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64日目―決死―

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 アイリーンの寝室で、棺桶から出される。
 一週間ぶりに蛍の体温から引き離されて、梓はべとべとになった口の周りをあかりに拭かれた。
 何度果てたかなんて、数える意味を失っていた。果てていない時間を計った方が早いぐらいだった。
 同じく官能の残滓のせいで喘ぎ声を漏らし続ける蛍を見て、梓はアイリーンに言った。
「……もう、やめて」
「あら、あなたも一緒に蛍さんを堕とす係に加わりたい?」
 ネグリジェ一枚のアイリーンを睨んで、全身を朱に染め上げた梓は言う。
「それは、嫌だ。蛍ちゃんを折るのは、あんたたちでやれよ。できるもんならね」
「まだ痛めつけ足りなかったかしら?」
「んっ……。でも、幹部権限の放棄、ならしてもいい」
「……………というと?」
 とろんとしていたアイリーンの目が、一瞬できりりと吊り上がる。
 乳首を引っかかれて喘ぎ声を漏らしながら、梓はアイリーンに言った。
「セキュリティ組んだの私だから、どうせ私の権限、凍結できてないんでしょ? それじゃ困るだろうから、手伝ってあげようって言ってんの」
 アイリーンは考える。
 現状は、まあ梓の言う通りだ。所長をはじめ上が警戒する『外敵』を退けるのに梓が組んだセキュリティ網は不可欠で、万が一にもそれを停止させてはならない。だから、梓は家畜に堕とされていても、未だに権限は幹部のままで。
 本人がそれを差し出すというなら、それに越したことはないが。
「見返りはなに?」
 アイリーンが問うと、梓は瞳を泳がせて、誰にも聞こえないようにぽそりと呟いた。
                 
■■■
                    
 そして、酸欠気味で朦朧としていた朝宮蛍は。
 いつの間にか、野茨梓の顔が間近に迫っていることに、吐息がかかる距離になってはじめて気づいた。
「…………あずさ?」
 唇に触れる、暖かく柔らかい感触が、返事だった。
 ただ、軽く触れるだけのキスを落とされて、きゅ、と弱く抱きしめられる。
 手を回すべきか、中空に腕を泳がせて迷っているうちに、梓は体を離して、ベッドから降りた。
「大好きだよ」
 今にも泣きそうな笑顔でそれだけ言って、踵を返される。
 それきり振り返らず、アイリーンに連れられて部屋を出て行く梓に。
 蛍はさまよわせたままの両腕で、自分の体を強く抱いた。
―――ほんっとうに、意味が分からない。
 さんざん強引に舌を入れられてきたはずなのに。
 弄ぶように抱かれることも一度や二度じゃなかったのに。
 そもそも、私の体を壊したのはあいつなのに。
―――どうしてこんなに………っ。
 ぎゅうう、と体を抱いてうつむく蛍。
 野茨梓は、もういない。

■■■

「あんなんでよかったの?」
 『蛍ちゃんを抱きしめてキスしたい』としか要求しなかった梓が、アイリーンはいよいよ理解できなかった。
 仄かな微笑みを浮かべたまま、薬を飲み、アイリーンから拝借した服を纏って、梓は返す。
「良いんだよ。十分。さあ、早くやろう」
「せっつかないでよ……」
 がりり、と奥歯を噛んで、梓は指令室のコンピュータを起動させる。
 後ろでは、梓の首筋にアイリーンが手を添えた。
「わかってるでしょうね」
「あいあいさー。じゃあやることを確認するよ」
「どうぞ」
「まずは、こっちで独自にいじくりまわした権限を一つ一つ私の管理下から分離させる。全て外したら、まとめてアイリーンの管理下に置きなおす。それでいい?」
「セキュリティ止まらないでしょうね?」
「止まらないよ。ああでも、拡張したいならアンタがやってね」
 やらないわよ、とは悔しくて言わないが。
 沈黙を同意と捉えたのか、梓は操作を開始する。
『ログイン機能』『他者への権限付与』『監視カメラへのアクセス権』など、次々と武器を分離させていく。画面上に妖しい所はないし、脈も正常だ。
―――杞憂かしらね。
 ふう、と息を吐いたアイリーンだったが、そこで所内アナウンスが轟いた。
『やめさせろ』
 ぎくり、と二人して体を固める。
 監視カメラ越しに、真壁沙羅の声が、もう一度響いた。
『アイリーン。今すぐそのモルモットを抑えろ。今すぐにだ。私もそちらに行く』
「え、あ……ああ、ちょっと! とりあえず止まりなさい!」
「…………っ!」
 なおもがしゃがしゃ動く梓の腕を掴み、椅子を引いて押し倒す。
 間もなく真壁沙羅が入ってきて、梓の腹を踏みつけた。
「ぐっ、あっ! なん、だよっ! なんもしてないだろ!」
「嘘をつくな」
 毬のように腹を蹴って、沙羅はアイリーンを見る。
「おい、問題がないか精査しろ。絶対にあるはずだ」
「で、ですが……。脈は正常値でしたよ?」
「そんなの知るか。肩のこわばり、妙に多いタイプミス、しきりに顔を弄る手。全てこいつが何か企んでいるときの仕草だ。とにかく調べろ」
 そう言って、沙羅は梓を横抱きにする。
 背骨がきしむほどの強さで締められて、うめき声が漏れた。
「う、ゔあっ」
「おい、モルモット」
 地下牢へと運びながら、沙羅は低くつぶやいた。
「何か出てきたら、覚悟しろよ」

■■■

「あああ、止め、ろぉぉ、あ、くっそ、イっぐ、ああ!」
 結果が出るまで楽しんでいろ、と沙羅に服を剥かれ、不感剤の無効化薬を飲まされ、貞操帯をはめられて。
 そのなかに入るだけローターを詰められて最大振動で固定されて、梓は牢の中で狂ったように体を震わせていた。
 いくつも入れられたローターは相互に振動し、弾きあい、梓の陰核と膣内を蹂躙する。
 貞操帯の隙間から夥しい愛液を漏らして、梓は内腿に力を入れて、また果てる。
「あ、あん……っくはあああああああああっ!」
 必死で貞操帯を掴み、何とか外そうともがくが、そのせいで中身がさらにシャッフルされ絶頂する。
 そうした粗雑な責めが、何時間続いただろうか。
 唐突にスイッチを切られ、梓はべしゃりと愛液の水たまりに沈む。
 その頭を踏みつけ、沙羅は冷徹に言った。
「アイリーンが、見つけたぞ」
「………あ、あ」
「『セキュリティ管理者の全権限の分離』がトリガーになっている自爆プログラムが、メインサーバーの最深部に隠されていたそうだ」
 沙羅が取り出したのは、梓を何度も苛んだ例の鞭で。
「……いや、だ」
「脈は、直前に鎮静効果のある行動でもしたか。好い人でもできたのか? モルモット風情が」
「いやだ、出せ、出してっ、いやだぁぁああああああああああっ!」
 這いつくばって鉄格子を揺する梓の背を、沙羅は全力で鞭打つ。
 皮膚が裂ける音と、甲高い悲鳴が連続した。
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