
エリーゼの熱弁に驚いてはいるものの、美女にグラつかない、という言葉は肯定したいらしく、ケヴィンはこくこくと首肯した。
「そして私、エリーゼ・ラクスライン。この度はオズワルドと婚約破棄してわずか数か月で次の婚約者が決まりました。
そんな私が、何を言っても信憑性がないかもしれませんが、ここは敢えて言わせていただきます。
私は、ルネス以外の人は要りません。ルネスがいい。ルネスだからいい。ルネスが好きです。
ルネスに何かあったら、私は養子を取ります。一生結婚しません。そのくらい、私はもうルネスじゃなきゃ嫌なのです!」
話題がだいぶズレていることに、エリーゼは気づいていない。
そして段々と感情が昂って、声が大きくなっていることにも気づいていないだろう。
ついでに言えば、エリーゼが今どこにいるのかも、きっと気づいて・・・いや、この場合は完全に忘れていると言った方が正しいか。
「あの、エリーゼ嬢・・・」
「何でしょうか、ケヴィンさま。今、大事な話をしているところなので、最後まで聞いていただきたいのですが」
「あ、まだ終わっていなかったのですね」
「これからルネスの思いを語らせていただこうかと。私の希望的観測が多分に入ったものになりますが、きっと間違ってないと思います。
ルネスも絶対に私だけを愛すると言ってくれる筈ですか、ら・・・」
水が迸るかのようなエリーゼの言葉が急に勢いをなくしたのは、後ろから伸びた二本の太い腕が、エリーゼの体をぎゅううと抱きしめたから。
「エリーゼ」
「ル、ルネス・・・?」
後ろからすっぽりと覆いかぶさるように、エリーゼの体はルネスに抱き込まれていた。
その体勢のせいで、ルネスの頬はエリーゼのこめかみ辺り、口元は耳の上辺りにある。
ルネスの低めのバリトンがエリーゼの耳朶を打ち、エリーゼは意図せずぶるりと震えた。
「その先は俺に言わせてくださいませんか。あなたの希望的観測とやらは間違っていないと知っていますが、ここはぜひ俺にあなたへの愛を誓わせてください。
あなたからの熱烈な愛の言葉に全力でお応えしたい」
「き、聞いていたの?」
エリーゼの頬に熱が集まる。
「エントランスを抜けた先のポーチで大声で叫んでおいて、誰にも聞こえていないとお思いでしたか?」
「あ」
ルネスにしっかりすっぽり抱き込まれているエリーゼには見えていない。
彼の後ろ、柱の陰や調度品の間などに身を隠すようにして。
どれだけの家臣や使用人たちが、そこら中に立って耳を澄ませていたかなんて。
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