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夜会の後

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「おお、帰ったか、ルネス。今夜は随分と注目を集めていたな」


無事に秋の社交初日を終え、ラクスライン公爵家のタウンハウスに戻ってきたルネスは、エリーゼを部屋まで送り届けた後、報告の為にアリウスのもとへ向かっていた。


「いやぁ、綺麗に着飾ったエリーゼを見て、驚愕する者たちの顔を見るのは愉快だった。それに、ルネス狙いの令嬢たちの視線もすさまじくて笑えたし、ケヴィンがエリーゼに話しかけた時は皆、息を呑んでたな。
陛下が入場されるまで、お前たち三人ばかりに注目が行ってしまったから、今年デビューの令嬢方とその親に悪いことをしたと申し訳なく思ってしまったぞ」


ちっとも申し訳なさそうに話すアリウスは、ニヤニヤと―――こう言っては何だが、少々人の悪い笑みを浮かべていた。
そんなアリウスの軽口を聞き流し、ルネスは早速、今夜の報告に入った。


「ご指示通り、今日お嬢さまに不埒な目的を持って接触を試みた令息は、私が全て追い払っておきました。家格は男爵家から侯爵家までと様々です。ただ、旦那さまが特に注意するよう仰った人物は・・・」

「ああ、私も遠くから見ていたよ。今夜は近づいて来なかったな」


それからアリウスは少し思案した後に、執務机から一枚の紙を取り出してルネスに渡した。


「取り敢えず、寄って来た令息らの名前をここに記しておいてくれ。私の記憶と相違ないか確認してから、今後の対応を考える」

「かしこまりました。・・・あの、旦那さま。彼らは皆、お嬢さまに釣り書きを送って来た者たちなのですか?」


ペンを取りながらルネスが尋ねると、アリウスは軽く肩を竦めた。


「いや、全員ではないな。今日寄って来た連中の中には、婚約者持ちもいたし」


―――ベキッ


「おい、ルネス。それは私のペンだぞ。勝手に壊すな」


「・・・すみません、つい指に力が」


名前をいくつか書き出していた紙は、折れたペンから零れ出たインクで真っ黒に染まり。

アリウスが渋々と新しい紙とペンを渡すと、ルネスは無言で名前を書き連ねていき、今度は無事に提出となった。

受け取った紙をテーブルの傍らに置きながら、それにしても、とアリウスが口を開いた。


「三か月も経ったというのに、ケヴィンの登場はなかなかの注目度だったな。まあ、醜聞だけが注目の理由ではなかったとしても、あれだけ人の目がある中で和解をアピールできれば十分だ。
今後、ケヴィンがエリーゼの周りを多少うろちょろしたとしても、さほどの騒ぎにはならないだろうよ」

「・・・うろちょろさせるおつもりなのですか」

「あいつにはあいつの役目があるからな」

「・・・それが何の役目かお聞きしても?」

「前に合わせた時に協力者と言っただろう? お前の手の届かないところや、一人では手が回らない時のサポート役とでも考えておけばいい。
まあ、あいつは基本、勝手に動くだろうから放っておけ」

「・・・分かりました。ですが、最後にもう一つだけお聞かせください。なぜ、ケヴィンを協力者に?」

「なぜ、ケヴィンかって?」


アリウスは、にやりと笑った。


「あれは策を練るのが得意だからな。引き入れて損はない」













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