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オズワルドーー2

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お互いの領地が離れていたから、婚約を結んだ後も会うのは年に数回程度。

それでも、会える時が嬉しく待ち遠しく、そしていざ会えれば離れがたかった。


なのに。


いつから間違えていたのだろう。

どこから間違えてしまったのだろう。

誰も何も言わなかったのに、何かを吹き込まれた訳でもないのに、オズワルドはいつの間にか、勝手に卑屈になっていった。





『兄さん。この間ボクが借りた本ね、エリーゼはもう読み終えてるんだって!』

『そうか。さすが次期公爵家当主だな。優秀な婚約者で、お前も誇らしいだろう』

『うん! エリーゼはすごいんだ!』





『今日はオズの婚約者にやっと会えて嬉しかったよ。可愛らしい子じゃないか。それにお前のことを好いてくれている』

『はい! ボクもエリーゼが大好きです!』

『それはよかった。せっかく素敵な相手に恵まれたんだ。大切にするんだよ』

『もちろんです!』


エリーゼを褒められると、自分のことのように誇らしく思えた。そんな時期が、オズワルドにも確かにあったのに。




『エリーゼにプレゼントを贈ろうと思うんです』

『そうだね、髪飾りなんかどうだい? あの子の髪は綺麗な薄紫色だから、真っ白でも逆に濃い色でも映えると思うよ。
それをつけてお洒落をして出かけたら、きっと皆があの子に見惚れるよ』




『アリウスが、エリーゼちゃんを領地の視察に連れて行ったそうだよ。そしたら、お嬢さまお嬢さまって、領民に囲まれて大変だったんだって。
エリーゼちゃんは可愛いから、領民たちも浮かれちゃったんだろうな』

『父上、ボクも視察に行きたいです』

『婿入りするお前がゴーガンの領地を視察してもしょうがないだろう。結婚したら、エリーゼちゃんに連れて行ってもらいなさい』




『エリーゼちゃんのお婿さんになれるなんて、オズは幸運なのよ。
将来は平民になる可能性だってあったのに、公爵家の一員になるのだもの。
エリーゼちゃんを大切にしてあげるのよ。絶対に嫌われるようなことをしてはダメよ』



それらの言葉に何も間違ったところはなかった。

けれどいつからか、オズワルドの耳には違った意味で聞こえるようになっていた。

エリーゼは素晴らしい子で、オズワルドはそのおまけ。
皆が見ているのはエリーゼで、皆に求められているのもエリーゼ、期待されているのも、価値があるのも、みんなみんなエリーゼ。


エリーゼが褒められるたびに。

エリーゼを大切にしろと言われるたびに。

エリーゼがいればオズワルドの将来は安泰だと言われるたびに。

オズワルドの中の何かが少しずつ変わっていった。


オズワルドは自分がエリーゼを幸せにすると思っていた。けれど違った。勘違いだった。
何でも持っているエリーゼを、オズワルドより優れているエリーゼを、オズワルドが幸せにできる筈がなかった。

エリーゼを幸せにするのではない、エリーゼがオズワルドを幸せにするのだ。
持っている者がない者に与える。そう、オズワルドとエリーゼの関係はそのようであるべきだ。

そんな風に思うようになったオズワルドは、やがて自分の言動のにエリーゼが傷つくのを見るたびに、仄暗い喜びを胸に抱えるようになっていく。

エリーゼの後ろに立つ護衛騎士の存在もまた、オズワルドは気に入らなかった。
昔はオズワルドとエリーゼのやり取りを微笑ましく見ていたくせに、近頃はオズワルドが何か言うたびに鋭い視線で睨みつけてくる。

不愉快だから、一度エリーゼの護衛から外そうとしたこともあった。
けれど、初めてエリーゼが抵抗した。それもまたオズワルドは気に入らなかった。


そうしてどんどんと拗れていったオズワルドとエリーゼの関係は、学園入学の為に王都に移動して、さらにギスギスしたものになって。



『もっと婚約者を大事にした方がいいのでは?』


そんな小賢しいことを言ってきたのは、同学年の、けれど別クラスの、子爵家の後継ぎの少年だった。











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