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1章
妹の前、必死の我慢
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「何でもするから……つっても、どうせ許してくれないんだろ?」
「さっすが、わかってるじゃないですか」
ポニーテールに髪を纏め、タイトジーンズにジャケットという格好で、流華は彩音の後を歩いていた。
どうしてこいつが流華の家を知ってるんだ、という疑問は早々に捨てた。どうせ上がらみでバレたんだろう。
「クソガキ」
「彩音ですー」
くるんとスカートの裾を跳ねさせる彩音に、流華は冷えた声を向ける。
「全部お前の言う通りにする。だから、仙華に悟られるようなことだけはやめてくれ」
「しょーがないですねえ。ボクちゃん優しいなあ。はいお礼」
「……ありがとう、ございます」
不承不承といった調子で頭を下げて、流華はもう一つ付け足した。
「あと、お前は気付くだろうから言っとくけど……。絶対、何も言うな」
「……なにがです?」
「行けばわかる」
こてんと首を傾げる彩音だったが、返事は返ってこなかった。
◇
泣く寸前で無理やり笑顔に切り替えたような表情を見ると、流華はいつも胸が苦しくなる。
「おかえりなさい!」
弾けるような声をあげて抱きついてくる仙華を受け止めて、流華はわしゃわしゃと頭を撫でた。
「ただいま仙華。悪いな、長めに空けることになって。元気してたか?」
「元気でした!」
「ホントは?」
「……寂しかったです」
「可愛い奴だなあお前は」
むにむにと頬っぺたを伸ばすと、仙華はきゃーっ、と楽しげに悲鳴をあげる。うっかり絞め技にならないように気をつけながら、流華は妹の体を抱きしめた。一週間ぶりの妹の体温が心に染み渡るようだった。
だが、隣には奴がいる。
仙華もそれに気づいて、警戒心でたっぷりの目を向けた。
「お姉ちゃん……、そっちの人は?」
「あ、あー。コレはだな。……ひうっ」
「どうも初めまして!」
半ば強引に握手をして、彩音はきゃぴきゃぴと高い声をあげた。
「ルカちゃんに家庭教師をしてもらってる、彩音って言います! どうぞよろしくね、仙華ちゃん」
「……私の名前、何で知ってるの」
「だってそりゃ、ルカちゃんがいっつも言ってるんですもん。うちの妹が可愛くて死にそうーって」
「……ふんっ」
「ありゃりゃ?」
割と恥ずかしい思いをしてまでご機嫌取りにいったのだが、仙華は流華の肩に顔を埋めてしまった。
「あー、ほらほら。一応挨拶しとけ」
じとりと彩音を眺めて曰く、
「彩音さんからは嫌な匂いがするので嫌です。なんというか……、お姉ちゃんが帰ってこない夜と同じ匂いがします……。でも……、ごめんなさい。失礼でした。こんにちは」
ぺこりと控えめに頭を下げる仙華に、流華と彩音は目線を飛ばし合う。
(マジすか? 一般人なんすよね。感覚鋭すぎません?)
(マジなんだよ……。頼むからボロ出すなよ)
正直、仙華の才能は流華に勝る。
だけど、そういう問題じゃない。姉は妹を守るものだ。小学生の妹を当てにするなど言語道断。
だから、バラすな。
そんな無言の圧を感じて、彩音は肩をすくめた。
(妹の粗相は姉の責任。嫌な匂いなんて言われた瞬間はどうしてやろうかと思ってましたが)
仕方ないから、『弱』で許してやろう。
「ひ……っ!」
「お姉ちゃん? なんか跳ねた?」
「な、んでもねえよ。いい加減中入ろう。なんか食わせろおらー」
「んむうー」
ナマケモノみたいになっている仙華を引きずり引きずり、流華は廊下を歩いていく。
タイトジーンズの股間にうっすらと丸い染みができているのを見て、彩音はくつくつと笑みを漏らした。
◇
「うっま! すごいっすね仙華ちゃん! まだ小学生ですよね。え、すっげ」
マジの賛辞だった。
勝手に上り込んだ彩音は、仙華の料理を前のめりに減らしていく。その辺のスーパーの食材なのに、クソでかい実家のナントカ御膳より美味しい。
「仙華ちゃん。今度ボクの家で料理作ってくれたり……あでっ」
「勧誘すんな、ぶっ飛ばすぞ」
「……お姉ちゃんの分まで食べちゃ嫌ですよ?」
「おおう、針のムシロぅ……」
じっとりとした目付きが同じなのは、やっぱり姉妹か。
ハンバーグの肉汁をベットリと口につけて、彩音は照れ照れと頭を掻く。ティッシュで口元を拭って、よいしょと立ち上がる。仙華には見えない角度で、流華の腰をぺしぺしと叩いた。
「ご馳走様でした! 一飯の恩はしかと覚えておきます。それじゃルカちゃん、やりましょうか」
「……あ?」
「やだなあ、忘れちゃったんですか? あまりにも成績が悪いから、これから補習じゃないですか。確かー、お部屋でやるんでしたよね?」
「あ、ああ。そうだったな」
「んもー、しっかりしてくださいよ」
かちかち、と流華の膣に埋めたバイブレーターの振動が最強に変わる。どれだけ貞淑な女でも絶頂は避けられない悪魔の責め苦。
しかし、流華は一切の反応を殺していた。
じわー、と広がっていくジーンズの染みが嘘かというぐらい平然と、立ち上がる。
「さて、と。じゃあやるか……。さっさと来いよ」
「はーい、センセ」
「仙華。そんなわけだから、ちょっとこもるぞ。悪いなドタバタして。明日になったら何でも好きなことをしよう」
「……はいっ!」
くしゃりと妹の頭を撫でて笑いかけ、流華は自室の扉を閉めた。
「さっすが、わかってるじゃないですか」
ポニーテールに髪を纏め、タイトジーンズにジャケットという格好で、流華は彩音の後を歩いていた。
どうしてこいつが流華の家を知ってるんだ、という疑問は早々に捨てた。どうせ上がらみでバレたんだろう。
「クソガキ」
「彩音ですー」
くるんとスカートの裾を跳ねさせる彩音に、流華は冷えた声を向ける。
「全部お前の言う通りにする。だから、仙華に悟られるようなことだけはやめてくれ」
「しょーがないですねえ。ボクちゃん優しいなあ。はいお礼」
「……ありがとう、ございます」
不承不承といった調子で頭を下げて、流華はもう一つ付け足した。
「あと、お前は気付くだろうから言っとくけど……。絶対、何も言うな」
「……なにがです?」
「行けばわかる」
こてんと首を傾げる彩音だったが、返事は返ってこなかった。
◇
泣く寸前で無理やり笑顔に切り替えたような表情を見ると、流華はいつも胸が苦しくなる。
「おかえりなさい!」
弾けるような声をあげて抱きついてくる仙華を受け止めて、流華はわしゃわしゃと頭を撫でた。
「ただいま仙華。悪いな、長めに空けることになって。元気してたか?」
「元気でした!」
「ホントは?」
「……寂しかったです」
「可愛い奴だなあお前は」
むにむにと頬っぺたを伸ばすと、仙華はきゃーっ、と楽しげに悲鳴をあげる。うっかり絞め技にならないように気をつけながら、流華は妹の体を抱きしめた。一週間ぶりの妹の体温が心に染み渡るようだった。
だが、隣には奴がいる。
仙華もそれに気づいて、警戒心でたっぷりの目を向けた。
「お姉ちゃん……、そっちの人は?」
「あ、あー。コレはだな。……ひうっ」
「どうも初めまして!」
半ば強引に握手をして、彩音はきゃぴきゃぴと高い声をあげた。
「ルカちゃんに家庭教師をしてもらってる、彩音って言います! どうぞよろしくね、仙華ちゃん」
「……私の名前、何で知ってるの」
「だってそりゃ、ルカちゃんがいっつも言ってるんですもん。うちの妹が可愛くて死にそうーって」
「……ふんっ」
「ありゃりゃ?」
割と恥ずかしい思いをしてまでご機嫌取りにいったのだが、仙華は流華の肩に顔を埋めてしまった。
「あー、ほらほら。一応挨拶しとけ」
じとりと彩音を眺めて曰く、
「彩音さんからは嫌な匂いがするので嫌です。なんというか……、お姉ちゃんが帰ってこない夜と同じ匂いがします……。でも……、ごめんなさい。失礼でした。こんにちは」
ぺこりと控えめに頭を下げる仙華に、流華と彩音は目線を飛ばし合う。
(マジすか? 一般人なんすよね。感覚鋭すぎません?)
(マジなんだよ……。頼むからボロ出すなよ)
正直、仙華の才能は流華に勝る。
だけど、そういう問題じゃない。姉は妹を守るものだ。小学生の妹を当てにするなど言語道断。
だから、バラすな。
そんな無言の圧を感じて、彩音は肩をすくめた。
(妹の粗相は姉の責任。嫌な匂いなんて言われた瞬間はどうしてやろうかと思ってましたが)
仕方ないから、『弱』で許してやろう。
「ひ……っ!」
「お姉ちゃん? なんか跳ねた?」
「な、んでもねえよ。いい加減中入ろう。なんか食わせろおらー」
「んむうー」
ナマケモノみたいになっている仙華を引きずり引きずり、流華は廊下を歩いていく。
タイトジーンズの股間にうっすらと丸い染みができているのを見て、彩音はくつくつと笑みを漏らした。
◇
「うっま! すごいっすね仙華ちゃん! まだ小学生ですよね。え、すっげ」
マジの賛辞だった。
勝手に上り込んだ彩音は、仙華の料理を前のめりに減らしていく。その辺のスーパーの食材なのに、クソでかい実家のナントカ御膳より美味しい。
「仙華ちゃん。今度ボクの家で料理作ってくれたり……あでっ」
「勧誘すんな、ぶっ飛ばすぞ」
「……お姉ちゃんの分まで食べちゃ嫌ですよ?」
「おおう、針のムシロぅ……」
じっとりとした目付きが同じなのは、やっぱり姉妹か。
ハンバーグの肉汁をベットリと口につけて、彩音は照れ照れと頭を掻く。ティッシュで口元を拭って、よいしょと立ち上がる。仙華には見えない角度で、流華の腰をぺしぺしと叩いた。
「ご馳走様でした! 一飯の恩はしかと覚えておきます。それじゃルカちゃん、やりましょうか」
「……あ?」
「やだなあ、忘れちゃったんですか? あまりにも成績が悪いから、これから補習じゃないですか。確かー、お部屋でやるんでしたよね?」
「あ、ああ。そうだったな」
「んもー、しっかりしてくださいよ」
かちかち、と流華の膣に埋めたバイブレーターの振動が最強に変わる。どれだけ貞淑な女でも絶頂は避けられない悪魔の責め苦。
しかし、流華は一切の反応を殺していた。
じわー、と広がっていくジーンズの染みが嘘かというぐらい平然と、立ち上がる。
「さて、と。じゃあやるか……。さっさと来いよ」
「はーい、センセ」
「仙華。そんなわけだから、ちょっとこもるぞ。悪いなドタバタして。明日になったら何でも好きなことをしよう」
「……はいっ!」
くしゃりと妹の頭を撫でて笑いかけ、流華は自室の扉を閉めた。
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