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オズワルドーー5
しおりを挟むキャナリーのことは友人の妹としか思っていなかったから。
女として意識なんてしてなかったから。
だから、デートの『予行練習』が浮気の証拠としてどんどん積み上がっていたなんて、オズワルドは想像もしなかった。
『エリーゼぇ・・・』
婚約解消ですらなく、婚約の破棄。
確定だった未来が消えていく。
でも、縋るような眼差しを向けたオズワルドに、エリーゼが手を差し伸べることはなく。
むしろサインしろと書類を突きつけることで、オズワルドの息の根を止めた。
その時のエリーゼは、とても綺麗だった。
緩く巻いて編み込んだエリーゼの薄紫の髪には、美しい細工の髪飾りが留められていた。
明るい水色のドレスは、色白のエリーゼによく似合っていた。
アクアマリンのネックレスと金の耳飾りが、キラキラ輝いていた。
エリーゼがあんなに綺麗だってことを、オズワルドはもちろん知っていた。
知っていて隠させた。分かってるのは自分だけでいいなんて、そんな気持ちですらなかった。
ただ、ただ、エリーゼに落ちてほしかった。
落ちて、落ちて、底辺まで落ちて。
公爵令嬢なのに残念、ひどい、あり得ないと皆から思われてほしかった。
そうしたら、オズワルドが拾い上げてやるつもりで。
そう、そうしたらきっとオズワルドは―――
(・・・そんなことを考えていたから、バチが当たったのかな)
「こんにちは、こちら本日のお届けものです」
「ああ、どうも」
玄関先のポーチに腰かけて、花壇に咲いた薄紫色の花を眺めながらぼんやりしていたオズワルドに、配達人が声をかけた。
誰も外にいなければ、門の脇に設置された専用の箱に配達物を置いていく。
だが、人が外にいる時は、直接手渡すのが普通だ。
と言っても、領地の隅っこに蟄居中のオズワルドに、そんなに頻繁に連絡物が来ることはない。
せいぜいが両親や兄たちからの手紙、後は請求書の類だ。
「・・・うん?」
今日届いた手紙は二通。
一通は、商会からの請求書でジェラルド宛て。今週の初めに食料品や衣料品などを購入した分だ。
そしてもう一通は、オズワルド宛ての、差出人不明の手紙だった。
訝しく思いながら、その場で封を切った。
『元婚約者であるエリーゼ・ラクスライン公爵令嬢は、あなたが迎えに来るのをずっと待っておられます』
「へえ・・・」
低い呟きがオズワルドの口から溢れた時、ジェラルドが慌てて屋敷から飛び出してきた。
そして、オズワルドの手に開封された手紙があるのを見て、大声を出した。
「坊ちゃま! 恐らくそれは、坊ちゃまを罠にかける為に書かれた手紙です・・・っ!」
「うん、そうだろうな」
オズワルドの返事に、ジェラルドは、え、と間の抜けた声を出した。
「本当にエリーゼがオレを待ってるなら、本人がそう書いて寄越してるもんな」
(そうだよ。そう思っていたなら、あの時もそう書いた筈だ)
ここに来てすぐの頃、オズワルドは何度も何度も、復縁を願う手紙を書いて送っていた。
けれど、返事が来たのは一回だけ。しかも、『あり得ません』とたったひと言。
(だから、この手紙に書いてあることが本当の筈がないんだ)
本当だったらいいとは、思うけれど。
その後も、何度か同じ内容の手紙が届いた。
だが、オズワルドはすべて無視した。ジェラルドもそれでいいと言っていた。
けれど、ある日。
「差出人の名前が書いてある・・・」
オズワルド宛てに、ラウロ・カリスと名乗る人物から手紙が届いた。
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