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2章
嫌がらせの任務
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八柱本家で持たされた怪しげな軟膏を手の中で弄び、流華は顔をしかめる。
「……はあ」
「お姉ちゃん、どうかした?」
「なんでもないよ」
リビングでテレビを見ながら、ダラダラと過ごしていた。
ずっとこうしていられれば良いのに。
だが、そんなときに限って任務が来たりする。
仙華の頭を撫でて、流華は携帯電話を握りしめた。
◇
触手型妖魔の撃退。
廃校になった学舎を前にして、流華は大剣を構える。
背後では、ここまで車を回してくれた事務員がボード上の資料を読み上げていた。
「校舎は老人ホームに改築予定だそうで、損壊は厳禁だそうです」
「担当おかしくねえか。武器見たらわかるだろ」
「はい、ですがその……。八柱本家の希望で」
「あーはいはい」
とことん癪に触る老害どもめ。
それで私が死んだらどうするつもりだと思うが、奴らにとってはそれも狙いなのかもしれない。仙華をトップに据えれば良いと思ってる節さえある。
「やってやるよ」
事務員に手荷物を預けて、校舎に踏み入る。
◇
「どこもかしこも触手だらけじゃねえか」
感覚としてはぶよぶよの洞窟に近い。
妖魔の核を探して、流華は奥へと進んでいく。
流華は仙華と違って、勘とかレーダー性能はからきしだが、それならそれでやりようはあった。
「おらっ」
軽い掛け声と共に、触手を円形に切り抜く。右上から再生されていくから、核は右上だ。そうやって進む方向を決めていく。
行き着いた先は、校長室だった。
半開きの扉から顔を覗かせると、触手が殺到してきた。一度引いて、今度は飛び込む。扇風機のように大剣を振り回し、迫る触手を両断した。
行儀良く椅子に座った女型の触手群が、流暢に喋る。
「いらっしゃい。招いてないけどね」
「嫌に人間っぽいな。名前とかもあったりするのか? まあ切るけど」
「ノウ」
短く名乗ったノウという触手の言葉を、流華は聞いてもいなかった。
床を足の裏で押す。とん、と軽い音がして、もう流華は机の上に立っていた。横薙ぎの一閃で、ノウの首を落とす。ころん、と軽い音。
――軽すぎる。
「不正解」
背後から聞こえてきた声に、素直に大剣を振り回した。これも何かには当たった。しかし、水を切ったように、反発の先に手応えを感じない。
もう考えるのも面倒臭かった。
――建物ごと……っ。
そこで止まる。
損壊厳禁、という言葉がチラつく。
大剣を触手が絡めとる。
振り回してぶちぶちと触手を振り払っても、今度は足に絡みつかれる。
「ちいっ!」
「馬鹿ね」
まっさらな平地で戦っていたら、群がる触手ごと核を一閃で仕留められていただろう。
損壊厳禁という縛りがなければ、学舎を平地に均すことも容易い。
だが、教室という箱の中、壁という壁を起点に八方から湧き出る触手を払い続けるのは、剛剣使いの立ち回りでは至難の技だ。
というか、不可能だった。
大剣の柄を固定される。鈍った四肢にも、触手がまとわりついた。挙げ句の果てに、胴と首を締め上げられ、太ももと肩口から壁に飲み込まれる。
「ぐあ……っ! 離せ! 気持ち悪い……っ!」
「退魔師の磔、一丁上がりね」
「離せ……つってんだろうが!」
それでも流華は、力任せに飲まれた四肢を引き摺り出す。大群とはいえ、所詮は底辺の触手。膂力に全振りした流華の手にかかれば、力負けすることはない。
そのはずだった。
「ルーカちゃん」
聞きたくもない声が聞こえて、前を向く。反対側の壁に、同じように触手に飲み込まれた彩音が笑っていた。
「は……? おま、なにやって……っ!」
「なんてね。私は擬態が得意なの」
力が緩んだ一瞬を、狙われた。
細くて丈夫な触手が何本も首に絡みつく。締められる。呼吸が詰まった。奇妙な心地良さが頭に広がって、四肢の力が抜けていく。
霞む目の前で、彩音の形をしていた触手がばらけたのを最後に、流華の意識は途絶えた。
◇
目を覚ますと、当然のように服は剥ぎ取られていた。ポニーテールも解けてしまって、気持ちの悪い質感の触手に垂れている。
「……ちくしょう、が」
最低だ。
犬猫のように四つん這いにさせられて、肘と太ももの下は触手に飲み込まれている。動かそうとしても、びくともしない。
「無駄よ。中ではさっきと同じ細いのがぎちぎちに絡んでるもの」
あまりにも流暢な声に、顔を上げた。
「にん、げん……?」
「馬鹿ね。ノウだって。まあ、頭良い妖魔だと思ってちょうだい」
ノウは人差し指を立てる。指は伸びて、細い触手となり、うねって流華の白い背中で炸裂する。
「ぎ、ああああああっ!」
「前哨戦に第二位を、と思ったけど、拍子抜けだわ。あなた、弱すぎない?」
「あっ! がっ、ぐう……っ! ああっ!」
剥き出しの背を立て続けに鞭打たれ、流華は引き締まった身体を悶えさせた。
「だ……ったら、校庭、にでも、出ろよ……っ! 平地でだったら、……お前なんか……っ」
「負け犬が何言ってんのよ。……やっぱり、痛みには耐えるのね」
「ひ……っ!」
流華を戒めている台座の一部が、触手となって胸に絡みついた。ぐるぐると、趣味の悪いブラのように乳房を飲み込んで、絞るように弄られる。
「あ……っ! くう……っあ! ああ……っ!」
「こっちの方が良い声出すじゃない。あと、これ何かしら」
「それは……っ!」
ノウが指でつまんでいたのは、老害どもに渡された軟膏だった。日を跨ぐ任務にも対応できるように、流華が予備として持っていたもの。
蓋を開けて、指で弄び、ノウはすぐに用途に気付いたのか、にたりと笑った。
「案外好きものなのかしら? じゃあ、楽しませてあげないと、ね」
「……はあ」
「お姉ちゃん、どうかした?」
「なんでもないよ」
リビングでテレビを見ながら、ダラダラと過ごしていた。
ずっとこうしていられれば良いのに。
だが、そんなときに限って任務が来たりする。
仙華の頭を撫でて、流華は携帯電話を握りしめた。
◇
触手型妖魔の撃退。
廃校になった学舎を前にして、流華は大剣を構える。
背後では、ここまで車を回してくれた事務員がボード上の資料を読み上げていた。
「校舎は老人ホームに改築予定だそうで、損壊は厳禁だそうです」
「担当おかしくねえか。武器見たらわかるだろ」
「はい、ですがその……。八柱本家の希望で」
「あーはいはい」
とことん癪に触る老害どもめ。
それで私が死んだらどうするつもりだと思うが、奴らにとってはそれも狙いなのかもしれない。仙華をトップに据えれば良いと思ってる節さえある。
「やってやるよ」
事務員に手荷物を預けて、校舎に踏み入る。
◇
「どこもかしこも触手だらけじゃねえか」
感覚としてはぶよぶよの洞窟に近い。
妖魔の核を探して、流華は奥へと進んでいく。
流華は仙華と違って、勘とかレーダー性能はからきしだが、それならそれでやりようはあった。
「おらっ」
軽い掛け声と共に、触手を円形に切り抜く。右上から再生されていくから、核は右上だ。そうやって進む方向を決めていく。
行き着いた先は、校長室だった。
半開きの扉から顔を覗かせると、触手が殺到してきた。一度引いて、今度は飛び込む。扇風機のように大剣を振り回し、迫る触手を両断した。
行儀良く椅子に座った女型の触手群が、流暢に喋る。
「いらっしゃい。招いてないけどね」
「嫌に人間っぽいな。名前とかもあったりするのか? まあ切るけど」
「ノウ」
短く名乗ったノウという触手の言葉を、流華は聞いてもいなかった。
床を足の裏で押す。とん、と軽い音がして、もう流華は机の上に立っていた。横薙ぎの一閃で、ノウの首を落とす。ころん、と軽い音。
――軽すぎる。
「不正解」
背後から聞こえてきた声に、素直に大剣を振り回した。これも何かには当たった。しかし、水を切ったように、反発の先に手応えを感じない。
もう考えるのも面倒臭かった。
――建物ごと……っ。
そこで止まる。
損壊厳禁、という言葉がチラつく。
大剣を触手が絡めとる。
振り回してぶちぶちと触手を振り払っても、今度は足に絡みつかれる。
「ちいっ!」
「馬鹿ね」
まっさらな平地で戦っていたら、群がる触手ごと核を一閃で仕留められていただろう。
損壊厳禁という縛りがなければ、学舎を平地に均すことも容易い。
だが、教室という箱の中、壁という壁を起点に八方から湧き出る触手を払い続けるのは、剛剣使いの立ち回りでは至難の技だ。
というか、不可能だった。
大剣の柄を固定される。鈍った四肢にも、触手がまとわりついた。挙げ句の果てに、胴と首を締め上げられ、太ももと肩口から壁に飲み込まれる。
「ぐあ……っ! 離せ! 気持ち悪い……っ!」
「退魔師の磔、一丁上がりね」
「離せ……つってんだろうが!」
それでも流華は、力任せに飲まれた四肢を引き摺り出す。大群とはいえ、所詮は底辺の触手。膂力に全振りした流華の手にかかれば、力負けすることはない。
そのはずだった。
「ルーカちゃん」
聞きたくもない声が聞こえて、前を向く。反対側の壁に、同じように触手に飲み込まれた彩音が笑っていた。
「は……? おま、なにやって……っ!」
「なんてね。私は擬態が得意なの」
力が緩んだ一瞬を、狙われた。
細くて丈夫な触手が何本も首に絡みつく。締められる。呼吸が詰まった。奇妙な心地良さが頭に広がって、四肢の力が抜けていく。
霞む目の前で、彩音の形をしていた触手がばらけたのを最後に、流華の意識は途絶えた。
◇
目を覚ますと、当然のように服は剥ぎ取られていた。ポニーテールも解けてしまって、気持ちの悪い質感の触手に垂れている。
「……ちくしょう、が」
最低だ。
犬猫のように四つん這いにさせられて、肘と太ももの下は触手に飲み込まれている。動かそうとしても、びくともしない。
「無駄よ。中ではさっきと同じ細いのがぎちぎちに絡んでるもの」
あまりにも流暢な声に、顔を上げた。
「にん、げん……?」
「馬鹿ね。ノウだって。まあ、頭良い妖魔だと思ってちょうだい」
ノウは人差し指を立てる。指は伸びて、細い触手となり、うねって流華の白い背中で炸裂する。
「ぎ、ああああああっ!」
「前哨戦に第二位を、と思ったけど、拍子抜けだわ。あなた、弱すぎない?」
「あっ! がっ、ぐう……っ! ああっ!」
剥き出しの背を立て続けに鞭打たれ、流華は引き締まった身体を悶えさせた。
「だ……ったら、校庭、にでも、出ろよ……っ! 平地でだったら、……お前なんか……っ」
「負け犬が何言ってんのよ。……やっぱり、痛みには耐えるのね」
「ひ……っ!」
流華を戒めている台座の一部が、触手となって胸に絡みついた。ぐるぐると、趣味の悪いブラのように乳房を飲み込んで、絞るように弄られる。
「あ……っ! くう……っあ! ああ……っ!」
「こっちの方が良い声出すじゃない。あと、これ何かしら」
「それは……っ!」
ノウが指でつまんでいたのは、老害どもに渡された軟膏だった。日を跨ぐ任務にも対応できるように、流華が予備として持っていたもの。
蓋を開けて、指で弄び、ノウはすぐに用途に気付いたのか、にたりと笑った。
「案外好きものなのかしら? じゃあ、楽しませてあげないと、ね」
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