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一歩、先へ
しおりを挟むエウセビアとアンドレのなんだかんだで、結果、僕とアデラインの距離が縮まったのは、思わぬご褒美だった。
10歳の時に出会って、想い続けて6年半。
もうあと半年足らずで義父の設定したリミットがやって来る。
結婚相手を変更出来るというギリギリのリミットが。
僕に夫になって欲しいとアデラインは前に言ってくれたけど、それでもまだ、好きという一言は貰えていなかった。
そんなギリギリでやっともらえた愛の言葉は、それが僕にもたらした力は、それはそれは凄いもので。
頑張れば不可能はないんじゃないか、とか。
望めば何にでもなれるんじゃないか、とか。
そんなとんでもない錯覚を僕に起こさせる程だ。
・・・まあ現実には、君を悩ませ続ける義父の態度すら、解決出来ずにいるんだけど。
ふわふわとした万能感に浸れるのは、目の前に好きな相手がいる一瞬だけだ。
ちっぽけな若造でしかない自分が、心から愛する女性に出会えただけで、世界一の男に変われる筈もない。
アデラインに見合う男になれるかどうか、彼女を一生守れる男になれるかどうかは、全てこの先の僕次第なのだ。
いよいよ明日。
アンドレの義兄、ジョルジオがここを訪れる。
エウセビアとアンドレの気持ちは固まった。
その気持ちを真っ直ぐに持ち続けるには、まず両家を説得しないといけない。
理想は、ジョルジオがデュフレス公爵家を継いで、アンドレが侯爵家に婿に入ることだ。
一番綺麗にまとまるし、波風を立てることなく話を終わらせられる。
そのためにも、明日の話し合いで、アンドレとジョルジオが腹を割って話せるといいけれど。
エウセビアへの告白で、昨日は明らかに動揺していたアンドレだったが、今日は少し落ち着いてきた。
二人の明るい未来のためにも、話し合いが上手くいって欲しい。
そして、この騒ぎが落ちついたら僕も。
僕も、義父と話し合ってみよう。
アデラインのことを。
義父は決してアデラインを嫌っている訳ではない。むしろ顔は会わせないけど気にかけていると思う。
だけど、アデラインにとってはそんなの何の意味もない。
本当は心では思っているよ、と言われても、心なんて見えないものを根拠にされるより、見えるもので判断するのが普通だろう。当たり前の話だ。
あれだけあからさまに避けられて、避けられ続けて、もうそれこそ何年も。
しかも父親だ。たった一人残った肉親だ。
それを拒否されて、なのに嫌っていないと言われたって、そんなの。
信じられないよね。
僕の気持ちを受け入れることすら、何年も躊躇していたアデラインだ。
どんな尤もな理由があったとして、実の父親がアデラインを傷つけていい筈がない。
だから。
アンドレたちの話がまとまったら、動こう。
ノッガー侯爵に理由を聞こう。
素直に教えてくれるかどうか分からない。だけど。
どうせ僕たちが結婚したら、義父はすぐにこの屋敷から出て行くつもりでいるんだ。
そうなったら。
理由を知りたくても、何も分からずに終わってしまう。
だとしたらアデラインの心は、ずっと不安を抱えたまま、愛に怯えたままだ。
やっとアデラインが前に動きだそうとしたんだ。
愛は怖いものじゃない、安心できるものだって。
そこにそれがあるだけで、幸せで、自分をさらに前へと奮い立たせてくれるものだって。
それは人を傷つけるものじゃない、強くするものなんだって。
君に、アデラインに、分かって欲しいから。
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