【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮

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一件落着、そう一件は

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ケヴィンが噂を拡散する時に雇っていた男性二人と、その伝手で見つけた若い女性。

その三人に、身バレ防止の為の軽い変装を施して、台詞はケヴィンが考えたのを暗記させ。


『もっと悲壮な感じで』『そこは声を張り上げて』『手で目元を覆うだけで泣いて見えるから』などと演技指導をしてから臨んだ本番は、完璧な出来だった。


アリウスやラウエルはもちろん、マシューや私設騎士団の騎士たちまでノリノリで、役者ばりの演技力を発揮した結果、目撃した夫人たちや侯爵、また彼の従者らは、自分たちが本当の捕縛現場に遭遇したと信じたことだろう。

どこの家の誰が捕まったのか、正確には何の容疑だったのか。
詳細な情報は何ひとつ出ていないのに、皆は裏で家同士の取引があったのだろうと勝手に納得している。

同じく、あの時ラクスライン公爵邸に連れて来られた令嬢は誰だったのかという疑問も、皆が勝手に妄想を膨らませては心の中で答えを出して終わらせてくれていた。

実際には、騎士たちが捕まえた令嬢はこちらが用意した偽者だし、最大の捕縛理由である『悪漢にナニカを依頼した』というのもまったくの嘘である。

だが、そこにつながる行動―――ルネスに恋慕した令嬢たちが、エリーゼとルネスを結ばせまいとして好き勝手な噂をでっちあげたこと―――は紛れもない事実だ。

そう、つまりは、その件に関する犯人だけはきちんと存在している訳で。

その為、これまでその噂を威勢よく触れ回っていたであろう令嬢たちは、今やいつ自分に懐疑の目が向けられるかとびくびくしながら暮らさなくてはいけなくなった。

もう彼女たちは、公の場でも私的な場でも噂を口にすることはできないし、しない。した途端に『令嬢たち』の一人と認定されるからだ。

むしろ、その『令嬢たち』の中に自分が含まれていないことを証明する為に、今後はもうルネスに関心がないと、言葉でも態度でも周囲に示さねばならない。


こうして、すっかり外野は静かになり、社交界の流れは完全に二人に―――エリーゼとルネスに味方した。


そうして、次の夜会。

エリーゼは、ルネスのエスコートで出席した。

地味で控えめでパッとしないエリーゼはもういない。

洗練されたデザインのドレスを身にまとい、美しく髪を結い上げたエリーゼは、ルネスの隣で幸せそうに微笑んでいた。

そして、この夜会でルネスは。


「お嬢さま、いえ、エリーゼ・ラクスライン公爵令嬢。あなたをずっと想っておりました。
私ルネス・マッケンローは、あなたを一生涯、全力で守り抜くと誓います。どうぞ私のこの手を取ってください」


周囲が見守る中でエリーゼの前に跪き、皆の前でプロポーズをした。



この時。

会場の柱の陰から、ラウロ・カリスが歯ぎしりしながらその様子を見ていたことを、二人は知らない。


そしてもう一つ。

この夜会から数日経って、ラクスライン公爵家にとんでもない知らせが届くことも、まだ知らない。








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