334 / 376
17-27 凍りつく者たち
しおりを挟む
「辺境伯!この女はお前の大事な女なのだろう?!」
カルタン族のリーダーはアリアドネを羽交い締めにしながら、短刀を突きつけている。
「アリアドネッ!!」
途端にエルウィンの動きが止まり、顔が青ざめる。そしてその場にいる全員の動きがピタリと止まり、2人の動向に注目する。
「クックック……やはり、そうか!」
そして更にアリアドネの首筋に短刀をあてる。
「!」
冷たい短刀の感触と恐怖でアリアドネは声にならない悲鳴を上げる。
「よせ!アリアドネに手を出すな!」
叫ぶエルウィン。
「そうか?止めてほしいか?辺境伯よ。だったら今すぐ剣を手放せ!」
その言葉に騎士たちは固唾をのんで見守る。エルウィンは相手の不意打ちを狙うのが得意な事はこの場にいる騎士たち全員が知っている。
誰もが、きっとエルウィンの頭の中には何か戦略があるに違いないと考えていた。
しかし――。
「分かった!!」
エルウィンは返事をするやいなや持っていた剣をあっさり手放してしまった。
カラーン……
乾いた音を立てて地面に落下するエルウィンの剣。
「う、嘘だろう!」
「エルウィン様が剣を捨てた!」
「信じられない!!」
「本気ですか?!エルウィン様!!」
騒いだのは当然騎士たちであった。
「うるさいっ!!」
それをエルウィンが一喝する。
「アリアドネに万一のことがあったらどうするつもりだ!!それなら剣を捨てたほうがマシだ!!」
「ゲッ!!」
「嘘だろうっ?!」
「本気なのだろうかっ?!」
「エルウィン様が剣を捨てるだって!」
「戦うことしか脳がないのに!!」
騒然とする騎士たち。
一方、剣を捨てたエルウィンをアリアドネは信じられない気持ちで見つめていた。
(あのエルウィン様が……こんな……私なんかの為に剣を捨てるなんて……)
これに喜んだのはカルタン族の男たちであった。
「野郎ども!辺境伯はすっかり腑抜けになった!よし!奴を含めてここにいる騎士共を全員片付けてやる!少しでも抵抗すればこの女の命は無いからな!」
アリアドネを羽交い締めにしたままリーダーが吠える。
(そ、そんな……私のせいで、また皆さんに迷惑を……!もう誰も犠牲にしたくないのに……!)
覚悟を決めたアリアドネが声を振り絞って叫んだ。
「エルウィン様!私の事は構わずに戦って下さい!!私はどうなっても構いませんから!!」
「そんなこと出来るか!!お前に万一のことがあったらどうするんだ!!戦えるはずないだろう!!」
エルウィンが叫び返す。
『!!!!』
エルウィンの言葉にアイゼンシュタットの騎士たちを含め、カルタン族の男たちまでがその場で凍りつく。
まさか血も涙もないと恐れられる辺境伯が、女性の為に戦うことを放棄するとはおおよそ考えつかないことだったからである。
「よ、よし!お望み通り、お前ら全員……ぐわぁっ!!」
突然リーダーは叫び、アリアドネを手放した。
一瞬何が起こったか分からず、その場に立ち尽くす一同。
「ぐああああっ!!目が!!俺の目がぁああ!!」
リーダーは右目を抑えて地面に倒れ込み、転げ回る。
「やったね!」
「流石はお兄ちゃん!」
ミカエルとウリエルが木の上から姿を現した。ミカエルの手にはスリングショットが握りしめられている。
「アリアドネ様っ!!」
突如物陰からマティアスが飛び出してくると、アリアドネの腕を掴んで背後に引き寄せた。
「な、何だ?!何が起こった!」
「畜生!」
「隠れていた仲間か!」
騒ぎ出すカルタン族の男たち。
「エルウィン様!アリアドネ様はお任せ下さい!!」
カインが剣を持って建物の陰から飛び出してきた。
「分かった!!」
エルウィンは剣を拾い上げると、カルタン族達に突っ込んでいく。
「貴様ら……!覚悟しろーっ!!」
そして雄叫びを上げてエルウィンに続くアイゼンシュタットの騎士たち。
もはや……カルタン族の残党達は、『戦場の暴君』と呼ばれるエルウィンの敵では無かった――。
カルタン族のリーダーはアリアドネを羽交い締めにしながら、短刀を突きつけている。
「アリアドネッ!!」
途端にエルウィンの動きが止まり、顔が青ざめる。そしてその場にいる全員の動きがピタリと止まり、2人の動向に注目する。
「クックック……やはり、そうか!」
そして更にアリアドネの首筋に短刀をあてる。
「!」
冷たい短刀の感触と恐怖でアリアドネは声にならない悲鳴を上げる。
「よせ!アリアドネに手を出すな!」
叫ぶエルウィン。
「そうか?止めてほしいか?辺境伯よ。だったら今すぐ剣を手放せ!」
その言葉に騎士たちは固唾をのんで見守る。エルウィンは相手の不意打ちを狙うのが得意な事はこの場にいる騎士たち全員が知っている。
誰もが、きっとエルウィンの頭の中には何か戦略があるに違いないと考えていた。
しかし――。
「分かった!!」
エルウィンは返事をするやいなや持っていた剣をあっさり手放してしまった。
カラーン……
乾いた音を立てて地面に落下するエルウィンの剣。
「う、嘘だろう!」
「エルウィン様が剣を捨てた!」
「信じられない!!」
「本気ですか?!エルウィン様!!」
騒いだのは当然騎士たちであった。
「うるさいっ!!」
それをエルウィンが一喝する。
「アリアドネに万一のことがあったらどうするつもりだ!!それなら剣を捨てたほうがマシだ!!」
「ゲッ!!」
「嘘だろうっ?!」
「本気なのだろうかっ?!」
「エルウィン様が剣を捨てるだって!」
「戦うことしか脳がないのに!!」
騒然とする騎士たち。
一方、剣を捨てたエルウィンをアリアドネは信じられない気持ちで見つめていた。
(あのエルウィン様が……こんな……私なんかの為に剣を捨てるなんて……)
これに喜んだのはカルタン族の男たちであった。
「野郎ども!辺境伯はすっかり腑抜けになった!よし!奴を含めてここにいる騎士共を全員片付けてやる!少しでも抵抗すればこの女の命は無いからな!」
アリアドネを羽交い締めにしたままリーダーが吠える。
(そ、そんな……私のせいで、また皆さんに迷惑を……!もう誰も犠牲にしたくないのに……!)
覚悟を決めたアリアドネが声を振り絞って叫んだ。
「エルウィン様!私の事は構わずに戦って下さい!!私はどうなっても構いませんから!!」
「そんなこと出来るか!!お前に万一のことがあったらどうするんだ!!戦えるはずないだろう!!」
エルウィンが叫び返す。
『!!!!』
エルウィンの言葉にアイゼンシュタットの騎士たちを含め、カルタン族の男たちまでがその場で凍りつく。
まさか血も涙もないと恐れられる辺境伯が、女性の為に戦うことを放棄するとはおおよそ考えつかないことだったからである。
「よ、よし!お望み通り、お前ら全員……ぐわぁっ!!」
突然リーダーは叫び、アリアドネを手放した。
一瞬何が起こったか分からず、その場に立ち尽くす一同。
「ぐああああっ!!目が!!俺の目がぁああ!!」
リーダーは右目を抑えて地面に倒れ込み、転げ回る。
「やったね!」
「流石はお兄ちゃん!」
ミカエルとウリエルが木の上から姿を現した。ミカエルの手にはスリングショットが握りしめられている。
「アリアドネ様っ!!」
突如物陰からマティアスが飛び出してくると、アリアドネの腕を掴んで背後に引き寄せた。
「な、何だ?!何が起こった!」
「畜生!」
「隠れていた仲間か!」
騒ぎ出すカルタン族の男たち。
「エルウィン様!アリアドネ様はお任せ下さい!!」
カインが剣を持って建物の陰から飛び出してきた。
「分かった!!」
エルウィンは剣を拾い上げると、カルタン族達に突っ込んでいく。
「貴様ら……!覚悟しろーっ!!」
そして雄叫びを上げてエルウィンに続くアイゼンシュタットの騎士たち。
もはや……カルタン族の残党達は、『戦場の暴君』と呼ばれるエルウィンの敵では無かった――。
15
お気に入りに追加
2,882
あなたにおすすめの小説
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します
佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚
不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。
私はきっとまた、二十歳を越えられないーー
一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。
二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。
三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――?
*ムーンライトノベルズにも掲載
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと
淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品)
※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。
原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。
よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。
王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。
どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。
家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。
1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。
2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる)
3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。
4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。
5.お父様と弟の問題を解決する。
それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc.
リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。
ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう?
たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。
これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。
【注意点】
恋愛要素は弱め。
設定はかなりゆるめに作っています。
1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。
2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる