上 下
91 / 376

6-16 オズワルドの陰謀

しおりを挟む
 長い廊下をオズワルドは足音を響かせ、歩いていた。

やがて、1つの部屋の前に来ると足を止めた。ここはランベールの2人の子供達の部屋の前である。

コンコン

オズワルドは迷うこと無く扉をノックした。

「はい」

すぐに中から返事が聞こえ、扉が開かれた。
姿を現したのはミカエルとウリエルの年若い侍女である。

「あ…オズワルド様、ご機嫌麗しゅうございます」

侍女はドレスの裾を持ち上げ、頭を下げた。

「…よい。顔をあげよ」

「…はい」

侍女は顔を上げて、恐る恐るオズワルドを見た。

「お前、名は確か…」

「はい、ゾーイと申します」

「確か、ウシャルネ子爵家の三女だったか?」

「はい、さようでございます。2年前からミカエル様とウリエル様の侍女としてこちらで勤めさせて頂いております」

「ミカエル様とウリエル様はおいでなのか?」

「はい、今は読書の時間ですのでお2人とも静かにされています」

「中へ入らせてもいいかな?」

それは有無を言わさぬ強さがあった。

「は、はい…どうぞ…」

ゾーイは震えを押し殺して返事をした。

「…失礼する」

オズワルドは部屋の中へ入ると、まっすぐにミカエルとウリエルの元へと向かっていく。

(やはり…オズワルド様は恐ろしい人だわ…心の内がさっぱり読めない。これだったらまだランベール様の方が分かりやすい方だったわ…)

オズワルドはアイゼンシュタット城では得体の知れない人物として、別の意味で恐れられていた。
10年ほどまえにランベールに連れられてこの城に来てからは、彼の右腕として常に影のように立っていた。
剣の腕前も素晴らしく、決して戦場に出て戦うことの無いランベールの代わりに戦に出て、数多くの功績を成し遂げ…あっと言う間に騎士団長の地位にまで上り詰めた人物であるが、経歴や年齢は一切不詳だった。
外見は20代とも30代とも見て取れる。


「ミカエル様、ウリエル様。読書中ですが…少々お話宜しいでしょうか?」

オズワルドはミカエルとウリエルの前に立つと声を掛けた。

「はい…」

ミカエルは恐る恐る顔を上げてオズワルドを見た。ウリエルは怯えた様子で黙っている。

「ミカエル様、ウリエル様。最近エルウィン様とご一緒に食事をされましたね。どうでしたか?久しぶりにエルウィン様にお会いされて」

「はい。とても楽しかったです。エルウィン様は色々な話をしてくれるので…戦場での話や、諸外国の話など…どれも興味深いものばかりでした」

幼い頃のエルウィンにそっくりなミカエルは怯えた様子でオズワルドに返事をした。

「さようでございましたか…ミカエル様もウリエル様もエルウィン様を慕っておりましたからな…ただ、お父上に気を使われて中々お会いできなかったでしょうが…これからは思う存分お会いになると宜しいでしょう」

「え…い、いいの…?」

ウリエルがその時初めてオズワルドを見た。

「ええ、勿論ですとも。もう何物にも遠慮されることはありません。きっとエルウィン様もお2人を快く受け入れてくれることでしょう?」

そして次にオズワルドは背後に立っているゾーイに声を掛けた。

「ゾーイ」

「は、はい…」

「お前はミカエル様とウリエル様の侍女なのだ。必ずお2人をエルウィン様の元へお連れする時はついていくのだぞ?」

「は、はい…」

その言葉にゾーイは顔を赤らめた。

実はゾーイはエルウィンに密かに恋心を抱いているのをオズワルドは知っていたのだ。

(フフフ…ミカエルとウリエルをエルウィンのところに通わせ…奴の弱みを握るのだ。ついでにこの女をエルウィンの元に送り込んでやるのだ。いくら堅物だからと言っても所詮、奴もただの男なのだからな…)

オズワルドは今後の計画を頭の中で練り上げ…不敵な笑みを浮かべた―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】 婚約破棄間近の婚約者が、記憶をなくしました

瀬里
恋愛
 その日、砂漠の国マレから留学に来ていた第13皇女バステトは、とうとうやらかしてしまった。  婚約者である王子ルークが好意を寄せているという子爵令嬢を、池に突き落とそうとしたのだ。  しかし、池には彼女をかばった王子が落ちることになってしまい、更に王子は、頭に怪我を負ってしまった。  ――そして、ケイリッヒ王国の第一王子にして王太子、国民に絶大な人気を誇る、朱金の髪と浅葱色の瞳を持つ美貌の王子ルークは、あろうことか記憶喪失になってしまったのである。(第一部)  ケイリッヒで王子ルークに甘やかされながら平穏な学生生活を送るバステト。  しかし、祖国マレではクーデターが起こり、バステトの周囲には争乱の嵐が吹き荒れようとしていた。  今、為すべき事は何か?バステトは、ルークは、それぞれの想いを胸に、嵐に立ち向かう!(第二部) 全33話+番外編です  小説家になろうで600ブックマーク、総合評価5000ptほどいただいた作品です。 拍子挿絵を描いてくださったのは、ゆゆの様です。 挿絵の拡大は、第8話にあります。 https://www.pixiv.net/users/30628019 https://skima.jp/profile?id=90999

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

処理中です...