【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮

文字の大きさ
上 下
49 / 75

オズワルドーー3

しおりを挟む


オズワルドに婚約者の扱いに関して苦言めいたことを口にしたのは、子爵家嫡男のケヴィン・クルルスだった。

ケヴィンは婚約者と非常に仲がよかった。
王立学園は男女で校舎が分かれているが、昼食はいつも中庭で落ち合って、二人一緒に食べていた。

オズワルドはもちろんエリーゼを誘ったことはない。
地味で大人しくなったとはいえ、腐っても公爵令嬢のエリーゼだ。
一緒にいたら、皆の注意がエリーゼに行くかもしれないと思うと、誘う気にもならなかった。

だから、渡り廊下の窓から婚約者と昼食を取るケヴィンの姿を見かけるたび、物好きな奴らだと思っていたのだ。



だが、第二学年。

夏の長期休暇が終わった学園で、オズワルドはケヴィンの婚約者が亡くなったことを聞いた。

隣国に家族旅行に出掛け、その帰途で崖崩れに巻き込まれたらしい。一家全員が死亡した。

学園に登校したケヴィンを、オズワルドは遠目に見かけた。
少し痩せはしたものの、いつもと変わりない様子のケヴィンに、オズワルドは拍子抜けした。


(・・・何だ。ケヴィンは別に、婚約者が好きだった訳じゃないんだな。上手い演技にすっかり騙された)


それでも、オズワルドはケヴィンをけっこう気に入っていたから。


『大丈夫だ。お前の家は金持ちだから、次の婚約者なんかすぐ見つかるよ』


次に会った時に、そう言って励ましてやった。






ある日のことだった。

オズワルドは、放課後に談話室に行こうと渡り廊下を進んでいた時、窓の向こうの風景の中にエリーゼの姿を見つけた。

渡り廊下の西側は中庭に、東側は校門に面している。
今回オズワルドがエリーゼを見たのは東側で、女子クラス棟から出て来た薄紫色の頭が、校門近くの馬車停まりに向かって歩口に後ろ姿を見つけたのだ。

馬車停まりで待機している馬車の前では、出迎えで一人の護衛騎士が立っていた。

昔はオズワルドも懐いていたけれど、今はすっかり大嫌いになったルネス・マッケンローだ。


(ふん・・・気に入らない)


チッと舌打ちして、オズワルドは止めていた歩みを再開した。

けれど、目の端でルネスが突然走り出すのを捉え、再び足が止まった。

その時、外で正確に何が起きていたかオズワルドには分からない。
だが、改めて視線を戻した時には、ルネスはエリーゼを片腕で抱き込んで、もう片方の腕で、落ちてきた大きな枝を払い退けていた。


『・・・っ』


払われ地面に落ちたその枝がポロリと形を崩したこととか、ルネスが何事かを指示して御者の男が学園校舎の方へと走り出したこととか。
オズワルドは、それらのことには気が回らず、ただルネスがエリーゼを抱き込んだ光景ばかりが頭の中を占めていた。

ルネスに関して、よからぬ噂が立っているのをオズワルドは知っている。


『・・・っ、遊び人め。エリーゼはオレの婚約者だぞ。
エリーゼもエリーゼだ。どうしてその男の頬を引っ叩かないんだ・・・っ』


オズワルドは吐き捨てるように呟いた。


自分が公爵家に入ったら、すぐに配置換えをしてやろう。あんなのは門番くらいで丁度いい。


そう考えることで湧き上がった怒りを何とか呑み込んだオズワルドは、今度こそその場を後にした。







やがて卒業を迎えた。

結婚を機に領地に戻るパターンが多いこの国では、それまでは王都に残って人脈作りに勤しむ者がほとんどだ。

二十歳に結婚を予定していたエリーゼとオズワルドもそれに倣って、卒業後も王都のタウンハウスにそれぞれ留まっていた。

卒業の数日後、若者だけのパーティが催された時、オズワルドは珍しくそこにエリーゼを誘ってやった。

だが、エリーゼは生意気にもオズワルドの誘いを断ったのだ。


(エリーゼのくせに・・・っ)


オズワルドは苛立ちのままに、バルコニーで友人たちにエリーゼへの不満を口にした。




―――それが自分の運命を大きく変えることになるなどと、この時のオズワルドは思いもしなかった。









しおりを挟む
感想 254

あなたにおすすめの小説

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...