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オズワルドーー3
しおりを挟むオズワルドに婚約者の扱いに関して苦言めいたことを口にしたのは、子爵家嫡男のケヴィン・クルルスだった。
ケヴィンは婚約者と非常に仲がよかった。
王立学園は男女で校舎が分かれているが、昼食はいつも中庭で落ち合って、二人一緒に食べていた。
オズワルドはもちろんエリーゼを誘ったことはない。
地味で大人しくなったとはいえ、腐っても公爵令嬢のエリーゼだ。
一緒にいたら、皆の注意がエリーゼに行くかもしれないと思うと、誘う気にもならなかった。
だから、渡り廊下の窓から婚約者と昼食を取るケヴィンの姿を見かけるたび、物好きな奴らだと思っていたのだ。
だが、第二学年。
夏の長期休暇が終わった学園で、オズワルドはケヴィンの婚約者が亡くなったことを聞いた。
隣国に家族旅行に出掛け、その帰途で崖崩れに巻き込まれたらしい。一家全員が死亡した。
学園に登校したケヴィンを、オズワルドは遠目に見かけた。
少し痩せはしたものの、いつもと変わりない様子のケヴィンに、オズワルドは拍子抜けした。
(・・・何だ。ケヴィンは別に、婚約者が好きだった訳じゃないんだな。上手い演技にすっかり騙された)
それでも、オズワルドはケヴィンをけっこう気に入っていたから。
『大丈夫だ。お前の家は金持ちだから、次の婚約者なんかすぐ見つかるよ』
次に会った時に、そう言って励ましてやった。
ある日のことだった。
オズワルドは、放課後に談話室に行こうと渡り廊下を進んでいた時、窓の向こうの風景の中にエリーゼの姿を見つけた。
渡り廊下の西側は中庭に、東側は校門に面している。
今回オズワルドがエリーゼを見たのは東側で、女子クラス棟から出て来た薄紫色の頭が、校門近くの馬車停まりに向かって歩口に後ろ姿を見つけたのだ。
馬車停まりで待機している馬車の前では、出迎えで一人の護衛騎士が立っていた。
昔はオズワルドも懐いていたけれど、今はすっかり大嫌いになったルネス・マッケンローだ。
(ふん・・・気に入らない)
チッと舌打ちして、オズワルドは止めていた歩みを再開した。
けれど、目の端でルネスが突然走り出すのを捉え、再び足が止まった。
その時、外で正確に何が起きていたかオズワルドには分からない。
だが、改めて視線を戻した時には、ルネスはエリーゼを片腕で抱き込んで、もう片方の腕で、落ちてきた大きな枝を払い退けていた。
『・・・っ』
払われ地面に落ちたその枝がポロリと形を崩したこととか、ルネスが何事かを指示して御者の男が学園校舎の方へと走り出したこととか。
オズワルドは、それらのことには気が回らず、ただルネスがエリーゼを抱き込んだ光景ばかりが頭の中を占めていた。
ルネスに関して、よからぬ噂が立っているのをオズワルドは知っている。
『・・・っ、遊び人め。エリーゼはオレの婚約者だぞ。
エリーゼもエリーゼだ。どうしてその男の頬を引っ叩かないんだ・・・っ』
オズワルドは吐き捨てるように呟いた。
自分が公爵家に入ったら、すぐに配置換えをしてやろう。あんなのは門番くらいで丁度いい。
そう考えることで湧き上がった怒りを何とか呑み込んだオズワルドは、今度こそその場を後にした。
やがて卒業を迎えた。
結婚を機に領地に戻るパターンが多いこの国では、それまでは王都に残って人脈作りに勤しむ者がほとんどだ。
二十歳に結婚を予定していたエリーゼとオズワルドもそれに倣って、卒業後も王都のタウンハウスにそれぞれ留まっていた。
卒業の数日後、若者だけのパーティが催された時、オズワルドは珍しくそこにエリーゼを誘ってやった。
だが、エリーゼは生意気にもオズワルドの誘いを断ったのだ。
(エリーゼのくせに・・・っ)
オズワルドは苛立ちのままに、バルコニーで友人たちにエリーゼへの不満を口にした。
―――それが自分の運命を大きく変えることになるなどと、この時のオズワルドは思いもしなかった。
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