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証の言葉
しおりを挟む「セス、これって・・・」
アデラインは目の前に置かれた箱を開け、中を見て驚いていた。
まん丸に見開かれた目がとても可愛らしい。
「アデルに似合うと思ってさ。こっそり頼んでおいたんだ。ほら、アデルの髪と眼の色だったから」
細かな彫りが施された銀細工の台座に嵌め込まれた、カットされた大きな黒曜石。
そして、黒曜石を囲むようにして散りばめてあるのは美しくカットされた小粒のトパーズ。
髪飾りを見つけた店で頼んでおいたプローチだ。
「注文して周りにトパーズを入れてもらったんだ。だから同じ品は他にないんだよ」
「・・・セスの瞳の色ね」
「・・・うん・・・」
独占欲、丸出しみたいで恥ずかしいけど。
言っても、いいかな。
まだ早いかな、一歩引かれるかな。でも。
「・・・僕たちは、いつも一緒だからさ。今までも・・・これからも。だから、そんな願いを・・・込めてみたんだ」
そのブローチに。
僕の言葉を聞きながら、アデラインは掌の上に箱を乗せ、プローチをじっと見つめていた。
「ありがとう、セス。とても綺麗ね。それにこの・・・」
「え?」
「ううん。とても・・・気に入ったわ」
アデルはプローチの入った箱をぎゅっと抱きしめた。
それから「でも」と少し眉を寄せて微笑む。
「これではわたくしの刺繍したハンカチなんかじゃお返しにならないわ。プレゼントが素敵すぎるもの。わたくしも何かセスに買って・・・」
「ううん、刺繍したのが欲しい」
慌ててアデルの言葉を遮る。
「すごく欲しいよ、アデルが刺繍したやつ。出来ることなら何枚でも」
君が大切に一針、一針、心を込めて刺す姿を、僕はこの目で見ているもの。
「でも・・・」
「お願い、アデル。遠慮してる訳じゃないんだ。本当にそれがいいんだよ。実を言うと、その練習中のやつだって欲しいくらいなんだから」
「え?」
あ。言っちゃった。
ついポロッと本音が出てしまった。
「練習したものでも・・・?」
「・・・う、うん」
これは・・・もしかしたら引かれちゃうかな。
「ふっ、ふふっ。セスったらもう・・・」
あれ?
何が面白かったのか。
アデルが両手で口元をおさえて、クスクスと笑っている。
「ご、ごめん。変なこと言ったかな」
「ううん」
そう答えながらも、アデルはまだ笑っている。
そんなに面白いことも言ってないけどな。
笑いすぎじゃないの?
それに、少し顔が赤くなってるよ、アデル。
暫くしてやっと笑いが止まり、アデルは改めて姿勢を正した。
「ありがとう。そんなにわたくしの刺繍したものを大切に思ってくれて。・・・これからは毎年貴方に贈ることにするわね」
「え?」
「毎年、貴方のために刺繍を入れたものをプレゼントとして贈るわ。・・・感謝を込めて」
「・・・」
毎年。
多分、アデラインは意図していなかったと思う。
だけど、その約束の言葉は僕にとって特別な響きを持った。
だって毎年だよ?
この先もずっと、ずっと続く約束なんだ。
たとえ僕たちの関係が義姉弟のままだったとしても、あるいは運良く恋人に発展したとしても。
僕を夫に選ばなかったとしても、君が生涯独身を貫いても。
君は、僕がこれから先も君の近くにいることを当たり前みたいに思ってくれた。
その証の言葉だから。
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