24 / 32
3章
再度の決闘
しおりを挟む
袴姿の八柱流華は、緊張と高揚の只中にいた。
いつも通り、老害どもは勝手に決闘の手筈を整えて流華に通知してきた。勝てば八柱の栄華が始まるし、負けても流華の痴態を楽しめるということで、上の奴らは楽しんでいやがる。
(でも……今日は、勝てるかもしれない)
恥辱の果てで増した力に、そう思う。
前回の決闘に使った大舞台はまだ復旧していなかったので、1ヶ月ぶりの決闘は、音峰家所有の修練場で行うことになった。
とはいえ。
(調子狂うな)
場所が、ではなく、状況が。
鬱陶しいことに、八柱と音峰の当主が見物に来やがった。
垂れ幕に覆われた観戦席を、彩音も迷惑そうに見る。
「あんたら、巻き添え食らっても知らないからにゃー」
「気にせず戦ってちょうだい、自衛は自分でするから」
「狙われる心配もしとけよ、くそったれ」
「妹がどうなっても良いなら、やると良い」
ちっ、と流華は舌打ちする。もう考えないほうが良い。
大剣を構える。
「今度こそ、勝つ」
己を鼓舞するというより、実際に勝算があった。
屈辱の搾乳と媚薬沼での拷問を経て、流華が手に入れたのは人並外れた柔軟性。単純な腕力とかじゃないため扱いは難しいが、任務を重ねて経験も積んだ。
「流華ちゃんが負けたら、音峰の媚薬風呂にも漬け込んであげましょうねえ」
ゆらゆらと構える彩音に、鼻を鳴らして返事とする。ふん、と息を吐いて、鋭く吸う。
再び吐こうとした瞬間、彩音が懐に飛び込んできた。
火花が散る。鼻先がくっつきそうな距離。
流華は獰猛に笑った。
(……反応できる!)
「にゃにゃ? やるう。反射速度あがりました?」
「前から、見えちゃいたんだよ!」
見えてはいたが体が追いついて来れなかった。今までは。
双剣が滑り、彩音の体が背後に消える。流華は大剣を地面に突き刺し、ポールダンスのように半回転した。刃の側面を盾にして、弾丸のような突きを受け切る。反動でバランスを崩した彩音に、今度はこちらが振りかぶった。
真向斬りは、のけぞる彩音のスカートを浅く裂いた。傷は与えられていないが、確かなヒット。
一歩間違えばズタズタにされかねない状況で、しかし流華は確かな手応えに笑う。
「は、は……っ。どうだ、今なら届くぞ。最強にだって、あたしの剣は届くようになったぞ」
艱難辛苦、恥辱に拷問。折れそうな心を必死に奮い立たせて耐えてきた。全ては最強になって八柱の権力者たちを黙らせるために。腐った退魔師の世界から仙華を守るために。
腰をくねらせ、背を反らして、大剣をうまく遮蔽物として用いながらギリギリの回避を続ける。本当にポールダンスを踊っているようで、官能的な動きになってしまうのが少し恥ずかしい。
「んにゃろ!」
痺れを切らした彩音が、後ろに数歩の距離を取った。
様子見、ではないだろう。
むしろその逆。低く沈んだ姿勢は、さらなる加速の前触れだ。速度が上がれば、威力も上がる。
だけど。
(正面から突っ込んでくるのは、悪手だろ)
あたしとパワー勝負をするつもりか。
引き抜いた大剣の重みで体を引き絞る。砲丸投げのような構えから、一息に振り下ろす。
彩音の斬撃と、真正面からぶつかった。
衝撃波で砂埃が巻き上がる。
大地にいくつもの亀裂が走り、彩音の足が地面に沈む。悪趣味な杭打ちだった。流華の知る限り初めて、決闘中に彩音が苦悶の表情を浮かべる。
しかし。
(受け切られた)
両断できると思っていたのに。
「そのまま、潰れちまえ!」
「ぐ、うう……っ」
だったら鍔迫り合いで押しつぶす。
目前に迫った勝利をなんとしてでも掴み取ろうと、握った手に力が篭った。
◇
ルカちゃんは、勘違いをしている。
流華に作用している媚薬の情報は、クソ当主から教わっていた。柔軟性の向上。でもその利点は、攻撃の前に”溜め”がないと生きてこない。
単純な力比べなら、筋密度が増した彩音に分がある。
しかし。
「ここまできて、負けてたまるかってんだ……っ!」
「この、化け物ぉぉお!」
押し返せない。
意志の力とでも言うつもりか、じりじりと潰され始めて、切迫感に身を焼かれる。
(純粋な戦闘でこんなにピンチなの……、生まれて初めてかも)
最高だ、ルカちゃん。本当に強くなった。
なんだか頬擦りしたい気分だ。キスをして、唾液を飲ませて、四肢を繋いで喘がせたい気分だ。要するに、虐めたかった。強くなった流華を。
布石はすでに打っていた。
きぃぃん、とやけに間延びした音と共に、流華の大剣が両断される。
「なっ! こんな、ときに……っ」
「まっさか、偶然だとでも思ってませんよね。溝に打ちつけるようにおんなじ場所だけ削れば、そりゃ壊れるにゃ」
盾にされるなら、破壊すれば良い。彩音はずっと同じ箇所に斬撃を与えていた。
砕けた破片が月明かりに煌めく中、彩音は大きく踏み出した。
流華はもう軽く攻撃を当てられる相手ではない。
だから一撃で意識を刈り取る。
「く、そがああああっ!」
土壇場で流華は反応した。
腹を狙う彩音の拳を完全に無視して、柄打ちを狙われる。
(ボクの方が速い!)
そう、思った。
しかし、予想外の速度で柄が額に迫ってくる。理由を探して、すぐに気付いた。
(折れた分、剣が軽くなって……っ! まず……っ)
気付いたところで止まれない。
流華の鳩尾には深く深く拳が突き刺さり、彩音は眉間を打ち抜かれる。
「か、はっ……!」
「ぎゃ……っ!」
かたや胃液を吐き出してそのまま崩れ落ち、かたや脳震盪を起こして仰向けに倒れた。
(負けるわけに、は……っ。いか、な……)
独白すらも、ぐらぐらと揺れる頭では満足に紡げない。
どうか、流華が立ち上がってきませんように。
それだけを願って、彩音の意識は途絶えた。
◇
畳に敷かれた布団の上で、彩音はうっすらと目を開けた。
「……ぅ? ……っ! ボク、は……!」
一瞬で記憶が蘇り、真っ青になる。
もしかしてボク……負け、た?
「あら、起きたのね」
タイミングよく、顔を覆いで隠した当主が入ってきた。
当主はぱちぱちと気のない拍手をして、彩音に告げる。
「おめでとう、ぎりぎりあなたの勝ちよ。確認の結果、八柱の方が数秒早く気絶した」
喜びより先に安堵が迫り上がってきた。
「よかった……」
首の皮一枚で、自由を守ることができた。負けていたらと思うとゾッとする。
音峰が秘密裏に管理してる妖魔の養分にされるか、有望な退魔師の子を産まされ続けるか。どちらにせよ地獄に落ちるところだった。
「……ルカちゃんは?」
「いつもの地下牢で拘束中。乳首をいじくったから今頃悶えてるんじゃないかしら」
ごくり、と喉が鳴った。
「体調が悪いなら、今回の調教はこっちでやるけど……」
「ボクが行く」
身体にはまだだるさが残っていたが、知ったことか。
もう、容赦はしない。流華は強くなりすぎた。
(二度と決闘なんてしたくなくなるように、徹底的に調教しなきゃ、にゃー)
表情の窺い知れない当主の前で、彩音は暗い決意を固めた。
いつも通り、老害どもは勝手に決闘の手筈を整えて流華に通知してきた。勝てば八柱の栄華が始まるし、負けても流華の痴態を楽しめるということで、上の奴らは楽しんでいやがる。
(でも……今日は、勝てるかもしれない)
恥辱の果てで増した力に、そう思う。
前回の決闘に使った大舞台はまだ復旧していなかったので、1ヶ月ぶりの決闘は、音峰家所有の修練場で行うことになった。
とはいえ。
(調子狂うな)
場所が、ではなく、状況が。
鬱陶しいことに、八柱と音峰の当主が見物に来やがった。
垂れ幕に覆われた観戦席を、彩音も迷惑そうに見る。
「あんたら、巻き添え食らっても知らないからにゃー」
「気にせず戦ってちょうだい、自衛は自分でするから」
「狙われる心配もしとけよ、くそったれ」
「妹がどうなっても良いなら、やると良い」
ちっ、と流華は舌打ちする。もう考えないほうが良い。
大剣を構える。
「今度こそ、勝つ」
己を鼓舞するというより、実際に勝算があった。
屈辱の搾乳と媚薬沼での拷問を経て、流華が手に入れたのは人並外れた柔軟性。単純な腕力とかじゃないため扱いは難しいが、任務を重ねて経験も積んだ。
「流華ちゃんが負けたら、音峰の媚薬風呂にも漬け込んであげましょうねえ」
ゆらゆらと構える彩音に、鼻を鳴らして返事とする。ふん、と息を吐いて、鋭く吸う。
再び吐こうとした瞬間、彩音が懐に飛び込んできた。
火花が散る。鼻先がくっつきそうな距離。
流華は獰猛に笑った。
(……反応できる!)
「にゃにゃ? やるう。反射速度あがりました?」
「前から、見えちゃいたんだよ!」
見えてはいたが体が追いついて来れなかった。今までは。
双剣が滑り、彩音の体が背後に消える。流華は大剣を地面に突き刺し、ポールダンスのように半回転した。刃の側面を盾にして、弾丸のような突きを受け切る。反動でバランスを崩した彩音に、今度はこちらが振りかぶった。
真向斬りは、のけぞる彩音のスカートを浅く裂いた。傷は与えられていないが、確かなヒット。
一歩間違えばズタズタにされかねない状況で、しかし流華は確かな手応えに笑う。
「は、は……っ。どうだ、今なら届くぞ。最強にだって、あたしの剣は届くようになったぞ」
艱難辛苦、恥辱に拷問。折れそうな心を必死に奮い立たせて耐えてきた。全ては最強になって八柱の権力者たちを黙らせるために。腐った退魔師の世界から仙華を守るために。
腰をくねらせ、背を反らして、大剣をうまく遮蔽物として用いながらギリギリの回避を続ける。本当にポールダンスを踊っているようで、官能的な動きになってしまうのが少し恥ずかしい。
「んにゃろ!」
痺れを切らした彩音が、後ろに数歩の距離を取った。
様子見、ではないだろう。
むしろその逆。低く沈んだ姿勢は、さらなる加速の前触れだ。速度が上がれば、威力も上がる。
だけど。
(正面から突っ込んでくるのは、悪手だろ)
あたしとパワー勝負をするつもりか。
引き抜いた大剣の重みで体を引き絞る。砲丸投げのような構えから、一息に振り下ろす。
彩音の斬撃と、真正面からぶつかった。
衝撃波で砂埃が巻き上がる。
大地にいくつもの亀裂が走り、彩音の足が地面に沈む。悪趣味な杭打ちだった。流華の知る限り初めて、決闘中に彩音が苦悶の表情を浮かべる。
しかし。
(受け切られた)
両断できると思っていたのに。
「そのまま、潰れちまえ!」
「ぐ、うう……っ」
だったら鍔迫り合いで押しつぶす。
目前に迫った勝利をなんとしてでも掴み取ろうと、握った手に力が篭った。
◇
ルカちゃんは、勘違いをしている。
流華に作用している媚薬の情報は、クソ当主から教わっていた。柔軟性の向上。でもその利点は、攻撃の前に”溜め”がないと生きてこない。
単純な力比べなら、筋密度が増した彩音に分がある。
しかし。
「ここまできて、負けてたまるかってんだ……っ!」
「この、化け物ぉぉお!」
押し返せない。
意志の力とでも言うつもりか、じりじりと潰され始めて、切迫感に身を焼かれる。
(純粋な戦闘でこんなにピンチなの……、生まれて初めてかも)
最高だ、ルカちゃん。本当に強くなった。
なんだか頬擦りしたい気分だ。キスをして、唾液を飲ませて、四肢を繋いで喘がせたい気分だ。要するに、虐めたかった。強くなった流華を。
布石はすでに打っていた。
きぃぃん、とやけに間延びした音と共に、流華の大剣が両断される。
「なっ! こんな、ときに……っ」
「まっさか、偶然だとでも思ってませんよね。溝に打ちつけるようにおんなじ場所だけ削れば、そりゃ壊れるにゃ」
盾にされるなら、破壊すれば良い。彩音はずっと同じ箇所に斬撃を与えていた。
砕けた破片が月明かりに煌めく中、彩音は大きく踏み出した。
流華はもう軽く攻撃を当てられる相手ではない。
だから一撃で意識を刈り取る。
「く、そがああああっ!」
土壇場で流華は反応した。
腹を狙う彩音の拳を完全に無視して、柄打ちを狙われる。
(ボクの方が速い!)
そう、思った。
しかし、予想外の速度で柄が額に迫ってくる。理由を探して、すぐに気付いた。
(折れた分、剣が軽くなって……っ! まず……っ)
気付いたところで止まれない。
流華の鳩尾には深く深く拳が突き刺さり、彩音は眉間を打ち抜かれる。
「か、はっ……!」
「ぎゃ……っ!」
かたや胃液を吐き出してそのまま崩れ落ち、かたや脳震盪を起こして仰向けに倒れた。
(負けるわけに、は……っ。いか、な……)
独白すらも、ぐらぐらと揺れる頭では満足に紡げない。
どうか、流華が立ち上がってきませんように。
それだけを願って、彩音の意識は途絶えた。
◇
畳に敷かれた布団の上で、彩音はうっすらと目を開けた。
「……ぅ? ……っ! ボク、は……!」
一瞬で記憶が蘇り、真っ青になる。
もしかしてボク……負け、た?
「あら、起きたのね」
タイミングよく、顔を覆いで隠した当主が入ってきた。
当主はぱちぱちと気のない拍手をして、彩音に告げる。
「おめでとう、ぎりぎりあなたの勝ちよ。確認の結果、八柱の方が数秒早く気絶した」
喜びより先に安堵が迫り上がってきた。
「よかった……」
首の皮一枚で、自由を守ることができた。負けていたらと思うとゾッとする。
音峰が秘密裏に管理してる妖魔の養分にされるか、有望な退魔師の子を産まされ続けるか。どちらにせよ地獄に落ちるところだった。
「……ルカちゃんは?」
「いつもの地下牢で拘束中。乳首をいじくったから今頃悶えてるんじゃないかしら」
ごくり、と喉が鳴った。
「体調が悪いなら、今回の調教はこっちでやるけど……」
「ボクが行く」
身体にはまだだるさが残っていたが、知ったことか。
もう、容赦はしない。流華は強くなりすぎた。
(二度と決闘なんてしたくなくなるように、徹底的に調教しなきゃ、にゃー)
表情の窺い知れない当主の前で、彩音は暗い決意を固めた。
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる