上 下
8 / 12

8話

しおりを挟む
――翌日9時半

「あの……本当に、ステファニー様お一人をお連れするのでしょうか? 従者も何もつけずに?」

屋敷の前に馬車を止め男性御者が困った様子で尋ねてくる。

「ええ、もちろんよ。ほら、これを見て頂戴」

「確かにこれは旦那様の筆跡ですね……」

受け取った許可証をじっと見つめる男性御者。

私は昨日、父に無理矢理書かせた馬車を使用する許可証を見せた。最初父は私一人だけ外出させることに猛反対していた。そこで言うことを聞いてくれなければもう口をきかない、と言ったところ半泣きで許可証にサインしてくれたのだ。

「それではステファニー様、どうぞ馬車にお乗り下さい」

「ええ、ありがとう。あ、行き先はここだから」

サイラスから貰っていた番地のメモを御者に渡すと、私は馬車に乗り込んだ。

「では、出発いたしますね」

扉が閉められると、すぐに馬車はレパート家へ向って走り出した――


****

10時を少し過ぎた頃に、 馬車はレパート家に到着した。

閑静な住宅街の一等地に建てられたオレンジ色の巨大な屋敷は、ベルモンド家と大差ないくらい大きかった。

「ふ~ん。ここがサイラスの家なのね」

馬車の窓から近づいてくるベルモンド家を見つめていると、門の入口に佇むサイラスの姿が見えた。

「フフ。いい子ね、ちゃーんと待っていてくれたのだわ」

頬杖をつきながら、私はかしこまった様子で待っているサイラスを見つめながら笑みを浮かべた……。



「こんにちは、サイラス。待たせてしまったかしら?」

馬車がサイラスの前に止まると、私は窓から顔をのぞかせた。

「ううん! たった今、僕も来たところだから!」

サイラスは顔を赤らめて返事をする。私がずっと馬車から見つめていたことを知らないのだろう。

「本当? それでは馬車に乗ってくれる?」

御者が扉を開けてくれたので、早速サイラスは馬車に乗り込み……キョロキョロと周囲を見渡した。

「何してるの? 早く座りなさいよ。立っていたらいつまでも出発出来ないわよ?」

「う、うん」

戸惑いながらも着席するサイラス。すると扉は閉められ、馬車はゆっくり動き始めた。

「ねぇ、ステファニー。従者はついていないの?」

「ええ、いないわよ」

「え! それじゃ2人だけで出かけるつもりだったの!?」

目を丸くするサイラス。

「当然じゃない、何故デートに付き添いがいるのよ。だけど、サイラスだって最初から私達だけで出かけるつもりだったのじゃないの? あなたこそ供も無しに1人で門の前で待っていたじゃない」

「だってそれはステファニーが従者を連れてきていると思ったからだよ!」

「それはサイラスが勝手に思っていたことでしょう? だったら昨日、従者はいるの? って、私に尋ねるべきだったでしょう?」

「う……」

「大丈夫よ。それほど危険な場所に行くわけじゃないのだから。そんなことよりも、今日は2人きりのデートを楽しまなくちゃ。それに、どうしても私達だけでは不安だって言うなら、うちの御者に付き添いを頼めばいいでしょう?」

「そうだ! それがいいよ!」

私の提案に納得したのか、サイラスが嬉しそうに頷く。
……御者にとっては、いい迷惑かもしれないが、ここはサイラスの不安を取り除くためにも今回はデートに付き添ってもらうしか無いだろう。

「それで、デートは何処に行くの?」

サイラスは身を乗り出してきた。

「ええ、まずは……動物園に行くわよ!」

デートの定番といえば動物園だ。

「動物園かぁ……楽しみだな」

「ええ、楽しみにしていて頂戴」

私は、ほくそ笑んだ。
実はサイラスには内緒にしているのだが、私にはある計画があったのだ――



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今夜中に婚約破棄してもらわナイト

待鳥園子
恋愛
気がつけば私、悪役令嬢に転生してしまったらしい。 不幸なことに記憶を取り戻したのが、なんと断罪不可避の婚約破棄される予定の、その日の朝だった! けど、後日談に書かれていた悪役令嬢の末路は珍しくぬるい。都会好きで派手好きな彼女はヒロインをいじめた罰として、都会を離れて静かな田舎で暮らすことになるだけ。 前世から筋金入りの陰キャな私は、華やかな社交界なんか興味ないし、のんびり田舎暮らしも悪くない。罰でもなく、単なるご褒美。文句など一言も言わずに、潔く婚約破棄されましょう。 ……えっ! ヒロインも探しているし、私の婚約者会場に不在なんだけど……私と婚約破棄する予定の王子様、どこに行ったのか、誰か知りませんか?!

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

10日後に婚約破棄される公爵令嬢

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。 「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」 これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。

妹に全てを奪われた私、実は周りから溺愛されていました

日々埋没。
恋愛
「すまないが僕は真実の愛に目覚めたんだ。ああげに愛しきは君の妹ただ一人だけなのさ」  公爵令嬢の主人公とその婚約者であるこの国の第一王子は、なんでも欲しがる妹によって関係を引き裂かれてしまう。  それだけでは飽き足らず、妹は王家主催の晩餐会で婚約破棄された姉を大勢の前で笑いものにさせようと計画するが、彼女は自分がそれまで周囲の人間から甘やかされていた本当の意味を知らなかった。  そして実はそれまで虐げられていた主人公こそがみんなから溺愛されており、晩餐会の現場で真実を知らされて立場が逆転した主人公は性格も見た目も醜い妹に決別を告げる――。  ※本作は過去に公開したことのある短編に修正を加えたものです。

可愛い私の妹に婚約者を寝取られましたが、別にもういらないのでお下がりでよければ差し上げます《他6作》

日々埋没。
恋愛
 妹がなにやら私の婚約者と一緒に貴族が集まるパーティー会場でくだらないサプライズを企んでいるらしい。  昔から事あるごとに突っかかってくる可愛い私の妹は今度こそ勝ち誇った顔で「ごめんなさいお姉さま」と声をかけてきて――。  ※この作品は過去に公開したことのあるより短めのお話をSS(ショートショート)集としてまとめたものです。  また本作のタイトル及び内容紹介は表題作のものとなります。

ヒロインに騙されて婚約者を手放しました

結城芙由奈 
恋愛
地味で冴えない脇役はヒーローに恋しちゃだめですか? どこにでもいるような地味で冴えない私の唯一の長所は明るい性格。一方許嫁は学園一人気のある、ちょっぴり無口な彼でした。そんなある日、彼が学園一人気のあるヒロインに告白している姿を偶然目にしてしまい、捨てられるのが惨めだった私は先に彼に婚約破棄を申し出て、彼の前から去ることを決意しました。だけど、それはヒロインによる策略で・・・?明るさだけが取り柄の私と無口で不器用な彼との恋の行方はどうなるの?

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶
恋愛
あぁ……どうしてこんなことになってしまったんだろう。 私は眠っている男性を起こさない様に、そっと寝台を降りた。 私が着ていたお仕着せは、乱暴に脱がされたせいでボタンは千切れ、エプロンも破れていた。 私は仕方なくそのお仕着せに袖を通すと、止められなくなったシャツの前を握りしめる様にした。 そして、部屋の扉にそっと手を掛ける。 ドアノブは回る。いつの間にか 鍵は開いていたみたいだ。 私は最後に後ろを振り返った。そこには裸で眠っている男性の胸が上下している事が確認出来る。深い眠りについている様だ。 外はまだ夜中。月明かりだけが差し込むこの部屋は薄暗い。男性の顔ははっきりとは確認出来なかった。 ※ 私の頭の中の異世界のお話です ※相変わらずのゆるゆるふわふわ設定です。ご了承下さい ※直接的な性描写等はありませんが、その行為を匂わせる言葉を使う場合があります。苦手な方はそっと閉じて下さると、自衛になるかと思います ※誤字脱字がちりばめられている可能性を否定出来ません。広い心で読んでいただけるとありがたいです

処理中です...