【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮

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出奔

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「え? オズワルドが?」


夜会でルネスが公開プロポーズをしてから三日後。

二人の仲は計画通りに周知されたものの、正式な婚約発表はこれからだと、アリウスとラウエルが日取りを選んでいた時、ラクスライン公爵邸に二通の手紙が届いた。


一通はゴーガン侯爵からで、もう一通は蟄居中のオズワルドの側付きのジェラルドから。

ただし、ジェラルドはこれまでも逐一ゴーガン侯爵に報告を入れていたらしく、手紙に書かれていた内容に、ほぼ差異はなかった。

そう、どちらも内容は同じ―――『オズワルドが蟄居先を抜け出して王都に向かっている』だったのだ。







ゴーガン侯爵の領地外れにある小さな屋敷。

そこで蟄居を命じられていたオズワルドには、掃除洗濯料理などを行う数人の通いの使用人の他は、側付きのジェラルドのみが付けられていた。

ジェラルドは、領地にある方のゴーガン侯爵邸で執事を務めていた中年の男性で、エリーゼとも面識がある人物だ。

オズワルドの乳母がジェラルドの姉だったこともあって、オズワルドが子どもの頃から、使用人という枠を超えて彼の成長を見守ってきた。

そんなジェラルドは当然、オズワルドとエリーゼの婚約破棄を聞いて悲しんだし、そこに至った経緯を知るとさらに悲しんだ。

そして、オズワルドの処遇が決まると、本邸での執事職を辞して、蟄居先でオズワルドの世話係となることを志願したのだ。


ジェラルドからの手紙には、オズワルドが蟄居中の屋敷を飛び出した経緯が書かれていた。


蟄居して間もない頃は、エリーゼとの復縁を願い、毎日のようにエリーゼ宛ての手紙を書いていたオズワルドだったが、段々と落ち着いていったという。


だが、ある日オズワルド宛てに一通の手紙が届いた。差出人不明の怪しい手紙だった。

ジェラルドは当然、中身をあらためた。


『元婚約者であるエリーゼ・ラクスライン公爵令嬢は、あなたが迎えに来るのをずっと待っておられます』


とんでもない内容だ、とジェラルドはその場で破り捨てた。

オズワルドを貶める意図しか感じられなかったからだ。

その後、日を置いて二通目が届いたが、ジェラルドは受け取ってすぐに破り捨てた。

だが、三通目。

ちょうど庭に出ていたオズワルドが、配達人から手紙を直接受けとってしまった。

オズワルドはその場で開封した為、ジェラルドが気づいて外に出てきた時には、既に文面を読み終えていた。


だが、ジェラルドが危惧したような反応はしなかったという。


『坊ちゃま。恐らくそれは、坊ちゃまを罠にかける為に書かれた手紙です』


焦って大声を出したジェラルドに、オズワルドは『そうだろうな』と苦笑したらしい。


『本当にエリーゼがオレを待ってるなら、本人がそう書いて寄越してるもんな』


その返事を聞いて、ジェラルドは悲しみを覚えつつも、ホッと安堵した。

これなら心配ない。きっと、このまま大人しく蟄居先であるこの屋敷で大人しく暮らしてくれると。

そう思って安心したのだ。



―――だが。









「ふむ・・・」


両方の手紙に目を通したアリウスは、顎を撫でながら思案した。


「一週間前に届いた手紙に対する反応は違った・・・か」



ジェラルドは、何度オズワルドを止めても屋敷から抜け出そうとした為、気づかぬうちに居なくなって動向が分からなくなるよりは、と出奔に同行しているという。

お蔭で、オズワルドが今どの辺りにいるかも手紙で報告されている。


「この手紙を書いた時点でマンテスだったら、明日には王都に着くな・・・」


もう一度手紙に視線を落とし、内容を再度確認した後、アリウスはベルを鳴らした。


「旦那さま、お呼びでしょうか」


現れたマシューに、アリウスは短く、エリーゼとルネスをここに呼べと言った。












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