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原因ーールネスの場合
しおりを挟むルネスは、噂の出方になんとなく引っ掛かるものを覚えたという。
エリーゼとケヴィン―――噂の対象となった二人のその組み合わせに、何らかの思惑を感じたのだと。
「夜会や茶会でお嬢さまのパートナーを務めていたのは俺なのに、そのことは完全無視で、公の場で言葉を交わした回数が十にも満たないケヴィン殿との噂ばかりが囁かれる。
意図的に流した噂だと思い、その大元を探ることにしました」
そう説明するルネスの表情は、申し訳なさに満ちていた。
噂の発信源が、ルネスに好意を持つ令嬢たちだったからだ。
原因の一つは自分だとルネスが言った理由はそれだった。
その令嬢たちは、護衛対象として常に側にいるエリーゼのことを常から面白く思っていなかった。
ルネスはいつもエリーゼの護衛として付いていて、社交の場に出ることもほとんどない。
それが、ついに夜会に出席したと思ったら、エリーゼのパートナーになっているのだ。
しかも、まるで恋人のように常に側に寄り添い、片時も離れない。
護衛として無表情で側に付いていた時はまだ仕事だと思えた。
だが、今回は違う。
社交の場でルネスが優しくエリーゼに微笑みかけていたことも、ダンスを一緒に踊ったことも、飲み物を代わりに取ってあげることも、すべて令嬢たちの神経を逆撫でした。彼女たちには到底許容できなかったのだ。
―――権力でルネスさまを縛りつけて。きっと命令されているのよ。このまままだと結婚も強要するかもしれないわ。断れないのをいいことに好き勝手するなんて許せない。
嫉妬で燃え上がった令嬢たちの身勝手な妄想は、膨らんでいった。
―――ルネスさまをお助けしなければ。そうよ、解放してさしあげないと。他の殿方と結び合わせるのはどうかしら。ちょうどいたじゃない、ほら時々お話する人が。あの人、確か婚約者を事故で亡くしてるのよ。
―――傷モノ同士でちょうどいいじゃないの。
噂を広めていた令嬢たちの中には、以前ルネスにまとわりついてラクスライン公爵家から苦情を申し入れられた令嬢もいた。
苦情を入れてその後は大人しくなったが、心の中では納得していなかったのだろう。その令嬢は、今回噂を特に熱心に触れ回っていたという。
「・・・本当に申し訳ありませんでした」
そう言って深々と頭を下げたルネスに、エリーゼはルネスのせいではないと言った。
身勝手な嫉妬に燃えた令嬢たちの責任だと思ったからだ。
「そんな噂を言って邪魔したくなるほど素敵なパートナーだったってことよね。むしろ勲章だと思うことにするわ」
「ですが・・・」
「本当にあなたのせいではないから、気に病む必要はないわ、ルネス。それより・・・」
エリーゼは、ルネスから受け取った報告書の後半部分に目を落とした。
「問題はこちらよね。このことはお父さまには・・・?」
「まだです。今ちょうど会合に出ていらして屋敷におられないのです。
それで先にお嬢さまにお見せしようとこちらに」
「そう・・・。これを知ったら、お父さまはきっとがっかりなさるでしょうね。
ケヴィンさまを、信用していらしたように見えてたもの」
溜め息を吐きながらそう言ったエリーゼに、ルネスも同意した。
「俺も付き合いは短いですが、彼のことは頼りになる人物だと思い始めていたので、そのことが分かった時は少しショックでした。まさか騙されていたとは」
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