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FILE2 てるてる坊主
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大学から全力疾走し何とか駆け込んだ地下鉄は、珍しく混雑しており3駅分、時間にして5分程。ただでさえ暑い日であるのに、人間同士の蒸した熱気。汗くさいやら、香水くさいやら……もはや会話すらままならない。その後、再び地下鉄からバス乗り場まで疾走し時間ギリギリのバスに滑り込み乗車する。それに揺られる事25分。短い時間ではあるが、座ってゆっくりする時間は作れるようだ。
「あ、天ノ宮先輩……大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ……大丈夫じゃないわ。私、体力がないのよ」
「でも、さっきまで軽やかに走ってましたよね?」
「いい?座席に座ったら誰もがそこで試合は終了なのよ」
霧崎達は軽く呼吸が乱れているだけだが、天ノ宮に至っては肩を上下に揺らしてゼイゼイと座席に身体を預けている。暑い、とハンカチに顔を埋め小さく唸る。
「あーもう……七海っちさえ入れば…」
「八雲先輩は車の免許持ってないんですか?」
「一応ある、けど二輪しか持ってないの。七海っちが車の運転は止めてくれって言うから」
(車を運転させたら教習所で大事故になる所だった、なんて七海先生から聞いたって言ったら八雲さん怒るだろうから黙っていよう)
聞いたところによれば、教習所に通っていた天ノ宮が場内コースを運転中に教官と揉め事を起こし、アクセルを強めに踏んだせいで車がスピンしてしまい横転する事態に陥ったらしい。怪我人は教官と天ノ宮の2人だけで済みはしたが、教習所の方からこれ以上は天ノ宮には教えられないと断られた、と。
「私、免許は持ってるんですけどまだ車の運転は両親が許してくれないんですよね」
「良いなぁ、朱鷺ちゃん。私なんかまだ本免受からないよー」
「晴香の場合はもう少し暗記に力を入れないとな。手信号何回間違えればいいんだ」
「だって、絵だけじゃ覚えにくいし」
「手信号って意外とメンド難しいわよねー……あ、降りるわよ」
((……メンド難しいって初めて聞いた))
バスを降りてしばらく歩くと事件現場と思われる家へとたどり着いた。住宅街の周りにはKEEP OUTの黄色いテープが張り巡らされている。先ほど、神宮寺にはもうすぐ着くと連絡はしたはずなのだが数人の警察官以外、神宮寺の姿は見えない。しかし、いないからといって大学生が軽率に近づいて行っていい所でもない。
「八雲さん、もう一度神宮寺警部に連絡した方…が……って、あれ?」
「あ、ぁあのっ!霧崎先輩……あ、天ノ宮先輩ならあそこに…っ」
「………嘘だろ」
離れた場所から見ていた5人が気がつけば4人。真っ青な顔をした富樫が指差す方向には、天ノ宮が強面の警官の前をすり抜けて、黄色いテープを潜る瞬間である。霧崎はため息と共に頭を抱え、同時に、鋭い制止の声がかかる。
「こら、君!このテープが見えないのか!?」
「見えてるけど。それより神宮寺警部か、間宮警部補呼んでくれる?天ノ宮が来たって言えば伝わるから」
「君みたいな子と会っているほど警部達も暇ではない。さっさと出て行かんか!」
「確認もしないでどうしてわかるっていうの?確認してくれるまで、私はここを動かないから」
(うわ、お巡りさん怒ってる。あれ、めっちゃ怒ってるよ。どうしよう?涼成)
(どうするも何も、神宮寺警部の番号は八雲さんの携帯にしか入ってないんだ)
((あぁ、警部達が出てきてくれてれば…))
「この小娘……っ」
強面の警官が無理矢理に天ノ宮の腕をぐっと引いた瞬間、パシン…と乾いた音が響く。驚いた警官は弾かれた自分の手と、天ノ宮を交互に見やる。
「刑法第204条、人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。同じく208条、暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留または科料に処する。ーーー警察官ですもの、私が言わんとしてる事わかるわよね?わからないなら、上司に確認してもらっても「おーっと、それには及ばないよ、天ノ宮君。すまない、少し忙しくて我々の伝達が上手く行ってなかったようだ」
一触即発。
まさにその時に、慌てた神宮寺が間に現れ、仲裁に入る。その口元が少し笑いを堪えていたのを霧崎は見逃さない。どうやら天ノ宮達が来た事に気づいてはいたようだが、物陰で様子を見ていたらしい。
遅い、と神宮寺に文句を言い始める天ノ宮と合流すれば、まだ学生がいたのかと強面の警官の表情は厳しくなる。
「説明が遅れたんだが彼女達は………「心霊心理学及び精神心理学者の天ノ宮八雲と申します。自己紹介が遅れました事、お許しくださいね三谷和正巡査部長。さ、行きましょう神宮寺警部」
すれ違い様に三谷と呼ばれた警察官に押し付けられたのは1冊のメモ帳……否、警察手帳だった。胸ポケットに慌てて手をやる三谷だったがあるはずの物が無かったことに憤慨する。
「い、いつの間に……この手癖の悪いっ」
「いやぁ、三谷巡査。彼女がすみませんねぇ」「ごめんなさい、失礼します」
慌てる間宮を従えて颯爽と先行く天ノ宮に対して、霧崎を先頭に三谷に頭を下げ足早にその場を後にした。……三谷を見ていたら、ものすごくいたたまれない気持ちになったからだ。
「天ノ宮君、君いつの間に資格を?」
「嘘に決まってるじゃない。警官やお偉いさんを相手にするには偽りも必要よ」
「嘘って、天ノ宮君……」
「だってそうでしょ?現にあなた達2人は私の前にいる。現代社会、あの事件をありのまま報告して左遷されないのはどうしてかしら?」
「そ、れは…」
見透かしたような天ノ宮の言葉に、神宮寺は言葉を詰まらせる。どうしてあの報告書を提出して間宮共々左遷されなかったかなど、神宮寺の方が聞きたい。
直属の部長からは、曖昧に話を濁され、全く訳のわからないまま数日が過ぎたのち、2人の警官に出会った。1人は飄々とした男で、も1人は階級章を見て買いたての缶コーヒーを取り落とすほど驚いた。何で警視監が自分の目の前にいるのか。否、きっとあの事件の報告書を見て、直々に処分を下しに来たに違いない。鉛を飲まされる思いとはまさにこの事だと神宮寺は思う。
『神宮寺薫警部だったかな?君が提出した、赤いちゃんちゃんこ事件の報告書、読ませてもらった』
『いやぁ、よく出来た報告書でしたねぇ。局長?これまた集まったメンツの話も面白いったら』
『じ、自分は降格覚悟であの事件をありのまま、報告書を書かせていただきました。警察でもあのような不審死を闇に葬らせない為に、改めて調べて頂こうと…』
それを聞いた飄々とした男が、くつくつと押し殺した笑いをもらす。そのまま隣りの男と言葉を交わすと神宮寺の肩をぽんぽんと叩く。
『これからもお願いしますよ、報告書。あぁ、もちろん"ソレ"関係の事件で。降格処分もナシです』
『え』
『実際、君と間宮警部補が目の当たりにした事件なのだろう?君達2人でしばらく、怪異が関係する事件の捜査を担当してもらう』
予想外に進む話に神宮寺は混乱するばかりだが、どうやら間宮共々降格もクビも免れたらしい。その代わり再び怪奇現象の事件を担当しろ、という。思案する神宮寺をよそに警視監と男は、時計を確認すると神宮寺の横を歩き出す。
『……愚女もいる。君の力になるだろう』
『じゃあ、時間なんで。頑張ってくださいね、神宮寺警部』
『え?……待っ』
はっと神宮寺が振り返る時には、2人の姿はなかった。愚女、娘がとは誰の事なのかわからないまま神宮寺はその場に立ち尽くすしかなかった。
結局、報告書は上層部に受け入れられ、左遷されなかったという事実だけしか天ノ宮に伝えられる事はない。その後分かった事だが、警視監の名前は篠宮 慎吾というそうだ。
「左遷しないかわりに、怪奇現象にまつわる事件は俺に回ってくる事になったわけだけど。君たちが居てくれて助かるよ。逆に聞きたいんだけど、警視監の篠宮さんって知ってる?」
「……私が知ってる警官は貴方と間宮警部補だけよ。くだらない質問なら後にして。間宮警部補、事件調書見せて」
「あ、うん……ごめん」
もうその話は聞かないと言わんばかりに神宮寺の隣を歩いていた天ノ宮は、ため息をついて間宮の所へ行ってしまった。一瞬だけ、ものすごく睨まれた気もするが見間違いだろうか。霧崎の方を見ると、勘弁してくれというような表情をして口元に人差し指を当てられた。霧崎には内容こそ聴こえていないようだが、どうやら天ノ宮の気に触る事を言ってしまったようだ。聴取記録に目を通す天ノ宮には、もう先程までの不機嫌な様子は見られないが、警察内部の話は振るのはやめた方がよさそうだ、と神宮寺は思う。
「ねぇ、事件現場見られる?」
「え、でもみなさんが見るにはちょっと凄惨だと思いますよ……?」
「構わないわ、でも霧崎君達は無理しないで。前回とは訳が違うから、きっと一生のトラウマになるわよ」
心配そうな間宮を見て、霧崎達はかなり厳しい現実が待っているのだろうと悟る。警官達がこんなに渋るのだから、よほど目を覆いたくなる現場なのだろう。神宮寺と天ノ宮を筆頭に、現場である2階へ続く階段を上がる。上がりきった所で、事件現場の部屋より一つ向こうの部屋から、ドアの隙間から生気のない表情の少年がこちらを覗いている。天ノ宮や神宮寺に気がつくと、慌てたようにドアは閉ざされてしまった。
「双子の兄の久保 裕紀君。現場の第一発見者だから話を聞きたいんだけど、ショックが大きくて全く口を開いてくれないんだ。彼は改めて、引き合わすとして、事件現場はここだよ」
見張り役の警官が敬礼をしてその場を避けドアを開ける。途端、むわっと生暖かく血生臭いにおいが身体にまとわりつくような気がした。部屋を見渡すと、辺り一面は血の海で床も壁も赤く染まっている。部屋の中央にあった遺体の横には、神宮寺が気にしていたてるてる坊主が首が切れた状態で転がっている。天ノ宮は両手を合わせてから、ブルーシートをめくりあげる。
「ひぇっ」「うっ」
ブルーシートの下には、小学6年生くらいとらみられる少年が息絶えており、そこには本来あるはずの頭部が欠損していた。その場にいた夜野や富樫は思っていた以上の衝撃によろよろと後退りをする。富樫はその場に座り込むとボロボロと涙を流す。
「どっ、どうして……こんな目にっ。怪異はこんなに残酷なことするんですか…っ」
両手を顔で覆い、富樫は嗚咽を漏らす。夜野は富樫の背中を撫で落ち着かせようとするが、そう簡単に行きそうもない。悲しくて泣いているのも、悔しくて泣いているのもどちらの感情も混じっているのだ。適当な答えなど言えるわけがない。遺体のそばに膝をついている天ノ宮はそっとブルーシートを戻す。
「これは怪異じゃ、ない。怪異のフリをした人間がこの子を殺したんだと私は思う。そして彼の頭は、この部屋にはない。でも怪異を軽く見た犯人には、必ず不幸が起きる。……夜野さん、桐生君、富樫さんを連れて外へ。少し気分を落ち着かせておいで」
「じゃあ、その、お言葉に甘えて」
「間宮君、付き添ってあげて」
真っ青な顔をした富樫を連れて、夜野と桐生は間宮と共に現場を後にする。桐生の顔色も優れないようだったので、天ノ宮の判断は賢明だったと霧崎は思う。医療現場ですら、頭部のない遺体などほとんど見る事はないだろうし、大学の授業でだってない。霧崎と夜野ですら表情にこそ出さなかったが、悲鳴をあげて逃げ出したいくらいの衝動に駆られるのだ。普通の人が見たら富樫達の反応は正常であると思う。
「それじゃ、そろそろこの子を検死に回すよ。死因も調べないと」
「その検死、光南大学附属病院にお願い出来る?知り合いがいるから、七海っちの名前を出して事情を話せば受けてくれる。調べられるだけ調べてくれるから」
神宮寺の指示で警官達が、小さな遺体を遺体袋に収め運んでいく。光南大学附属病院には、医学部や法医学部を専門的に教える女医がいる。この少年の遺体は、彼女に見てもらう方が新しい情報を引き出してくれると踏んでのことだ。
部屋を移動しようと一歩踏み出した時、足元に転がっていたてるてる坊主の頭がコロコロと転がっていく。それを拾い上げると、可愛らしい顔が書いてあったであろう顔色は、血で真っ赤に染まっており僅かに重い。窓際に飾ってある他のてるてる坊主も血飛沫はついているが、頭が切断されているものはこれ一つ。
「神宮寺警部、このてるてる坊主も鑑識に回してもらって良いかしら?何か情報が得られるかも」
「了解。けど、てるてる坊主は雨を晴れにするものだろ?何でコイツは頭切られてるんだろうか」
「理由はわからないけど、雨を止ませるために被害者の子が作った。昨日の雨を今日は止ませて欲しい願いなら叶えられてるから、切断する必要はないんだけど」
「え、叶えられなかったら切断するの?」
「えぇ。晴れたら金の鈴とお酒を、曇って泣いたら首をちょん切るというのが七海っちから聞いた都市伝説」
神宮寺は他のぶら下がっているてるてる坊主も、写真を一枚撮った後、そっと窓際から一体ずつ取り外し袋に入れる。また別の警官に、鑑識に回すようにと指示を出すと、天ノ宮と霧崎を伴って、一度現場から離れることにした。下の階で何やら言い争う声が聞こえる。上の人間を出せ!とか、何様だ!とか、一方的に怒鳴っているようだ。
階段から降りてくる足音が聞こえたのか、間宮が今にも泣きそうな顔で階段の下から顔を覗かせる。神宮寺と目が合うと、後ろを指さしながらすごい勢いで手招きをする。
「け、警部ぅ。何とかしてくださいよぉ、久保さんったら今すぐ捜査をやめろだの、勝手に部屋に入るなだの、代議士に逆らうのかだの。しかも、ちょうど夜野さん達の姿を見てしまってアイツらは誰なんだと話を聞いてくれなくて」
「はぁ。一筋縄じゃいかないとは思っていたが、ここまでとは」
階段を降り切ると間宮は早口に捲し立てる。おそらく外に出ようとした夜野達と家主がすれ違ってしまったのだろう。警察以外に知らぬ人間が家の中にいるのだから、家主が怒るのは無理はない。調書記録によれば家主は久保 京平、48歳。お偉い議員をやっているようだ。他にも弁護士、保険会社など色々な方面に顔がきく人物のようだ。何故あんなにも怒る理由があるのかと神宮寺と間宮に問えば、本来ならば七海が現場に来て捜査協力をする予定だった。それを勝手に変えてしまったうえ、見知らぬ大学生が出入りしているのだから久保の怒りは当然ともいえる。
「警部、私も一緒に事情聴取参加する。霧崎君、夜野さん達と一緒にご近所さん達から久保家についての話を聞いてきてもらいたいの」
「それは構いませんが。八雲さんだけで大丈夫ですか?」
「ま、神宮寺警部もいるし。むしろ一緒にいない方がメンタル的に安全だと思う。だから夜野さん達をよろしくね」
渋々、霧崎が頷くと天ノ宮が笑って鞄からカセットテープを取り出し、手渡す。ケースには、いつも通りにお願いしますと走り書きが書いてある。要は会話の内容を代わりにしっかり記録してきてくれと言うことだ。
おい、いい加減にしろ!とドタドタと足音が近づいてくる。天ノ宮と神宮寺が早く行けと言わんばかりに手で払う。霧崎が足早に玄関から出て行くのと同時に、久保がリビングから警官を押しのけて神宮寺へと向かってきた。
「おいどういうことだ!?なぜ子どもがちょろちょろしている!来るのは大学の講師だけだったはずだろう!?」
「あ、えぇ。そのはずだったんですが…」
「だったんですが、なんだ!?その講師が子どもにばけたとでも言うのか、えぇ?」
ものすごい剣幕で怒鳴り散らす久保に、神宮寺が一歩引いて苦笑を浮かべる。その後ろでは間宮が泣きそうな顔で成り行きを見守っており、同行してきていた鑑識達が数名、足早に二階へ上がっていった。
「あのー。その講師なんですがー」
黙っていないでなんとか言ったらどうだ!と神宮寺の襟元を掴み始めたので、天ノ宮が久保の肩を叩く。怒り心頭といった様子の久保が振り返り神宮寺を離すと、天ノ宮を頭のてっぺんから爪先まで見下ろす。
「なんだ、お前は」
「七海隼人の助手、天ノ宮と申します。七海先生なのですが……っ」
天ノ宮が久保と視線を合わせると、ほろりと涙を流してばっと顔を覆う。
「七海は、連日不眠不休の民俗学の研究をしていたのです。ですが、昨日もこちらに伺う約束があるからと出かけようとして、駅の階段から足を踏み外し転落して救急車に運ばれてしまって……。運ばれながら、どうしても久保家へ行かなければならないとうわ言のように繰り返すので、七海には到底及びませんが私が代わりに馳せ参じました」
「ほぅ。で、先ほどの子ども達は?」
「彼らには来なくても良いと伝えたのですが、やはり七海の教え子。今回の件に何か感じるものがあったらしく、静止を払って来てしまったようです。……申し訳ございません」
天ノ宮が深々と腕を組む久保に向かって頭を下げる。その姿を見て久保は、少し怒りが落ち着いたのか小さく鼻を鳴らす。その後、神宮寺を一瞥すると踵を返す。
「礼儀はなっているようだな、いいだろう。さっさと事情聴取を始めてくれたまえ。これでも忙しいのでな」
リビングへと消えた久保を見て、間宮達が肩の荷が降りたように深々とため息を吐く。周りの警官や監察官達も張り詰めた空気が和らぎ、安堵しているようだ。上手く対応してくれた天ノ宮に礼を言おうと振り向いた神宮寺の先には誰もいない。どこへ行ったのかと視線を這わせると、再び盛大なため息が漏れた。
「ねぇ、天ノ宮君」
「ん?」
「事件現場で、飲食しないでくれるかな?」
「クッキーの1枚2枚くらいいいじゃない。ああいうの言いくるめるの、頭使うのよ」
「せめて現場の外でやって欲しかったな」
「次から善処するわ」
神宮寺の視線の先で、天ノ宮は袋に入ったクッキーを咀嚼していた。事件現場で飲食が出来るのは後にも先にも彼女しかいないだろう。先程までの凛々しさはどこへ行ってしまったのか。天ノ宮という人間が未だにわからない。まだ数回しか会っていないのだから、仕方ないのだが。現状ではただならない大学生としか言いようがない。
「さて、事情聴取と行きましょうか」
「今回は事件解決するまでカセットテープ没収ね」
「……仕方ないなぁ」
天ノ宮が持っていたカセットテープを神宮寺が取り上げてリビングへと入って行く。間宮が慌てて追いかける姿を横目で見やり、天ノ宮は鞄から何かを取り出して無造作にポケットに詰め込むと、聴取に参加するために神宮寺の後を追いかけていった。
「あ、天ノ宮先輩……大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ……大丈夫じゃないわ。私、体力がないのよ」
「でも、さっきまで軽やかに走ってましたよね?」
「いい?座席に座ったら誰もがそこで試合は終了なのよ」
霧崎達は軽く呼吸が乱れているだけだが、天ノ宮に至っては肩を上下に揺らしてゼイゼイと座席に身体を預けている。暑い、とハンカチに顔を埋め小さく唸る。
「あーもう……七海っちさえ入れば…」
「八雲先輩は車の免許持ってないんですか?」
「一応ある、けど二輪しか持ってないの。七海っちが車の運転は止めてくれって言うから」
(車を運転させたら教習所で大事故になる所だった、なんて七海先生から聞いたって言ったら八雲さん怒るだろうから黙っていよう)
聞いたところによれば、教習所に通っていた天ノ宮が場内コースを運転中に教官と揉め事を起こし、アクセルを強めに踏んだせいで車がスピンしてしまい横転する事態に陥ったらしい。怪我人は教官と天ノ宮の2人だけで済みはしたが、教習所の方からこれ以上は天ノ宮には教えられないと断られた、と。
「私、免許は持ってるんですけどまだ車の運転は両親が許してくれないんですよね」
「良いなぁ、朱鷺ちゃん。私なんかまだ本免受からないよー」
「晴香の場合はもう少し暗記に力を入れないとな。手信号何回間違えればいいんだ」
「だって、絵だけじゃ覚えにくいし」
「手信号って意外とメンド難しいわよねー……あ、降りるわよ」
((……メンド難しいって初めて聞いた))
バスを降りてしばらく歩くと事件現場と思われる家へとたどり着いた。住宅街の周りにはKEEP OUTの黄色いテープが張り巡らされている。先ほど、神宮寺にはもうすぐ着くと連絡はしたはずなのだが数人の警察官以外、神宮寺の姿は見えない。しかし、いないからといって大学生が軽率に近づいて行っていい所でもない。
「八雲さん、もう一度神宮寺警部に連絡した方…が……って、あれ?」
「あ、ぁあのっ!霧崎先輩……あ、天ノ宮先輩ならあそこに…っ」
「………嘘だろ」
離れた場所から見ていた5人が気がつけば4人。真っ青な顔をした富樫が指差す方向には、天ノ宮が強面の警官の前をすり抜けて、黄色いテープを潜る瞬間である。霧崎はため息と共に頭を抱え、同時に、鋭い制止の声がかかる。
「こら、君!このテープが見えないのか!?」
「見えてるけど。それより神宮寺警部か、間宮警部補呼んでくれる?天ノ宮が来たって言えば伝わるから」
「君みたいな子と会っているほど警部達も暇ではない。さっさと出て行かんか!」
「確認もしないでどうしてわかるっていうの?確認してくれるまで、私はここを動かないから」
(うわ、お巡りさん怒ってる。あれ、めっちゃ怒ってるよ。どうしよう?涼成)
(どうするも何も、神宮寺警部の番号は八雲さんの携帯にしか入ってないんだ)
((あぁ、警部達が出てきてくれてれば…))
「この小娘……っ」
強面の警官が無理矢理に天ノ宮の腕をぐっと引いた瞬間、パシン…と乾いた音が響く。驚いた警官は弾かれた自分の手と、天ノ宮を交互に見やる。
「刑法第204条、人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。同じく208条、暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留または科料に処する。ーーー警察官ですもの、私が言わんとしてる事わかるわよね?わからないなら、上司に確認してもらっても「おーっと、それには及ばないよ、天ノ宮君。すまない、少し忙しくて我々の伝達が上手く行ってなかったようだ」
一触即発。
まさにその時に、慌てた神宮寺が間に現れ、仲裁に入る。その口元が少し笑いを堪えていたのを霧崎は見逃さない。どうやら天ノ宮達が来た事に気づいてはいたようだが、物陰で様子を見ていたらしい。
遅い、と神宮寺に文句を言い始める天ノ宮と合流すれば、まだ学生がいたのかと強面の警官の表情は厳しくなる。
「説明が遅れたんだが彼女達は………「心霊心理学及び精神心理学者の天ノ宮八雲と申します。自己紹介が遅れました事、お許しくださいね三谷和正巡査部長。さ、行きましょう神宮寺警部」
すれ違い様に三谷と呼ばれた警察官に押し付けられたのは1冊のメモ帳……否、警察手帳だった。胸ポケットに慌てて手をやる三谷だったがあるはずの物が無かったことに憤慨する。
「い、いつの間に……この手癖の悪いっ」
「いやぁ、三谷巡査。彼女がすみませんねぇ」「ごめんなさい、失礼します」
慌てる間宮を従えて颯爽と先行く天ノ宮に対して、霧崎を先頭に三谷に頭を下げ足早にその場を後にした。……三谷を見ていたら、ものすごくいたたまれない気持ちになったからだ。
「天ノ宮君、君いつの間に資格を?」
「嘘に決まってるじゃない。警官やお偉いさんを相手にするには偽りも必要よ」
「嘘って、天ノ宮君……」
「だってそうでしょ?現にあなた達2人は私の前にいる。現代社会、あの事件をありのまま報告して左遷されないのはどうしてかしら?」
「そ、れは…」
見透かしたような天ノ宮の言葉に、神宮寺は言葉を詰まらせる。どうしてあの報告書を提出して間宮共々左遷されなかったかなど、神宮寺の方が聞きたい。
直属の部長からは、曖昧に話を濁され、全く訳のわからないまま数日が過ぎたのち、2人の警官に出会った。1人は飄々とした男で、も1人は階級章を見て買いたての缶コーヒーを取り落とすほど驚いた。何で警視監が自分の目の前にいるのか。否、きっとあの事件の報告書を見て、直々に処分を下しに来たに違いない。鉛を飲まされる思いとはまさにこの事だと神宮寺は思う。
『神宮寺薫警部だったかな?君が提出した、赤いちゃんちゃんこ事件の報告書、読ませてもらった』
『いやぁ、よく出来た報告書でしたねぇ。局長?これまた集まったメンツの話も面白いったら』
『じ、自分は降格覚悟であの事件をありのまま、報告書を書かせていただきました。警察でもあのような不審死を闇に葬らせない為に、改めて調べて頂こうと…』
それを聞いた飄々とした男が、くつくつと押し殺した笑いをもらす。そのまま隣りの男と言葉を交わすと神宮寺の肩をぽんぽんと叩く。
『これからもお願いしますよ、報告書。あぁ、もちろん"ソレ"関係の事件で。降格処分もナシです』
『え』
『実際、君と間宮警部補が目の当たりにした事件なのだろう?君達2人でしばらく、怪異が関係する事件の捜査を担当してもらう』
予想外に進む話に神宮寺は混乱するばかりだが、どうやら間宮共々降格もクビも免れたらしい。その代わり再び怪奇現象の事件を担当しろ、という。思案する神宮寺をよそに警視監と男は、時計を確認すると神宮寺の横を歩き出す。
『……愚女もいる。君の力になるだろう』
『じゃあ、時間なんで。頑張ってくださいね、神宮寺警部』
『え?……待っ』
はっと神宮寺が振り返る時には、2人の姿はなかった。愚女、娘がとは誰の事なのかわからないまま神宮寺はその場に立ち尽くすしかなかった。
結局、報告書は上層部に受け入れられ、左遷されなかったという事実だけしか天ノ宮に伝えられる事はない。その後分かった事だが、警視監の名前は篠宮 慎吾というそうだ。
「左遷しないかわりに、怪奇現象にまつわる事件は俺に回ってくる事になったわけだけど。君たちが居てくれて助かるよ。逆に聞きたいんだけど、警視監の篠宮さんって知ってる?」
「……私が知ってる警官は貴方と間宮警部補だけよ。くだらない質問なら後にして。間宮警部補、事件調書見せて」
「あ、うん……ごめん」
もうその話は聞かないと言わんばかりに神宮寺の隣を歩いていた天ノ宮は、ため息をついて間宮の所へ行ってしまった。一瞬だけ、ものすごく睨まれた気もするが見間違いだろうか。霧崎の方を見ると、勘弁してくれというような表情をして口元に人差し指を当てられた。霧崎には内容こそ聴こえていないようだが、どうやら天ノ宮の気に触る事を言ってしまったようだ。聴取記録に目を通す天ノ宮には、もう先程までの不機嫌な様子は見られないが、警察内部の話は振るのはやめた方がよさそうだ、と神宮寺は思う。
「ねぇ、事件現場見られる?」
「え、でもみなさんが見るにはちょっと凄惨だと思いますよ……?」
「構わないわ、でも霧崎君達は無理しないで。前回とは訳が違うから、きっと一生のトラウマになるわよ」
心配そうな間宮を見て、霧崎達はかなり厳しい現実が待っているのだろうと悟る。警官達がこんなに渋るのだから、よほど目を覆いたくなる現場なのだろう。神宮寺と天ノ宮を筆頭に、現場である2階へ続く階段を上がる。上がりきった所で、事件現場の部屋より一つ向こうの部屋から、ドアの隙間から生気のない表情の少年がこちらを覗いている。天ノ宮や神宮寺に気がつくと、慌てたようにドアは閉ざされてしまった。
「双子の兄の久保 裕紀君。現場の第一発見者だから話を聞きたいんだけど、ショックが大きくて全く口を開いてくれないんだ。彼は改めて、引き合わすとして、事件現場はここだよ」
見張り役の警官が敬礼をしてその場を避けドアを開ける。途端、むわっと生暖かく血生臭いにおいが身体にまとわりつくような気がした。部屋を見渡すと、辺り一面は血の海で床も壁も赤く染まっている。部屋の中央にあった遺体の横には、神宮寺が気にしていたてるてる坊主が首が切れた状態で転がっている。天ノ宮は両手を合わせてから、ブルーシートをめくりあげる。
「ひぇっ」「うっ」
ブルーシートの下には、小学6年生くらいとらみられる少年が息絶えており、そこには本来あるはずの頭部が欠損していた。その場にいた夜野や富樫は思っていた以上の衝撃によろよろと後退りをする。富樫はその場に座り込むとボロボロと涙を流す。
「どっ、どうして……こんな目にっ。怪異はこんなに残酷なことするんですか…っ」
両手を顔で覆い、富樫は嗚咽を漏らす。夜野は富樫の背中を撫で落ち着かせようとするが、そう簡単に行きそうもない。悲しくて泣いているのも、悔しくて泣いているのもどちらの感情も混じっているのだ。適当な答えなど言えるわけがない。遺体のそばに膝をついている天ノ宮はそっとブルーシートを戻す。
「これは怪異じゃ、ない。怪異のフリをした人間がこの子を殺したんだと私は思う。そして彼の頭は、この部屋にはない。でも怪異を軽く見た犯人には、必ず不幸が起きる。……夜野さん、桐生君、富樫さんを連れて外へ。少し気分を落ち着かせておいで」
「じゃあ、その、お言葉に甘えて」
「間宮君、付き添ってあげて」
真っ青な顔をした富樫を連れて、夜野と桐生は間宮と共に現場を後にする。桐生の顔色も優れないようだったので、天ノ宮の判断は賢明だったと霧崎は思う。医療現場ですら、頭部のない遺体などほとんど見る事はないだろうし、大学の授業でだってない。霧崎と夜野ですら表情にこそ出さなかったが、悲鳴をあげて逃げ出したいくらいの衝動に駆られるのだ。普通の人が見たら富樫達の反応は正常であると思う。
「それじゃ、そろそろこの子を検死に回すよ。死因も調べないと」
「その検死、光南大学附属病院にお願い出来る?知り合いがいるから、七海っちの名前を出して事情を話せば受けてくれる。調べられるだけ調べてくれるから」
神宮寺の指示で警官達が、小さな遺体を遺体袋に収め運んでいく。光南大学附属病院には、医学部や法医学部を専門的に教える女医がいる。この少年の遺体は、彼女に見てもらう方が新しい情報を引き出してくれると踏んでのことだ。
部屋を移動しようと一歩踏み出した時、足元に転がっていたてるてる坊主の頭がコロコロと転がっていく。それを拾い上げると、可愛らしい顔が書いてあったであろう顔色は、血で真っ赤に染まっており僅かに重い。窓際に飾ってある他のてるてる坊主も血飛沫はついているが、頭が切断されているものはこれ一つ。
「神宮寺警部、このてるてる坊主も鑑識に回してもらって良いかしら?何か情報が得られるかも」
「了解。けど、てるてる坊主は雨を晴れにするものだろ?何でコイツは頭切られてるんだろうか」
「理由はわからないけど、雨を止ませるために被害者の子が作った。昨日の雨を今日は止ませて欲しい願いなら叶えられてるから、切断する必要はないんだけど」
「え、叶えられなかったら切断するの?」
「えぇ。晴れたら金の鈴とお酒を、曇って泣いたら首をちょん切るというのが七海っちから聞いた都市伝説」
神宮寺は他のぶら下がっているてるてる坊主も、写真を一枚撮った後、そっと窓際から一体ずつ取り外し袋に入れる。また別の警官に、鑑識に回すようにと指示を出すと、天ノ宮と霧崎を伴って、一度現場から離れることにした。下の階で何やら言い争う声が聞こえる。上の人間を出せ!とか、何様だ!とか、一方的に怒鳴っているようだ。
階段から降りてくる足音が聞こえたのか、間宮が今にも泣きそうな顔で階段の下から顔を覗かせる。神宮寺と目が合うと、後ろを指さしながらすごい勢いで手招きをする。
「け、警部ぅ。何とかしてくださいよぉ、久保さんったら今すぐ捜査をやめろだの、勝手に部屋に入るなだの、代議士に逆らうのかだの。しかも、ちょうど夜野さん達の姿を見てしまってアイツらは誰なんだと話を聞いてくれなくて」
「はぁ。一筋縄じゃいかないとは思っていたが、ここまでとは」
階段を降り切ると間宮は早口に捲し立てる。おそらく外に出ようとした夜野達と家主がすれ違ってしまったのだろう。警察以外に知らぬ人間が家の中にいるのだから、家主が怒るのは無理はない。調書記録によれば家主は久保 京平、48歳。お偉い議員をやっているようだ。他にも弁護士、保険会社など色々な方面に顔がきく人物のようだ。何故あんなにも怒る理由があるのかと神宮寺と間宮に問えば、本来ならば七海が現場に来て捜査協力をする予定だった。それを勝手に変えてしまったうえ、見知らぬ大学生が出入りしているのだから久保の怒りは当然ともいえる。
「警部、私も一緒に事情聴取参加する。霧崎君、夜野さん達と一緒にご近所さん達から久保家についての話を聞いてきてもらいたいの」
「それは構いませんが。八雲さんだけで大丈夫ですか?」
「ま、神宮寺警部もいるし。むしろ一緒にいない方がメンタル的に安全だと思う。だから夜野さん達をよろしくね」
渋々、霧崎が頷くと天ノ宮が笑って鞄からカセットテープを取り出し、手渡す。ケースには、いつも通りにお願いしますと走り書きが書いてある。要は会話の内容を代わりにしっかり記録してきてくれと言うことだ。
おい、いい加減にしろ!とドタドタと足音が近づいてくる。天ノ宮と神宮寺が早く行けと言わんばかりに手で払う。霧崎が足早に玄関から出て行くのと同時に、久保がリビングから警官を押しのけて神宮寺へと向かってきた。
「おいどういうことだ!?なぜ子どもがちょろちょろしている!来るのは大学の講師だけだったはずだろう!?」
「あ、えぇ。そのはずだったんですが…」
「だったんですが、なんだ!?その講師が子どもにばけたとでも言うのか、えぇ?」
ものすごい剣幕で怒鳴り散らす久保に、神宮寺が一歩引いて苦笑を浮かべる。その後ろでは間宮が泣きそうな顔で成り行きを見守っており、同行してきていた鑑識達が数名、足早に二階へ上がっていった。
「あのー。その講師なんですがー」
黙っていないでなんとか言ったらどうだ!と神宮寺の襟元を掴み始めたので、天ノ宮が久保の肩を叩く。怒り心頭といった様子の久保が振り返り神宮寺を離すと、天ノ宮を頭のてっぺんから爪先まで見下ろす。
「なんだ、お前は」
「七海隼人の助手、天ノ宮と申します。七海先生なのですが……っ」
天ノ宮が久保と視線を合わせると、ほろりと涙を流してばっと顔を覆う。
「七海は、連日不眠不休の民俗学の研究をしていたのです。ですが、昨日もこちらに伺う約束があるからと出かけようとして、駅の階段から足を踏み外し転落して救急車に運ばれてしまって……。運ばれながら、どうしても久保家へ行かなければならないとうわ言のように繰り返すので、七海には到底及びませんが私が代わりに馳せ参じました」
「ほぅ。で、先ほどの子ども達は?」
「彼らには来なくても良いと伝えたのですが、やはり七海の教え子。今回の件に何か感じるものがあったらしく、静止を払って来てしまったようです。……申し訳ございません」
天ノ宮が深々と腕を組む久保に向かって頭を下げる。その姿を見て久保は、少し怒りが落ち着いたのか小さく鼻を鳴らす。その後、神宮寺を一瞥すると踵を返す。
「礼儀はなっているようだな、いいだろう。さっさと事情聴取を始めてくれたまえ。これでも忙しいのでな」
リビングへと消えた久保を見て、間宮達が肩の荷が降りたように深々とため息を吐く。周りの警官や監察官達も張り詰めた空気が和らぎ、安堵しているようだ。上手く対応してくれた天ノ宮に礼を言おうと振り向いた神宮寺の先には誰もいない。どこへ行ったのかと視線を這わせると、再び盛大なため息が漏れた。
「ねぇ、天ノ宮君」
「ん?」
「事件現場で、飲食しないでくれるかな?」
「クッキーの1枚2枚くらいいいじゃない。ああいうの言いくるめるの、頭使うのよ」
「せめて現場の外でやって欲しかったな」
「次から善処するわ」
神宮寺の視線の先で、天ノ宮は袋に入ったクッキーを咀嚼していた。事件現場で飲食が出来るのは後にも先にも彼女しかいないだろう。先程までの凛々しさはどこへ行ってしまったのか。天ノ宮という人間が未だにわからない。まだ数回しか会っていないのだから、仕方ないのだが。現状ではただならない大学生としか言いようがない。
「さて、事情聴取と行きましょうか」
「今回は事件解決するまでカセットテープ没収ね」
「……仕方ないなぁ」
天ノ宮が持っていたカセットテープを神宮寺が取り上げてリビングへと入って行く。間宮が慌てて追いかける姿を横目で見やり、天ノ宮は鞄から何かを取り出して無造作にポケットに詰め込むと、聴取に参加するために神宮寺の後を追いかけていった。
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