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19-8 限界を超えた時

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(一体これはどういう状況なのだ……)

 シュミットは呆然と、エルウィンとアリアドネの様子を伺っていた。

「アリアドネ、2人の結婚式についてだが……本当なら明日にでも式を挙げたいくらいだが、何しろまだ準備が進んでいない。少し準備期間をくれないか?」

 エルウィンはシュミットの背筋が寒くなるほどに、今迄聞いたことのない甘い声でアリアドネに語りかけている。

「え……ええ?!け、結婚式ですか?!わ、私とエルウィン様の?」

 アリアドネは突然の言葉に頬を真っ赤に染める。

「ああ、そうだ。盛大にしよう。『レビアス』王国でも指折りの結婚式を挙げるんだ?どうだ?最高だろう?」

 うっとりした目つきでアリアドネを見つめるエルウィン。

(何を言っておられるのですか?エルウィン様!結婚式?!準備が進んでいないですって?!結婚の話すら初耳ですよ?!だいたい指折りの結婚式だなんて、何か計画でも立てておられるのですか?!)

「そうだ、その為にもまずは結婚式に着るドレスを作らなければな……幸い、『アイデン』には王都でも評判の良い仕立て屋がいる。そこに特注して作らせよう。1週間で作れるだろうか?」

「エ、エルウィン様!ドレスを1週間で仕立てるのは流石に無理がありますから……」

 アリアドネはオロオロしながらエルウィンに訴える。

「何、だったらこの城から応援に出せばいい。仕立てを得意とするメイドや下働きの者達がいるからな……。そうだ、いっそのこと仕立て屋をこの城に招いて監禁……いや、軟禁してドレスを作らせるのも良いかもしれないな」

 にこにこ顔でサラリと血の気の多い台詞を言うエルウィンにアリアドネは引きつった笑みを浮かべている。

「後は他に……そうだ。1番肝心なことを忘れていた。まずは招待客のリストを作らなければ。シュミット、誰を呼べばいいかリストアップしてくれ。結婚式の準備だが、最短でどれくらい掛かりそうだ?来月には何とか式を挙げられそうか?」

 シュミットはあまりにも早急すぎるエルウィンの話に叫びだしたくなる衝動を必死に抑えていたが……今の言葉にとうとう、シュミットの限界を超えてしまった。

「エルウィン様……少し宜しいでしょうか?」

 シュミットは立ち上がり、眼鏡を直した。

「どうした?シュミット」

「いえ……とりあえず今は予算の編成を……い、いえ。ここに『レビアス』王国、それに同盟国の王侯貴族の名簿がありますので、まずは一通り目を通して頂けますか?」

 シュミットは束になって綴られた書類をエルウィンの書斎机の上に置いた。

「何?!俺にやらせる気か?!」

 エルウィンはアリアドネを抱き寄せたまま、シュミットを睨みつけた。

「ええ、当然です。私も後ほど目を通しますが……少し、外の空気を吸ってきたいので……」

「後ほどではなく、今すぐやれ!いいか?俺に招待客のリストを作れるはずがないだろう?!大体何故俺がこんなにアリアドネとの式を急いでいるのかお前に分かるか?!」

「いいえ?少しも分かりませんが?」

 シュミットは首を振る。

「エルウィン様、どうか落ち着いて下さい」

 アリアドネもオロオロしながらエルウィンを宥める。

「いつまでもグズグズ結婚を先延ばしにしてみろ!またいつ、俺のアリアドネを他の輩に奪われるか分かったものではないだろう?!」

 そしてエルウィンはシュミットが見ているにも関わらず、ガバッとアリアドネを自分の胸に抱きしめると、睨みつけてきた。

「エ、エルウィン様……」

 シュミットは肩を震わせている。

(お、俺のアリアドネ?!絶対今のは聞き間違いでは無い。無いが……だ、駄目だ……も、もう限界だ……!)

「し、失礼致します!」

 シュミットは逃げるように部屋を飛び出していく。

「おい!何処へ行く!シュミット!」

 エルウィンの声が追いかけてくるが、シュミットは構わず廊下を走り抜けた。階段を駆け上がり、見晴台までたどり着くと、ようやくシュミットは爆発したように笑いだした。

「アーハッハッハッハッ!あ、あの……エルウィン様が……!あんな台詞を言うなんて……し、信じられ……ハハハハハハハ……ッ!!」

 その後、シュミットは5分近く笑い続けるのだった――。
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