双璧の退魔師

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1章

決闘と野外調教

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 見習いの退魔師でもない限り、決闘に道場は使えない。
 建物が壊れるというのもそうだし、破壊音を隠すのにも限度がある。流華や彩音ほどのレベルにもなると、刀の一合が起こす余波で地形ごと変わりかねない。
 丑三つ時の、人気のない山中。
 木々を切り拓いて作った大舞台に二人が立っているのは、そういう理由だった。
 流華は大剣を握りしめる。鋭く息を吸い、伸ばすように吐く。

「今日こそ勝つ」
「その台詞、耳タコなんですよねえ。ボクに剥かれて喘ぐまでがワンセットでしょう、ルカちゃん」

 年下のくせにちゃん呼びしてくる彩音は、双剣をゆるく握って構えを取る。右足を前に、左足を後ろにするスタイルは徒競走のスタートにも似ていて、実際もそう違わない。
 月明かりが陰った瞬間が、決闘の合図となった。
 陽炎のように、彩音の体が揺らいで消える。
 いや、違う、消えてない。深く沈むと同時に踏み込んできたのだ。わかったときには、双剣の切先が肉薄していた。
 やっぱり、速い。
 大剣を振り下ろす。ひらりとかわす彩音に、今度は横薙ぎの一閃を叩き込む。これもまた、かわされる。
 地面を舐めるような沈み込みから、彩音の反撃。
 双剣の片方は柄で受けた。もう片方は袴を浅く切り裂く。さらにすれ違いざま背中にも刃を入れられて、前につんのめった。

「ありゃ。思ったより浅いな。……跳んで逃げましたか。やるぅ」
「言ってろ。その余裕ぶった顔面真っ二つにしてやるから」
「ルカちゃんは護符ごと叩っ斬られそうだから笑えないですよねえ」

 ま、当たらなければいいんですけど、と笑う彩音に歯軋りして、流華は体を確かめる。予想通りの浅手で、動きには影響がない。
(一撃。一撃でも入れば、終わる)
 流華は彩音を、自分の対極の存在だと思っている。
 泥を啜って進んできた努力型と、典型的な天才型。
 使用する武器は大剣と双剣。
 一撃必殺を旨とする剛の戦法と、ヤスリでなぶり殺すような陰の戦法。
 いつだってあちらに軍配が上がってきた。今日だって、流華ばかり二回も切りつけられている。天性のバランス感覚と反射神経。認めたくないが、音峰彩音は天才だ。
 だけど。
 必殺を、叩き込むために。

「卑怯なんて言うなよ。根暗野郎」

 流華はそう宣言して、力の限り大剣を地面に突き刺した。

    ◇

(にゃるほど)
 脳筋バカかと思いきや、なかなかどうして頭が回る。
 ぐらぐらと揺れる地面に、二本の足で立つことは早々に諦めた。猫のように這いつくばって、彩音は顔を上げる。
 その首を両断する軌道で、大剣が振り下ろされた。

「にゃっはは。殺す気マンマンじゃないですかルカちゃん」

 バックステップで距離を取る。しかし重心が定まらない。
 それにしても、さっきから感じるこの違和感はなんだろう。

「逃がすかこのクソガキ!」

 咆哮と共に、流華は何度も大剣を振るう。外してもそのまま地面を叩く。その度に生じる揺れと、悪くなって行く足場は流華に有利だ。
 滑るような移動に制限がかかる。
 彩音はああ、と納得の声を上げた。
 ポニーテールを振り乱す流華の胸を指さして、げらげら笑う。

「ルカちゃん。相当きつくサラシ巻いてますね? ボクの手じゃ収まらないぐらいご立派なものがあるのに、揺れてないから引っかかってたのか。いやーすっきりすっきり」

 前回の調教の時に顔を埋めたのを思い出して、また笑いが漏れる。

「黙れ! そして年上を敬え、ちゃん呼びすんな! この変態クソガキがぁ!」

 焚きつけすぎたのがまずかった。
 山中に響き渡る怒鳴り声と轟音。そして舞台そのものが両断された。

「わっとと」

 揺れる地面に足を掬われる。崩れた重心を立て直すには、とにかく一度しゃがむしかない。
 流華の目が細まる。
 スイカ割りのように大剣を振りかぶられる。
(ああこれは、ダメですね)
 双剣を持ち上げて、彩音は笑みを少しだけ引っ込めた。
 ダメだ。これは。
 一合も許さず、鼻歌交じりに勝つつもりだったのに、大失敗だ。
 今夜初めて鳴った金属音は、バットのフルスイングをぶつけたように重たかった。
 苦悶はなかった。血の一滴も流れなかった。静かになって、二人の表情が塗り替わる。
 あくまで完封に失敗しただけ。彩音の心には余裕があった。
 鼻先が当たりそうな距離に、驚きに満ちた流華の顔がある。

「なんで……っ」
「そんなに驚きます? これでも当代最強ちゃんですよ。止められないわけないじゃないですか」

 彩音は双剣を交差させ、白羽取りのように大剣を受け切っていた。
 そして最強の退魔師は、流華の混乱を見逃さない。
 がら空きの胴に拳を二発。太腿を双剣で撫で斬り、ダメ押しに柄でこめかみを殴る。
 ぐあんと頭を揺らし、それでも大剣を握りしめる流華を、さらに回し蹴りで吹き飛ばした。

「が、ぐあ……っ!」

 一七〇センチに達する引き締まった身体が水切りのように地面を跳ねる。舞台切れ目の木に激突して力無くずり落ちる。

「よっく跳ねるにゃー」

 舐め腐った口調に、もう反駁は返ってこない。
 がらん、と乾いた音を立てて、大剣が地面に転がった。

    ◇

「にゃっははは。討ち取ったりー」

 流華を見下ろして、彩音は双剣を仕舞う。地盤ごと砕けた演習舞台を見渡した。
(相変わらず凄まじいなあ)
 彩音だから軽く対処できているだけで、妖魔ならダース単位で屠れるに違いない。
 でも、まあ。

「縛っちゃえばなんもできないですよねえ。ルカちゃん」

 流華は既に目を覚ましていて、気絶したのが嘘のように鋭い目線を向けてくる。しかし恐怖はない。あるわけがない。
 彩音が流華に施した縄化粧は、右足と右腕を、左足と左腕をひとまとめにしたものだった。
 犬の芸でいうところのちんちん、調教語ならM字開脚。
 秘部を夜空に向けて睨まれても、滑稽でしかない。

「こんな、格好……っ! 覚えとけよ。この、クソガキ……っ。絶対このままじゃ、終わらせないんだからな……っ」
「その上凄んできますか。体勢わかってるんですか、この負け犬」

 袴の合わせ目を乱暴に開く。きつく巻かれたサラシと、その上下端に溢れる乳肉があらわになる。
 剣の切先をサラシにかけて、彩音はにやにやと笑った。

「クソガキ呼ばわりしたこと、素直に謝れば今日は終わりにしてあげますよ」

 今日は終わり。
 七日に渡る『敗者への調教』の一日を終えることができる。
 だが、流華は返事を迷わなかった。

「クソガキに、クソガキって言って、何が悪いんだ。この、強いだけの脳無しが」
「あっそうですかにゃ」

 淡白な返事だが、笑みは深まる。そうやって抵抗してくれてこそ嬲り甲斐もあるというもの。
 一方、責められる側の流華は、びぃぃー、と縦にサラシを裂かれて、M字開脚の体を震わせた。
(くうう……っ。こんな奴に、何度も何度も、全部見られるなんて……っ!)
 締め付けを解かれた胸が、ぶるんと重たげに揺れる。
 超一流の退魔師とはいえ、二二歳。恥もあるしプライドもある。それを、成人もしてない少女に剥かれて野外に晒される。こんな羞恥があっていいのか。
 たぷたぷと豊満な胸を揉んで、彩音は言う。

「こうしてみると五歳差って大きいんですね。胸もお尻もむっちりしてますし……。まあ、ルカちゃんの身体が特別卑猥なだけかもしれませんけど」
「そんなわけないだろ! 恥を知れ、この変態っ」
「じゃあ、今から乳首を撫でますけど、反応しないでくださいね?」

 外気に触れ膨らみ始めた乳首が、彩音の手の中に収まる。摘んで、擦ってを何度か繰り返されると、流華の意思とは関係なく硬さが増し、快楽に痺れる。

「……っく、……ぅぅ、ぁ」
「いやらしいなぁ」
「黙れ! だまれよ! あ、ああ……っ!」

 反抗すると喘ぎも大きくなる。かといって黙っていては快楽を認めたようなもの。
(どうすれば……っ。これじゃ喜ばせるだけ。でも、だめっ。悔しいけど……っ)

「はい、ぐりぐりぃ」
「ああっ!」

 疑い用のない喘ぎ声に、彩音の笑顔が深くなる。

「野外調教、興奮します?」
「しないっ、しないったら、しな……いっ!」
「強情ですねえ」

 彩音は双剣の切先を膨らんだ乳首の先端に押し当てる。

「『許してください彩音様。気持ち良いですイきそうです』。はい復唱」

 がりっ、と砂を噛むような音がした。
 艶やかな唇から血を滴らせて、流華は彩音に赤い唾を吐き捨てる。

「言うわけないだろ。……やるなら、やれよ」

(まあ、初日だしこんなもんですよね)
 剣をしまう。どこまでも強情な流華が折れないことぐらいわかっていた。
 でも、気に食わない。とてもムカつく。
 彩音は懐に瓶詰めしていた生き物を、流華の胸にぼとりと落とした。

「あ……っ! な、なに⁉︎」
「自慰用の淫蟲。最底辺の妖魔にみっともなくイカされてください。楽しく見てるんで」

 牙もなく爪もなく、吸引するための口ばかりが肥大化した妖魔が二匹。
 もぞもぞと動いて、胸の頂点でぴたりと止まる。
 じゅるるるる、と湿っぽい音と共に吸い立てられ、流華は身体をこわばらせた。

「ああ、あっ、あああ……っ!」

 淫蟲の口の中には、柔らかな突起物が無数にある。吸い立てられると、乳首全体にそれが当たる。まるで小さな舌が、何百何千と集まって一斉に舐めてくるような。
(これは、本当にだめだっ。耐えられっこない、だめだめだめ……っ!)

「ああ、ふ、ぐう……っ! ああんっ!」
「あっはは! 無様無様! 淫蟲ですよ? 一般人だって倒せますよ。そんなのにイかされるんですねえ恥ずかしい」
「だったら、代われよっ! お前は耐えられんのかよ、ぁぁあ! くああ……っ」
「嫌ですよ。負け犬特権です」

 夜空に股を向け、喘ぎ声を響かせて、流華は体を震わせる。唇を噛み耐えても絶頂が近いのは明らかだった。乳首を吸い立てられる直接的な官能と、卑猥な水音が頭を狂わせる。
(もう……っ。限界! これ以上は……っ!)

「見るなっ! 見るな、あっ、ああっ!」
「負け犬ルカちゃん。イけ」
「くううあっ! ーーー~~~っ!」

 彩音の言葉に合わせるように、流華は身体を跳ね上げた。
 じゅるじゅると吸われて乳首を立たせ、盛大に嬌声をあげてイき果てる。
 ぶるんぶるんと巨乳が揺れ、甘い匂いが振りまかれる。

「はああ、は……あぅ」
「気持ちよさそうですね。流華さん」

 見下ろすのは、最強の退魔師。
 恥辱に堕ちた格下の顎を爪先でつついて、彩音はにこりと微笑んだ。

「でもまだ、謝られてないんで。続きやりますよ」

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