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43日目―蹂躙、蛍編―

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 蛍のカウントが間違っていなければ、前日の金曜日から何かが変だった。
 日中の運動が終わると、ベッドにくくられて快楽漬けにされるはずのところを、なぜかその日は拘束されず。一本の注射を打たれて、ベッドに体を寝かせられた。
 まだ夕方と呼ぶにも早い時間だったはずだ。
 そして、土曜日、午前零時。
 薬で強制的に眠らされていた蛍は、びーっ、という無機質な音に起こされる。
 ちかちかとモニターが点滅していた。
『衣服の着用、及び一切の抵抗を許す。存分に暴れて。野茨梓』
「やれやれ、私ももう若くないんだがな」
 白い部屋の扉が開いて、腕やら腿やらにベルトを巻いた長身の女が入ってきた。
 女は雑に切られた髪を後ろで束ねて、蛍に言う。
「さっさと服を着て構えろ。時間が押してるんだ」
「服は着るけど……。なんなのよまったく」
「あ? まさか何の説明も受けてないのか?」
 ったく、使えないな。と女は顔をしかめて、簡潔に告げる。
「私の名前は真壁沙羅。お前の敵で、在任中は、そして多分今もここで最強だ。半分隠居してたんだが、飼い猫が鳴いてせがんできたものでな。これから12時間、お前のスパーリング相手をする」
「………話が読めないんだけど」
「それならそれで構わない。よし、服は着たな」
 いきなりだった。
 ひゅ。と沙羅が距離を詰めて、その勢いのまま蛍の顔面に拳を突き出す。蛍は慌てて首をひねるが、それを予期してたかのように拳はフックに変わって側頭部に迫る。
「……っ!」
 沙羅の手を掴み、蛍は浅く息を吐いた。
「拒否権はないのね」
「呑み込みが早い」
 互いの息がかかる距離で見つめ合う。
 沙羅を突き飛ばして、蛍は掌を反らして指を曲げる。掌底。繊細な指の骨を守りながら、まともに喰えば脳震盪は免れない。
 でも、これは当たらない。
 沙羅の鼻をへし折る軌道は、途中で掴まれる。薄い笑みを浮かべる長身の女に、蛍は一歩近づいた。距離を詰めたかった。視界を奪いたかった。掌を開いて、押し付ける。沙羅の目に影ができる。できた死角、腹に、蛍は思いっきり逆の拳を突き立てた。
 拳の勢いで、沙羅が後ろに吹き飛ぶ。いや、バックステップで衝撃を抑えられた。
 くるり、と逆立ちするように回転して着地する沙羅の笑みに、攻撃を与えたはずの蛍が顔を歪ませた。
―――外された。
 刺さったはずの拳には、芯を捉え損ねた嫌な感触が残っている。

■■■

 スパーリングとは名ばかりの真剣勝負が始まってから、30分が経過していた。
―――強いな、この女は。
 男とも女とも腐るほど戦ってきた沙羅だが、目の前の人間の強さは五指には入る。
 浅い息を吐きながら、蛍が再び向かってくる。すでに肺は限界なはずだ。体には乳酸が貯まっているだろう。しかし顔には出ていない。きゅきゅ、と強い踏み込みの後、矢のような掌底が腹に迫る。
―――これは、囮。
 腕で弾いてスリップさせようとした沙羅の手を、蛍が掴む。ゼロ距離。足首を引っかけられ、そのまま体重をかけられる。
 並みの相手なら、このまま寝技で詰みだろう。
 だがそれは、並みの相手だった場合だ。
「惜しい」
「なっ……⁉」
 足払いに筋肉と体幹で無理やり耐える。そうすると、沙羅にとっては自分より非力な相手が抱き着いてきただけだ。
 一瞬だった。
 蛍の首を掴んで、沙羅は地面に叩きつける。
 受け身は取れるだろうと信頼した。
 そして、予想通りの動きをする蛍の両手をひとまとめにして、頭の上に固定した。
「あ、くっ、そ!」
「良い抵抗だ」
「が、……っ」
 腹を一発、全力で殴る。
 内蔵に響く痛みに冷たい汗をどっと流した蛍に、沙羅は唇の端を歪ませた。
 体に巻いたベルトの1つで、痛みに硬直する蛍の手首をぱちりと止める。
「さて、仕事は終わった。楽しませてもらうぞ。強い負け犬」
 
■■■
 
 土日の調教は内部研究員間では相互に閲覧可能になっている。
 蛍と沙羅のスパーリングも、当然記録され配信されていて。
 今日は二人の観戦者がいた。
 その内の一人、アイリーンはへえ、と感嘆のため息をつく。
「真壁部長にここまで食い下がるなんて、相当ねえ。ねえ、あなたは何分保ったんだっけ」
 問いかけて、ぺしぺしと椅子を叩く。
 正確には、それは椅子ではない。一糸纏わぬ姿で四つん這いを強要されている、アイリーンが一番かわいがっている茶髪の助手だ。
「はぅ、……わたしは、10分ぐらいかと」
「まあ瞬殺されないだけすごいのだけどね。でも、あのクソガキのペット以下って言うのはどうにも気に食わないわ」
「す、すみませ……ひゃ……あっ」
 つー、と指で背筋を撫でて、アイリーンは笑う。
「股、広げてもらえるかしら? 触りにくいじゃない」
「は、い……ひうっ! ぅあ、あ………ぁっ!」
「あら、そんなに声を我慢しなくてもよくってよ? いつもと違って仮面も取っているのだし」
 アイリーンが渡したのっぺりとした仮面は、今は適当に放ってある。
 襞を開いて、女陰をくちゅくちゅと鳴らしてやると、開かれた太ももを伝って淫液が流れる。
 腰が震え出して、アイリーンはぴしゃりと尻を叩いた。
「こおら、座り心地が悪いわよ」
「あんっ! も、申し訳……ああっ!」
 ぶるぶると震えて、それでも必死に体を揺らすまいと耐える健気な姿を肴にして。
 アイリーンは目の前で始まった強姦をニタニタと鑑賞した。
 
■■■
 
 もう一人の観戦者、野茨梓は。
 両手の自由を奪われ、びりびりと服を破かれる蛍を、眺めていた。
「あ、あはは……。あのクソ野郎相手によく粘ったなあ。勝つまではいかなかったけど、こりゃいよいよ最高の駒だ」
 セリフとは裏腹に、その顔は暗い。
 ひび割れた笑顔の底には、泣きそうな少女の素顔が見え隠れしていた。
―――私は、研究者だ。
 生まれてから与えられたのがそれしかないのだから、梓の心のよりどころはそれしかない。
―――だから、最善策を選ぶのが当然だろう。
 蛍に実戦経験を積ませ、梓としても駒の戦闘力を正確に把握し、あわよくばかつての警備体制のトップを上回れないかを、安全に試せた。
 最高の出来だ、最高の結果だ。
 それを選び取れなかった日が、梓の最後の精神的支柱が折れる日だ。
 でも、本当は。
―――蛍ちゃんには、勝ってほしかったなあ。
 力なく立ち上がって、梓はモニターの電源を落とす。
 無理やり体を押さえつけられ、犯されるように昂らされている蛍が昔の自分と重なって、どうにかなってしまいそうだった。
 100日の調教で、梓は沙羅の人となりをよく知っている。
 1日貸出しを要求されなかった時点で、あのクソ野郎の考えていることは手に取るようにわかっていた。
 こち、こち、と進む時計の音に体を震わせて、梓はずりずりと自室の床に座り込む。
『封殺した後は、楽しませてもらうぞ』
 沙羅がわざとわかりにくく、誤解を招くように繕った返信の末尾の一文が、梓の心を縛り上げた。
 蛍との12時間が終わった時が。
―――わたしのじごくの始まりだ。
 
■■■
 
 最初に飲ませられた薬は、体を『投薬前』の状態に戻すものだったらしい。
―――命令されればやるが、薬漬けは趣味ではないのでな。
 そう言って触ってくる沙羅の指遣いは、荒っぽいくせに的確で。
 最初の三時間は、手を縛られてひたすら敏感な場所を責められた。
 足は縛られていないからもがくことはできたけれど、それが余計に惨めだった。悶えて、鳴いて、結局イかされ続けた。
 その次の三時間は、うつ伏せにされて、カエルのように足を割り開かれて、足で股間を愛撫された。
 電気あんまというらしいが、詳しいことはわからない。震えて、刺激されて、投薬前がというのが嘘であってほしいと思うほど、雑な責めで何度も果てさせられた。腰を突き上げていくたびに、敵に女陰も肛門も晒していることが思い出されて涙が出そうだった。
 でも、それもその後の四時間を考えれば、楽だったかもしれない。
 もう抵抗する体力も気力もなくなった蛍は、快楽を逃がそうと必死で首を振る。
「……ぐっ、そ、あ、あああうっ……」
「耐えろ。感度は常人並みだろう」
 盛大に音を立てて蛍の陰核を吸い上げて、沙羅は蛍の股の間から言う。
 だが、感度が戻っても陰核の大きさは戻らないので。
 しごけるほどの大きさの急所を舌で上下左右にこねくり回されて、蛍は腰をびくっ、と突き上げて果てた。
「いや、っくあああああ、っくぅぅぅぅうううっ!」
「果てたな」
 イった直後だった。
 ずどんっ、と沙羅の拳が腹筋を貫いて、蛍はひしゃげたような悲鳴を漏らす。
「っご、あぁ、っ‼」
 びりびりと、蛍の体を貫通して床が振動するほどの衝撃。
 どっと汗をかいて呼吸困難に陥る蛍の顔を、沙羅はのぞき込む。
「どうした、限界か? 許しを請えば助けてやるかもしれないぞ」
「…………こんなの、余裕よ」
「そうか」
 そしてまた、ひくひくと震える蛍の股座に顔を埋めて、匂い立つ肉壺に舌を差し込む。
「……ぅ、ふ、ああっ! あああん、んんんんんんっ!」
 髪を振り乱して悶える蛍に容赦なく刺激をあたえつつ、沙羅は感心していた。
―――一撃喰らえば、大抵は泣き叫ぶんだがな。
 蛍が受けた打撃は、もう10回は超えた。地面と挟まれた背骨への衝撃も壮絶なものだし、もしかしたら内臓を傷つけているかもしれない。
 それでなお、この反骨心。
 また絶頂が近いのか、ぶるぶると震え出した腰を上からぎゅっと抑えて、沙羅は内心で笑う。
―――軟弱な猫だったが、差し出してくる供物は中々だ。今夜は優しく抱いてやらねばな。
 梓のことを考えていたら、蛍がまた絶頂を迎え、愛液をぷしゃ、と噴出した。
 
■■■
 
「ぁ、………ぁ、ぅ」
「そろそろ契約切れか」
 涼しい顔で時計を見る沙羅とは対照的に、痛めつけられイかされ続け、地面に這いつくばる蛍。
 惨めな敗者を足で蹴って仰向けにして、沙羅はズボンと下着を引き抜いた。
「……な、にを」
「お前ばかり気持ちよくなるのも不公平だろう。私も楽しませろ」
 すでに洪水のようになっている蛍の女陰に、自らのそれを重ね合わせると、火傷するかというぐらいの熱が伝わってきて。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と。沙羅は蛍の足を持って自らの陰部とぶつけ合い、自慰のようにして快楽を貪る。
 当然、付き合わされている蛍の方にも影響は出るわけで。
「ちょ、はげしっ……! も、無理ぃっ!」
「音を上げるなよ。まだゆっくりな方だぞ」
 陰核と陰核を擦り合わせて。
 お互いの愛液を交換するように擦り付けて。
 ふっくらと盛り上がった大陰口を潰し合って、ぱちゅ、ぱちゅ、と腰を合わせて、沙羅はうっすらと笑みを艶っぽくした。
「は、ぁ。お前に全力で奉仕させたら、さぞ気持ち良いだろうな」
「死んでも、やるか……っく、ぁあああっ!」
「そう突っ張るな。縁があれば、はあ、飼ってやりたいぐらいだったぞ。………あ、ぅ」
 静かに、体の内にある快楽と対話をするように高みへ登っていく沙羅と、それに振り回されて小さな絶頂を繰り返す蛍。
 蛍がイくたびに、その小刻みな震えが沙羅の官能を引き上げ、噴き出した愛液が潤滑油代わりとなって秘貝を合わせたときの快楽が増す。
 ぱたぱたと互いの淫液が混じった汁を床に垂らして、互いに互いを高め合い。
 蛍が何度目かもわからない絶頂を迎えると同時に、沙羅も静かに果てを迎えた。
「イく、イ…………っくぅぅ、ぅぅあああああああああああっ!」
「は、ぁ…………………っく、ぅ」
 がくがくっ! と体中を軋ませる蛍とは対照的に、数秒間、目を閉じて感じ入るような顔をした後、ゆっくりと立ち上がって服を身に着ける沙羅。
 そして、時間が終わった。
 全てが終わった後も股を開いて時折腰をぴくん、ぴくんと揺らす蛍を、悠然と見下ろして沙羅は立つ。
 天井にあるモニター、そこに設置されているであろう監視カメラを覗き込んで、淡々とした口調で呟いた。
「さて、久々に飼い猫も可愛がってやらねばな」
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