上 下
8 / 13

第7話 私だけが知っている

しおりを挟む
「この辺りで話をしましょうか?」

「はい、そうですね」

私はセリーヌを連れて、先程迄いた講堂から場所を移して校内にある噴水広場にやってきた。
そして私たちの姿が確認できる範囲には攻略対象をはじめ、多くの見物客の学生たちがじっと見守っている。

「セリーヌさん。ここなら噴水の音で私たちの話が聞かれることは無いでしょう?」

「そうね。それで?私にどんな話があるって言うの?言っておくけどね、私を脅迫しようとしても無駄よ。もう王子は私にぞっこんなんだから。貴女はさっさと追放されちゃってよ」

セリーヌは2人きりになると、ガラリと態度を変えて来た。成程、やはりこれが彼女の本性か。
だけど、私は追放される気は更々無かった。爵位も何もかも奪われ、『ルーラル』に追放なんてまっぴらごめんだった。何故ならあの地域は真冬になると極寒の地に変わる。
そして私は寒さにめっぽう弱いからだ。

 これから私はこのゲームのシナリオライターという特権を使って、今の立場を逆転させる。そう、『ルーラル』に行くのは私では無い。私の代わりにセリーヌに行って貰うのだ。

 早速私はセリーヌに尋ねた。

「ねぇ、星野愛って知ってる?」

 このゲームをトゥルーエンドまで辿り着けたということは、相当のマニアックに違いない。それなら私の名前を知ってる可能性がある。

「勿論知ってるわよ。だってこのゲームのシナリオライターでしょう?私、この人のシナリオの乙女ゲームシリーズの大ファンだもの」

やはりそうだ。運命の女神さまは私に微笑んでくれそうだ。

「そうなのね?実は私が、その星野愛よ」

「え?」

セリーヌは少しの間私をじっと見つめていたが……。

「何それ!そんな話、私が信じるとでも思っているの?断罪されたくないから苦し紛れの嘘をついているだけでしょう?!」

ビシイッとセリーヌは私を指さしてきた。

成程、やはりそう来たか。だけど、こんなのは想定範囲内。

「そうなの?ならこのゲームのシナリオライターである私だけしか知らない事実を教えてあげるわ。いい?アイザック王子は動物が大好きなの。特に好きな動物がウサギで、本当は寮では飼ってはいけないのに内緒でウサギを飼っているわよ」

実はこの情報はゲーム中でも描かれないし、完全に作者だけが知っている裏設定なのだ。

「え?そんな設定無いわよ。嘘つかないで頂戴。私がどれだけ、このゲームに精通していると思っているの?」

案の定、セリーヌは私の話を信じようとはしない。

「それならアイザック王子に直接尋ねてみればいいじゃない。丁度あそこにいるんだから」

私はビシッと遠くで様子を見つめているアイザック王子を指さした。
「……分かったわよ。聞いてくればいいんでしょう?」

「ええ、そうよ。ちなみに飼育しているウサギはメスよ。真っ白でとても毛並みが美しいの。名前はエリザベスと言って、王子の初恋の女性の名前と一緒よ」

「!」

その話を聞いたセリーヌが猛ダッシュでアイザック王子の元へ向かったのは言うまでも無かった――。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

【改稿版】婚約破棄は私から

どくりんご
恋愛
 ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。  乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!  婚約破棄は私から! ※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。 ◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位 ◆3/20 HOT6位  短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。

ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい! …確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!? *小説家になろう様でも投稿しています

処理中です...