【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ？

進展

レフスタ侯爵家、そして彼の傘下にある伯爵家と子爵家の三家が共謀した薬草の密輸入については、アリウスは罪状と証拠をまとめた段階で王家に報告、後の裁決は国王に任せた。

常より貴族の利権を優先させる貴族派は、長年王家を悩ませる存在だった。
レフスタ侯爵家はそんな貴族派の中で三番手の勢力を持つ家。
裁可を任された国王は、さぞや嬉々としてこれから彼らに与える処罰を考えることだろう。


残ったのはラウロである。

既にカリス家から切り離され、ただの平民となったラウロに対し、罰を与えたところで自業自得なだけで、正直、政治的な旨味はない。

罰を下しても、おおかた執行者側が清々とするだけなのだ。

さてどうするかと考えていたアリウスのもとに、二つの朗報が入った。

一つは、カリス公爵家に潜ませた部下からの報告で、裏帳簿を手に入れたというもの。

前回の屋敷内捜索の際、ルネスが騎士団の諜報部門に属する部下を、どさくさに紛れて下人の中に潜り込ませていた。その者からであった。

あの日、ルネスたちが屋敷内の捜索を終えて引き上げた後、カリス公爵は侍従や執事らと共に裏帳簿を別の場所に移動させた。部下はしっかりその現場を確認し、裏帳簿を手に戻ってきた。


もう一つの朗報は、ラウロの証言であった。

本邸にいる他のカリス家とはほぼ無交流状態だったラウロだが、屋敷の外でカリス公爵家の面々とまったく遭遇しない訳でも、彼らについての話が聞こえて来ない訳でもない。
ふらふらと遊び歩く時間が長ければ長いほど、どこかで見かけたり、動向を知ったりする機会もそれなりに多くなるのだ。

さっさと切り捨てられたラウロは、温情目当てに、それら見聞きした情報を思い出せる限り喋り尽くすことにした。

いつ、どこで、誰を見かけたか。その時どんな話をしていたか、側に誰がいたか。
それに加えて、本邸を訪れるところを見かけた人物についての目撃情報も。

これが予想以上に役に立った。
重要な事実がいくつか判明したのだ。

そのうちの一つが、アリウスたちと同じ王家派に属している筈のある子爵家が、あちらに通じている可能性だった。
別の有力情報は、王城の財務管理部の職員が、賄賂を受け取って貴族派に有利なように書類に手を加えている可能性だった。


裏帳簿の確保に加え、これらの有力な情報が手に入ったことで、さらにアリウスたちの勢いは増した。




ケヴィンがオズワルドに会いに来たのは、そんな頃だった。