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お礼参り

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さて、本日、僕とアデラインは王城にやって来ている。


もちろん、事前に約束はしてあるよ。

そしてその約束の相手とは、王太子殿下と王太子妃殿下のお二人だったりする。


そう、前に僕と義父がちゃんと話し合えるようにと心を砕いて頂いたそのお礼に伺ったのだ。

何せ、義父との話し合いに関してはお二人の骨折りのお陰で上手くいったと言ってもいい。


だから、その感謝をきちんとお伝えしたくて。

そう、しっかりお礼。

しっかり。


・・・するつもりでここに来たのに。



「セス~」

「せす~」


何だろう、この既視感。


肩には第二王子殿下。膝には第一王女殿下。


そして今回は、真向かいに第一王子殿下までいらっしゃる。


ニコニコと穏やかに微笑む第一王子のレクシオは「弟と妹が世話になりました」と逆に僕にお礼を言ってくる始末だ。



それから、もちろん今回の王城訪問の目的であるお二人もここにおられる訳で。


第一王子殿下の右と左に、ルシオン王太子とキャスティン王太子妃が座っておられたりする。


ルシオンさまは、たぶん第二王子殿下と第一王女殿下の懐きっぷりについて、既に妃殿下から聞いておられたんだろう。
僕に引っ付くお二人の姿を、少し困ったように眉を下げて見ておられた。


つまり、今の僕の状況は、緊張、緊張、緊張、ただその一言に尽きるのだ。


「いやあ、信じてもらえないだろうけどね、これでうちの子たち、普段はけっこう人見知りするんだよ?」


そんなお言葉がルシオン王太子殿下から発せられたけれども、おっしゃる通り、信じることは出来そうもない。


「そうなのですね。セスには、生まれた家に五つ年の離れた弟がおりますの。ですから、お子さまたちとの距離感が上手く取れるのかもしれませんわ」


アデラインは緊張しつつも、そう答えて楚々と笑う。


はあ、アデライン。今日は君が隣にいてよかった。

僕の隣にアデラインがいてくれる。その事だけが、今回の唯一の救いと言うべきか。


「なるほどね」

「だから子どもの扱いに慣れているのかな」


僕は愛想笑いを浮かべながら、そっとカップに手を伸ばす。


お二人の殿下に間違ってもお茶をかけてしまうことがないよう、ゆっくりとカップを口に運んだ。


「すまないね。子ども達がどうしても君たちに会いたいというものだから。でも、このままじゃ真面目に話も出来ないかな。従者を呼んで子ども達を連れて行ってもらおうか」

「「え~」」


可愛く頬を膨らませるお二人に、ルシオンさまは「大切なお話があるんだ」と言い聞かせてその場を去らせた。


ここでようやく本題に入れる、と思った時に、まだレクシオさまが残っておられることに気づく。


いや、お礼を言うだけだから、別にここに残られても構わないと言えば構わないんだけど。

会話の内容に気をつけなくてはいけなくなるから、正直言うとレクシオ殿下にもこの場を離れて欲しいかな。


だけど、なぜかレクシオ殿下は、椅子に縫い留められえたかのようにじっと動かない。


ルシオン王太子とキャスティン王太子妃は、視線をレクシオ殿下に移された。


そのレクシオ殿下の視線は、まっすぐに・・・


まっすぐに、アデラインに。



えええええ?


なに、この視線。まっすぐにじっと見つめて。

ちょっと頬も赤くなってるし。

なんで? レクシオ殿下、八歳だったよね?

アデラインは、もうすぐ十七だよ?


いやいや、ちょっと待って。ちょっと。


「レクシオ」


キャスティン王太子妃が静かに名前を呼んだ。


はっとキャスティン王太子妃の方に顏を向けたレクシオ殿下は、その呼びかけの意図を察して慌てて立ち上がる。


「失礼しました」


だけど、その眼はまだ、やっぱりアデラインに注がれていて。


「それではまた、お会いできるのを楽しみにしています。セシリアン殿、そしてアデライン嬢」


そう述べてから、名残惜しそうに去っていった。


「・・・」

「・・・」


さて、どうしよう。

なんて言ったらいいんだろう。


こういうことに疎いアデラインも、さっきの熱視線には、何か思うところはあっただろうし。


ていうか、どういう事態なの、これ。


相手が第一王子殿下ってヤバくないか。


なんて思っていたところで。



「うふふっ、やっぱりね。血は争えないわ」

「いや、もうそれ言うの止めようよ、キャス。いいかげん忘れてって」

「だって、あんまりにそっくりなんですもの」


やたらと楽しそうな(困ったような)声が聞こえてきた。


「・・・?」


僕たちがお二人に視線を遣れば、逆に思わせぶりな視線を返される。



まさか、アデラインをレクシオ殿下の婚約者に寄こせとか言わないよね?


と、緊張が走ったところで、キャスティン王太子妃の悪戯っぽい笑みが何も心配いらないと教えてくれた。


「あんなだったのよ」

「・・・はい?」

「あんなだったとは・・・何がでしょうか」


ちょっと、キャス、と慌てるルシオン王太子をよそに、キャスティン王太子妃は言葉を続ける。


「ルシオンが昔、アーリンさまにお熱だったときも、あんな感じだったの」

「・・・え?」


あ。

そう言えば、前に夜会で会った時にそんな感じの話を聞いたような。


「年齢差も同じくらいだし、ぼーっと見惚れているところも同じ。本当に血は争えないわね」

「いや、だから恋とかじゃないって! 単なる憧れっていうか、恋に恋するお年頃だったっていうか!」


だから会わせるの嫌だったんだよ、と頭を抱える姿は、先ほどお子さまたちがおられた時の余裕たっぷりの態度とは、まったくの真逆で。

僕たち二人はちょっと笑ってしまって。


そんな僕たちをキャスティン王太子妃とルシオン王太子が嬉しそうに眺める。


ただの憧れだから気にしないで、と言いながら。


「良かった。緊張が解けたみたいね」

「ああ。恥ずかしい作戦だったが、効果はあったようだ」


なんて言葉まで聞こえて来るものだから。


これは、僕たちに気を遣って、わざわざ黒歴史を暴露する様な事をしてくれたのかとここで気づく。


まだ前回のお礼も言えてないのに、もう別にお礼を言わなきゃいけないことが増えてしまったと焦り始めた僕だった。


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