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9-10 ゾーイの受難
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「あ…」
エルウィンがアリアドネを連れて去っていった後、ゾーイはその場に崩れ落ちた。
その様子を見ていた2人のメイドはコソコソと話し合いを始めた。
「ねぇ…もうゾーイと一緒にいるのはやめたほうがいいんじゃないかしら?」
「ええ、そうよね。私達も同類とみなされたらたまらないわ」
「エルウィン様にだけは絶対に目をつけられたくないし…」
すると、その言葉を耳にしたゾーイが2人を怒鳴りつけた。
「な、何よっ!あんたたちだってあのメイドが生意気で気に入らないって言ってたじゃないっ!だから私は…皆の気持ちを代弁して行動しただけじゃないのっ!」
「はぁっ?!何言ってるのよっ!あんたが勝手にしたことでしょう?!」
「そうよっ!私達はあのメイドをいじめろなんて一言も言ってないでしょう?!」
「大体あんたはやりすぎよっ!少しは加減てものを知らないのっ?!」
「食器を割っただけならまだしも、あのメイドを割れた食器の上で踏みつけたじゃない!」
2人のメイドは口々に文句を言い始めた。
「な、何ですって…!私はこれでも子爵家の娘なのよっ!あんたたちとは一緒にしないでっ!」
ゾーイは立ち上がり、1人のメイドに手をあげようとしたその時―。
「いい加減にしろっ!ゾーイッ!」
廊下に声が響き渡った。
「え…?」
ゾーイは恐る恐る振り向くと、そこには冷たい瞳のオズワルドが立っていた。
「あ…!オズワルド様っ!」
「ご挨拶申し上げますっ!」
2人のメイドは怯えながら頭を下げた。
ランベールの側近でありながら、2つの騎士団をまとめ上げるオズワルド。
常に無表情で何を考えているのか分からないこの男はアイゼンシュタット城では不気味な存在として恐れられている。
そのオズワルドが声を荒らげたのだ。
メイドたちはすっかり震え上がっていた。
「…お前たちは去れ」
オズワルドは2人のメイドを見ることも無く命じた。
「は、はいっ!」
「失礼致しますっ!」
2人はスカートを翻し、逃げるように走り去っていった。後に残されたのは怯えているゾーイと彼女を睨みつけるオズワルドのみ。
「ゾーイ…お前は何処まで愚かな女なのだ?ただでさえ、お前はエルウィン様に目をつけられているというのに…あの方のお気に入りのメイドに怪我を負わせるなど…」
するとゾーイは顔を上げた。
「いいえっ!エルウィン様は…私のことなど、これっぽっちも覚えておりませんでしたっ!私のほうが…余程あの卑しいメイドよりも身分も高く、教養もあるのに…あんな下働き上がりの獣臭い女が専属メイドになるなんておかしいですっ!」
「黙れっ!おかしいのはお前の方だっ!」
ゾーイはアリアドネが実は伯爵令嬢であり、本来はエルウィンに嫁ぐ為にこの城にやってきた事など知る由も無い。
「オズワルド様…」
ゾーイは目に涙を浮かべてオズワルドを見た。
「た、助けて下さい…。私…ひょっとすると越冬期間が終わるまでに…エルウィン様に城を追い出されてしまうかもしれません…」
「ゾーイ…そんなにしてまでこの城に残りたいのか?」
オズワルドは冷たい声でゾーイに尋ねた。
「は、はい…」
頷くゾーイ。
ゾーイは子爵家の娘では合ったが…娘であることと、後妻の娘で末っ子ということもあり、実は厄介者扱いされていたのだ。
だから何としても実家に戻るわけにはいかなったのだ。
「そうか…ならお前にも出来る仕事を与えてやろう」
オズワルドは不敵な笑みを口元に浮かべると後方に声を掛けた。
「話は聞いたな?」
「はい」
すると柱の陰から屈強な1人の兵士が現れた。
「この女を東塔のメイドとして連れて行け。そしてこのメイドにピッタリの特別任務の仕事に就かせるのだ」
「ええ…分かりました」
兵士は口元に笑みを浮かべて返事をした。
「え…?ま、まさか…」
ゾーイはそれが何を現しているのか、すぐに理解した。
「喜べ、ゾーイ。お前にピッタリのメイドの仕事を与えてやろう。しっかり働いて…役立つのだぞ?」
オズワルドは口元を歪めながらゾーイを見た。
「そ、そんな…その仕事だけは…お、お許しをっ!あっ!」
ゾーイは乱暴に兵士に腕を掴まれた。
「さぁ来いっ!エルウィン様の取締が厳しくなって、欲求不満の兵士が東塔には溢れているからな…せいぜい役立ってくれよ?」
「お、お願いですっ!それだけは…許して下さいっ!」
暴れるゾーイを振り向くこともなくオズワルドは命じた。
「…うるさいから早く連れて行け。南塔の奴等に見つかったらマズイ」
「…はっ!」
兵士は泣き叫ぶゾーイを無理やり抱えあげた。
「キャアァッ!だ、誰か!助けてっ!」
「黙れっ!」
兵士は怒鳴りつけると、暴れるゾーイを物ともせずに担ぎ上げると足早に立ち去っていった―。
**
ゾーイが連れ去られ、静かになった廊下でオズワルドは不敵な笑みを浮かべていた。
「ゾーイはとんだ女だったが…その御蔭でエルウィンとアリアドネの距離が近づくかもしれんな…」
そして、オズワルドは足音を響かせながら地下鍛錬場へ向った。
ロイに会いに行く為に―。
エルウィンがアリアドネを連れて去っていった後、ゾーイはその場に崩れ落ちた。
その様子を見ていた2人のメイドはコソコソと話し合いを始めた。
「ねぇ…もうゾーイと一緒にいるのはやめたほうがいいんじゃないかしら?」
「ええ、そうよね。私達も同類とみなされたらたまらないわ」
「エルウィン様にだけは絶対に目をつけられたくないし…」
すると、その言葉を耳にしたゾーイが2人を怒鳴りつけた。
「な、何よっ!あんたたちだってあのメイドが生意気で気に入らないって言ってたじゃないっ!だから私は…皆の気持ちを代弁して行動しただけじゃないのっ!」
「はぁっ?!何言ってるのよっ!あんたが勝手にしたことでしょう?!」
「そうよっ!私達はあのメイドをいじめろなんて一言も言ってないでしょう?!」
「大体あんたはやりすぎよっ!少しは加減てものを知らないのっ?!」
「食器を割っただけならまだしも、あのメイドを割れた食器の上で踏みつけたじゃない!」
2人のメイドは口々に文句を言い始めた。
「な、何ですって…!私はこれでも子爵家の娘なのよっ!あんたたちとは一緒にしないでっ!」
ゾーイは立ち上がり、1人のメイドに手をあげようとしたその時―。
「いい加減にしろっ!ゾーイッ!」
廊下に声が響き渡った。
「え…?」
ゾーイは恐る恐る振り向くと、そこには冷たい瞳のオズワルドが立っていた。
「あ…!オズワルド様っ!」
「ご挨拶申し上げますっ!」
2人のメイドは怯えながら頭を下げた。
ランベールの側近でありながら、2つの騎士団をまとめ上げるオズワルド。
常に無表情で何を考えているのか分からないこの男はアイゼンシュタット城では不気味な存在として恐れられている。
そのオズワルドが声を荒らげたのだ。
メイドたちはすっかり震え上がっていた。
「…お前たちは去れ」
オズワルドは2人のメイドを見ることも無く命じた。
「は、はいっ!」
「失礼致しますっ!」
2人はスカートを翻し、逃げるように走り去っていった。後に残されたのは怯えているゾーイと彼女を睨みつけるオズワルドのみ。
「ゾーイ…お前は何処まで愚かな女なのだ?ただでさえ、お前はエルウィン様に目をつけられているというのに…あの方のお気に入りのメイドに怪我を負わせるなど…」
するとゾーイは顔を上げた。
「いいえっ!エルウィン様は…私のことなど、これっぽっちも覚えておりませんでしたっ!私のほうが…余程あの卑しいメイドよりも身分も高く、教養もあるのに…あんな下働き上がりの獣臭い女が専属メイドになるなんておかしいですっ!」
「黙れっ!おかしいのはお前の方だっ!」
ゾーイはアリアドネが実は伯爵令嬢であり、本来はエルウィンに嫁ぐ為にこの城にやってきた事など知る由も無い。
「オズワルド様…」
ゾーイは目に涙を浮かべてオズワルドを見た。
「た、助けて下さい…。私…ひょっとすると越冬期間が終わるまでに…エルウィン様に城を追い出されてしまうかもしれません…」
「ゾーイ…そんなにしてまでこの城に残りたいのか?」
オズワルドは冷たい声でゾーイに尋ねた。
「は、はい…」
頷くゾーイ。
ゾーイは子爵家の娘では合ったが…娘であることと、後妻の娘で末っ子ということもあり、実は厄介者扱いされていたのだ。
だから何としても実家に戻るわけにはいかなったのだ。
「そうか…ならお前にも出来る仕事を与えてやろう」
オズワルドは不敵な笑みを口元に浮かべると後方に声を掛けた。
「話は聞いたな?」
「はい」
すると柱の陰から屈強な1人の兵士が現れた。
「この女を東塔のメイドとして連れて行け。そしてこのメイドにピッタリの特別任務の仕事に就かせるのだ」
「ええ…分かりました」
兵士は口元に笑みを浮かべて返事をした。
「え…?ま、まさか…」
ゾーイはそれが何を現しているのか、すぐに理解した。
「喜べ、ゾーイ。お前にピッタリのメイドの仕事を与えてやろう。しっかり働いて…役立つのだぞ?」
オズワルドは口元を歪めながらゾーイを見た。
「そ、そんな…その仕事だけは…お、お許しをっ!あっ!」
ゾーイは乱暴に兵士に腕を掴まれた。
「さぁ来いっ!エルウィン様の取締が厳しくなって、欲求不満の兵士が東塔には溢れているからな…せいぜい役立ってくれよ?」
「お、お願いですっ!それだけは…許して下さいっ!」
暴れるゾーイを振り向くこともなくオズワルドは命じた。
「…うるさいから早く連れて行け。南塔の奴等に見つかったらマズイ」
「…はっ!」
兵士は泣き叫ぶゾーイを無理やり抱えあげた。
「キャアァッ!だ、誰か!助けてっ!」
「黙れっ!」
兵士は怒鳴りつけると、暴れるゾーイを物ともせずに担ぎ上げると足早に立ち去っていった―。
**
ゾーイが連れ去られ、静かになった廊下でオズワルドは不敵な笑みを浮かべていた。
「ゾーイはとんだ女だったが…その御蔭でエルウィンとアリアドネの距離が近づくかもしれんな…」
そして、オズワルドは足音を響かせながら地下鍛錬場へ向った。
ロイに会いに行く為に―。
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