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5.第四幕

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「ローズ」


私が閉じ込められた牢屋の前まできたその足音が立ち止まると、誰かが低い声でそっと私の名前を呼びました。


その声音は優しく低く悪意が感じられなかったので、私はドレスの中に伏せていた顔をそっと上げました。


するとそこには、目元や口元に小さな傷をたくさんつけたエイデン侯爵がいたのでした。


「待たせたね、こんな暗く寂しいところに一人にしてごめんね」


少しかすれた声で、エイデン侯爵が私の心配をしながらかちゃかちゃと私の牢屋につけられた鍵を外します。


「勝手に人に罪をきせといてよく言うわよ、それよりその傷はどうしたの?」


牢屋の鍵を開けて入ってきたエイデン侯爵をよく見ると、高価な服もぼろぼろでした。


「これを奪うために、ちょっと衛兵を...ね?」

彼は手に持った牢屋の鍵を私に見せながら、おどけたように笑おうとするも傷が痛むのか片目をしかめていました。

「無茶はやめて」

近くでみると彼の顔の傷はよりひどいものでした。せっかくの美しい顔も台無しです。

「それよりこれから私たちはどうなるの?」

私からの問にエイデン侯爵は一旦動きを止めました。そして、彼は一泊間をおいてから


「俺たちは王族不敬罪の罪に問われているんだ...」

と重々しく言いました。ルイ王子の従兄弟であるエイデン侯爵も王族の血を引いてますが、そんな彼まで罪に問われるとはノクタム王国の歴史上なかったことです。

なぜなら、ノクタム王国を統べている一族自体の人数は、彼らが統治している族よりもかなり極端に少ないために、
ノクタム王族は基本的に族内で互いを潰しあうことは、一族の人数を減らす恐れがあるためにしないからです。

「不敬罪って...」


不敬罪は簡単に言えばこの世界から追放される罪とノクタム王国では決められています。

どのように追放されるかは不敬罪を言い渡した者の裁量に委ねられます。

「大丈夫、ローズだけは何としても助けるから」

エイデン侯爵は突如黙り込んだ私の手を取って、そう言いました。

「そのためにここまで忍び込んできたんだから」

彼はそういうと、私の手を引っ張って牢屋から連れ出そうとしました。

その時、この牢屋に通じる階段をコツコツと音を立てて降りてくる足音が聞こえたのでした。




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