348 / 376
18-13 闇の中からの目覚め
しおりを挟む
ハァッ!ハァッ!
息を切らせながらエルウィンは暗闇の中を駆けていた。
(父上……!母上……!どうか御無事で……!)
エルウィンは遠征中にアイゼンシュタットが襲われ、母親が人質になった知らせを受けた。
戦況が有利になったことを見届けたエルウィンは急いで助けに向かったのだ。
『父上ーっ!母上っ!』
闇の中、エルウィンの声だけが響き渡る。
『う……』
その時、近くでうめき声が聞こえた。
『向こうか?!』
声の聞こえた方向へ駆け寄ると、そこには2人の人物が倒れていた。
その2人は……。
『父上!母上!』
慌てて駆け寄ったときにエルウィンの足元に水音が聞こえた。
ピチャン……
『え……?』
足元を見ると、真っ赤な血溜まりが出来ていた。よく見ればうつ伏せに倒れた2人の身体には深々と剣が刺さっている。
『父上ーっ!母上ーっ!!』
エルウィンが絶叫した途端、2人の身体はかき消えてしまう。
『え……?父上?母上?何処なのですか?!』
その時――。
『エルウィン様……』
背後で自分の名を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと悲しげな顔のアリアドネが立っている。
『アリアドネッ!!戻ってきてくれたんだな?!』
エルウィンはアリアドネに駆け寄ると力強く抱きしめ、耳元で訴えた。
『アリアドネ……父と母が……いなくなってしまったんだ……。お前だけは俺の側にいてくれるよな?お願いだ……何処にも行かないと言ってくれ……』
『申し訳ございません……エルウィン様……』
しかし、アリアドネは悲しげに答える。
『駄目だ!お前は絶対に何処にも行かせない!頼む……どうか側にいてくれ……』
エルウィンはアリアドネを抱きしめたまま、まるで子供のように首を振った。
『さよなら、エルウィン様……』
『え……?』
腕の中のアリアドネはまるで霞のように消えていく。
『駄目だ……行くな……お前まで俺の前からいなくなるのか……?!頼む!行かないでくれ……!アリアドネーッ!!』
****
「……ハッ!」
突然エルウィンは目が覚めた。
気付けばオイルランプの揺れる部屋のベッドに寝かされている。そして周囲には自分を心配そうに見つめるエデルガルト達の姿があった。
「大将!!目が覚められたのですね?!」
真っ先に声を掛けてきたのはスティーブだった。
「あ?ああ……」
状況が全く理解できないエルウィンは頭をピロウに付けたまま返事をする。
「良かった……意識を取り戻されたのですね……」
シュミットが安堵のため息をつく。
「エルウィン様、本当に……ご無事で何よりでした。やはり『生命の雫』のおかげですな。お身体はいかがですか?」
エデルガルトが尋ねてきた。
「え……?身体……?」
その時、エルウィンは思い出した。アリアドネを庇って弓矢を受けたことを。
「そ、そうだ!アリアドネはっ!」
ガバッと身体を起こした途端、背中に激痛が走る。
「うっ!」
たまらず、苦しげに顔を歪める。
「いけません、エルウィン様!貴方は猛毒の毒矢に射られ……10時間近くも意識を失っておられたのですよ?!普通だったらとっくに死んでもおかしくない状況だったのですから!」
シュミットがエルウィンの身体を支えた。
「お、俺のことなど……ど、どうでもいい……。そ、それよりもアリアドネは……?アリアドネは無事なのか?」
荒い息を吐きながら、エルウィンは皆を見渡した。
「ええ。勿論です。アリアドネ様なら……」
エデルガルトが口を開きかけた時、マティアスが室内に飛び込んできた。
「た、大変ですっ!アリアドネ様が……。あ!エルウィン様!意識が戻られたのですね?!」
マティアスが身体を起こしているエルウィンに気付いた。
「マティアス……。ア、アリアドネがどうしたのだ……?言えっ!」
背中の痛みに耐えながらエルウィンが怒鳴りつけた。
「は、はい……アリアドネ様が……王太子殿下に連れ去られてしまいました!」
「「「「何だってっ?!」」」」
その場にいる全員が声を上げたのは言うまでも無かった――。
息を切らせながらエルウィンは暗闇の中を駆けていた。
(父上……!母上……!どうか御無事で……!)
エルウィンは遠征中にアイゼンシュタットが襲われ、母親が人質になった知らせを受けた。
戦況が有利になったことを見届けたエルウィンは急いで助けに向かったのだ。
『父上ーっ!母上っ!』
闇の中、エルウィンの声だけが響き渡る。
『う……』
その時、近くでうめき声が聞こえた。
『向こうか?!』
声の聞こえた方向へ駆け寄ると、そこには2人の人物が倒れていた。
その2人は……。
『父上!母上!』
慌てて駆け寄ったときにエルウィンの足元に水音が聞こえた。
ピチャン……
『え……?』
足元を見ると、真っ赤な血溜まりが出来ていた。よく見ればうつ伏せに倒れた2人の身体には深々と剣が刺さっている。
『父上ーっ!母上ーっ!!』
エルウィンが絶叫した途端、2人の身体はかき消えてしまう。
『え……?父上?母上?何処なのですか?!』
その時――。
『エルウィン様……』
背後で自分の名を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと悲しげな顔のアリアドネが立っている。
『アリアドネッ!!戻ってきてくれたんだな?!』
エルウィンはアリアドネに駆け寄ると力強く抱きしめ、耳元で訴えた。
『アリアドネ……父と母が……いなくなってしまったんだ……。お前だけは俺の側にいてくれるよな?お願いだ……何処にも行かないと言ってくれ……』
『申し訳ございません……エルウィン様……』
しかし、アリアドネは悲しげに答える。
『駄目だ!お前は絶対に何処にも行かせない!頼む……どうか側にいてくれ……』
エルウィンはアリアドネを抱きしめたまま、まるで子供のように首を振った。
『さよなら、エルウィン様……』
『え……?』
腕の中のアリアドネはまるで霞のように消えていく。
『駄目だ……行くな……お前まで俺の前からいなくなるのか……?!頼む!行かないでくれ……!アリアドネーッ!!』
****
「……ハッ!」
突然エルウィンは目が覚めた。
気付けばオイルランプの揺れる部屋のベッドに寝かされている。そして周囲には自分を心配そうに見つめるエデルガルト達の姿があった。
「大将!!目が覚められたのですね?!」
真っ先に声を掛けてきたのはスティーブだった。
「あ?ああ……」
状況が全く理解できないエルウィンは頭をピロウに付けたまま返事をする。
「良かった……意識を取り戻されたのですね……」
シュミットが安堵のため息をつく。
「エルウィン様、本当に……ご無事で何よりでした。やはり『生命の雫』のおかげですな。お身体はいかがですか?」
エデルガルトが尋ねてきた。
「え……?身体……?」
その時、エルウィンは思い出した。アリアドネを庇って弓矢を受けたことを。
「そ、そうだ!アリアドネはっ!」
ガバッと身体を起こした途端、背中に激痛が走る。
「うっ!」
たまらず、苦しげに顔を歪める。
「いけません、エルウィン様!貴方は猛毒の毒矢に射られ……10時間近くも意識を失っておられたのですよ?!普通だったらとっくに死んでもおかしくない状況だったのですから!」
シュミットがエルウィンの身体を支えた。
「お、俺のことなど……ど、どうでもいい……。そ、それよりもアリアドネは……?アリアドネは無事なのか?」
荒い息を吐きながら、エルウィンは皆を見渡した。
「ええ。勿論です。アリアドネ様なら……」
エデルガルトが口を開きかけた時、マティアスが室内に飛び込んできた。
「た、大変ですっ!アリアドネ様が……。あ!エルウィン様!意識が戻られたのですね?!」
マティアスが身体を起こしているエルウィンに気付いた。
「マティアス……。ア、アリアドネがどうしたのだ……?言えっ!」
背中の痛みに耐えながらエルウィンが怒鳴りつけた。
「は、はい……アリアドネ様が……王太子殿下に連れ去られてしまいました!」
「「「「何だってっ?!」」」」
その場にいる全員が声を上げたのは言うまでも無かった――。
13
お気に入りに追加
2,848
あなたにおすすめの小説
【完結】 婚約破棄間近の婚約者が、記憶をなくしました
瀬里
恋愛
その日、砂漠の国マレから留学に来ていた第13皇女バステトは、とうとうやらかしてしまった。
婚約者である王子ルークが好意を寄せているという子爵令嬢を、池に突き落とそうとしたのだ。
しかし、池には彼女をかばった王子が落ちることになってしまい、更に王子は、頭に怪我を負ってしまった。
――そして、ケイリッヒ王国の第一王子にして王太子、国民に絶大な人気を誇る、朱金の髪と浅葱色の瞳を持つ美貌の王子ルークは、あろうことか記憶喪失になってしまったのである。(第一部)
ケイリッヒで王子ルークに甘やかされながら平穏な学生生活を送るバステト。
しかし、祖国マレではクーデターが起こり、バステトの周囲には争乱の嵐が吹き荒れようとしていた。
今、為すべき事は何か?バステトは、ルークは、それぞれの想いを胸に、嵐に立ち向かう!(第二部)
全33話+番外編です
小説家になろうで600ブックマーク、総合評価5000ptほどいただいた作品です。
拍子挿絵を描いてくださったのは、ゆゆの様です。 挿絵の拡大は、第8話にあります。
https://www.pixiv.net/users/30628019
https://skima.jp/profile?id=90999
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します
佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚
不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。
私はきっとまた、二十歳を越えられないーー
一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。
二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。
三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――?
*ムーンライトノベルズにも掲載
愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!
香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。
ある日、父親から
「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」
と告げられる。
伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。
その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、
伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。
親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。
ライアンは、冷酷と噂されている。
さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。
決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!?
そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる