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サシャの振りまいた噂が全くの勘違いから来るものだったと皆に知れ渡るまでに、さほど長い時間はかからなかった。


そして、サシャのイノシシのような愛情の矛先は、先月のまとめてパーティでの謝罪以来、僕だけではなくアデルにも向けられるようになり、今では彼女は僕たち二人が一緒にいると「王子と姫、尊い・・・」などと呟きながらうっとり見惚れるようになっていた。うん、よく分からない。


毎日のように突撃されなかったかって?

勿論されたよ。

意味不明の勘違いは起こらなかったのかって?

勿論あったに決まってるじゃないか。


でもね、最近ちょっとしたコツが分かるようになったんだ。


あの子には、言葉でやんわりとか、何も言わずに行動で拒否するとか、嫌味を言って遠ざけるとか、そういうやり方は絶対に通用しない。


だからこの際、きっぱりと分かりやすく条件を提示した訳だ。


ノッガー家に遊びに来るなら、頻度は二週間に一度。

それとは別に、お茶会などの社交なら開催は一か月に一度。


訪問の先触れは最低でも二日前に。


文通は可。ただしアデラインとのみ。週に一回のやり取りとする。毎日手紙を書くのは不可。

勿論、僕たちがヤンセン商会を利用した事による行き来はそこにカウントしない。


などなど、である。


こんな感じに紙に書き出して目の前で一つ一つ説明すると、意外にこれが功を奏したのだ。


どこからが「やり過ぎ」行為になるのか、どこまでなら良いのか、はっきりと文字化したのが良かったらしい。


ふむふむと頷きながら僕の説明を聞いて納得すると、突然の屋敷訪問などはなくなった。


まあそれでも、会話とかしてると『大好きフィルター』がかかった状態のサシャは、僕とアデルの言葉を都合よく解釈しそうになる事は多々あるけどね。


最近は、ちょっとサシャに関して勘が良くなってきたから、「ここはヤバいな」って箇所は分かるようになってきた。


・・・結果。


きちんと距離を保ちつつ、それなりにやって行けるようにはなったかも。


「セシリアンさま、アデラインさま。今日は、二日前に届いたばかりのショルシム国の陶磁器をお持ちしました。ノッガー産の茶葉と抱き合わせで茶器セットとして売り出すのはどうかと」

「へぇ、見せてくれる?」

「はい、こちらになります」


本当、商人としては有能なんだよね。


「面白いアイデアだね。それに、陶磁器に絵付けされた模様も独特で魅力的だ」

「ええ、とても綺麗。これは人気が出るかもしれないわね」


僕たち二人の反応に、サシャは目を輝かせる。


「もし取引していただける様でしたら、他領が手を出さない様に、ヤンセン商会と独占取引契約を結ぶのはどうでしょう?」

「うん、いいかもしれない。でもまずは義父に相談してからだけどね」

「承知しました。あの、では、セシリアンさま。そして、アデラインさま」

「うん?」

「はいサシャさま、何でしょうか?」


どうしたの、全身が震えているよ?


心配して、思わず体を前に傾けたその時。


サシャは紅潮した顔をがばりと上げた。


「・・・えらい、よくやったと褒めて下さいぃっ!」

「「・・・」」

「セシリアンさま?」

「・・・あ、ああ。そうだったね。えと、えらいね、サシャ嬢」

「アデラインさま?」

「あ、はい。その、素晴らしいです。良くやって下さいました」

「ありがとうございますっ! これからもサシャ・ヤンセン、お二人の明るい未来のために頑張りますっ!」


・・・ああ。

サシャの後ろに、ぶんぶん振れる尻尾が見える・・・気がする。


うん、もはや定番となったこのリアクション。

友人というよりは、ペットみたいなイメージが、どうしても拭えないんだよね。

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