87 / 376
6-12 挑発する男
しおりを挟む
「それは一体どういう意味なんだ?エルウィン様にアリアドネが呼ばれると何故気がかりなんだ?」
スティーブはエルウィンをよくからかうことは合ったが、それでもアイゼンシュタット城の城主として…騎士として尊敬していた。だからエルウィンを悪く言う者は許せなかったのだ。
「お言葉通りですが?私が何も知らないとでも思っているのですか?本当はアリアドネは城主様の妻となるべく、この城へやってきたのですよね?それなのに、城主様は無下にも追い払おうとして…だから彼女はこんな下働きに身を置いているのではありませんか?」
ダリウスは臆すること無くスティーブの前で言い切った。
「ダリウスッ?!」
アリアドネがダリウスの言葉に目を見張る。
「お、お前…!」
スティーブは殺気をこめてダリウスを睨みつけた。
仮にもスティーブはこの城の第一騎士団長であり、その強さは諸外国にまで知れ渡る程であった。それなのにスティーブが睨みつけても全く動じることのないダリウスに言いようのない違和感を感じていた。
(この男…。一体何者だ…?この俺の殺気を込めた目を見ても動じることがないなんて…。本当に…ただの領民なのか…?)
一方、スティーブの殺気に怯えているのはアリアドネの方だった。いつもにこやかに笑みを浮かべ、朗らかなスティーブしか目にした事が無かったアリアドネは、その変貌ぶりに驚き…足がすくんでしまった。
アリアドネが怯えている様子にダリウスは気付いていた。
「アリアドネ、おいで」
ダリウスはアリアドネの腕を掴んで自分の方に引き寄せ、アリアドネをスティーブから守るように囲込むと言った。
「スティーブ様、アリアドネが怯えているじゃないですか。か弱い女性の前で殺気を放つのはおやめください」
穏やかな言い方では合ったが…その眼光は鋭かった。いつものスティーブならこのような事ぐらいでは引かないが、アリアドネが絡んでくるとそうはいかない。
「あ…す、すまないっ!アリアドネッ!」
スティーブは瞬時に殺気を消すと、アリアドネに頭を下げた。
(まずい…いつもの癖で…彼女の前なのに殺気を放ってしまった)
他の者達から恐れられてもいい。
だが、アリアドネからは自分に対する恐怖心を抱いて欲しくは無かった。
「い、いえ…少し…驚いただけですから…」
しかし、まだアリアドネの身体は震えている。
「大丈夫か?アリアドネ」
ダリウスはアリアドネの髪を撫でながら尋ねてくる。その様子もスティーブを苛立たせた。
(この男…俺がアリアドネに好意を抱いているのを知っていてわざとやっているんだな…)
しかし、ここで怒りを顕にすればますますアリアドネから怖がられてしまう。そう思ったスティーブは拳を握りしめると口を開いた。
「アリアドネ、今日はエルウィン様の礼服を選んでくれてありがとう。それじゃ俺は行くよ。これから葬儀に参列しないとならないからな」
「いえ、お役に立てて光栄です」
アリアドネはダリウスの腕の中で返事をした。
「スティーブ様。アリアドネをここまで連れて来て下さってありがとうございます」
何処か皮肉を込めたダリウスの物言いにスティーブはカチンときたが、冷静に答えた。
「レディーを守るのは騎士として当然だからな。それじゃ、またなアリアドネ」
「はい、スティーブ様」
アリアドネの返事に笑顔で応えたスティーブは踵を返すと、マントを翻し…大股でその場を立ち去って行った。
ダリウスが立ち去るとアリアドネはすぐに口を開いた。
「ダリウス…手を離してくれる…?」
アリアドネは未だにダリウスの腕の中にいた。
「あ?ああ。ごめん」
ダリウスが手を離すと、アリアドネは距離を取ると言った。
「…困るわ…あまり…スティーブ様の前でこういう事をされると…」
アリアドネの言葉にダリウスは眉をしかめた。
「…何故だい?まさか…スティーブ様に気があるとでも?」
「いいえ、そう言う事ではないわ。ただ…私は本来、エルウィン様の妻となるべくこの城にやってきたのだもの…。その事をスティーブ様もシュミット様もご存知なのよ?だから…こんな勘違いされるような真似は…しないでもらいたいの」
「アリアドネ。まさか君は…エルウィン様の妻になろうと考えているのか?」
ダリウスの声が震えている。
「まさか!だって…私はエルウィン様から拒絶されたのよ?それはありえないわ。でも…」
(エルウィン様に…妙な誤解はされたくない…。)
それがアリアドネの本心だった―。
スティーブはエルウィンをよくからかうことは合ったが、それでもアイゼンシュタット城の城主として…騎士として尊敬していた。だからエルウィンを悪く言う者は許せなかったのだ。
「お言葉通りですが?私が何も知らないとでも思っているのですか?本当はアリアドネは城主様の妻となるべく、この城へやってきたのですよね?それなのに、城主様は無下にも追い払おうとして…だから彼女はこんな下働きに身を置いているのではありませんか?」
ダリウスは臆すること無くスティーブの前で言い切った。
「ダリウスッ?!」
アリアドネがダリウスの言葉に目を見張る。
「お、お前…!」
スティーブは殺気をこめてダリウスを睨みつけた。
仮にもスティーブはこの城の第一騎士団長であり、その強さは諸外国にまで知れ渡る程であった。それなのにスティーブが睨みつけても全く動じることのないダリウスに言いようのない違和感を感じていた。
(この男…。一体何者だ…?この俺の殺気を込めた目を見ても動じることがないなんて…。本当に…ただの領民なのか…?)
一方、スティーブの殺気に怯えているのはアリアドネの方だった。いつもにこやかに笑みを浮かべ、朗らかなスティーブしか目にした事が無かったアリアドネは、その変貌ぶりに驚き…足がすくんでしまった。
アリアドネが怯えている様子にダリウスは気付いていた。
「アリアドネ、おいで」
ダリウスはアリアドネの腕を掴んで自分の方に引き寄せ、アリアドネをスティーブから守るように囲込むと言った。
「スティーブ様、アリアドネが怯えているじゃないですか。か弱い女性の前で殺気を放つのはおやめください」
穏やかな言い方では合ったが…その眼光は鋭かった。いつものスティーブならこのような事ぐらいでは引かないが、アリアドネが絡んでくるとそうはいかない。
「あ…す、すまないっ!アリアドネッ!」
スティーブは瞬時に殺気を消すと、アリアドネに頭を下げた。
(まずい…いつもの癖で…彼女の前なのに殺気を放ってしまった)
他の者達から恐れられてもいい。
だが、アリアドネからは自分に対する恐怖心を抱いて欲しくは無かった。
「い、いえ…少し…驚いただけですから…」
しかし、まだアリアドネの身体は震えている。
「大丈夫か?アリアドネ」
ダリウスはアリアドネの髪を撫でながら尋ねてくる。その様子もスティーブを苛立たせた。
(この男…俺がアリアドネに好意を抱いているのを知っていてわざとやっているんだな…)
しかし、ここで怒りを顕にすればますますアリアドネから怖がられてしまう。そう思ったスティーブは拳を握りしめると口を開いた。
「アリアドネ、今日はエルウィン様の礼服を選んでくれてありがとう。それじゃ俺は行くよ。これから葬儀に参列しないとならないからな」
「いえ、お役に立てて光栄です」
アリアドネはダリウスの腕の中で返事をした。
「スティーブ様。アリアドネをここまで連れて来て下さってありがとうございます」
何処か皮肉を込めたダリウスの物言いにスティーブはカチンときたが、冷静に答えた。
「レディーを守るのは騎士として当然だからな。それじゃ、またなアリアドネ」
「はい、スティーブ様」
アリアドネの返事に笑顔で応えたスティーブは踵を返すと、マントを翻し…大股でその場を立ち去って行った。
ダリウスが立ち去るとアリアドネはすぐに口を開いた。
「ダリウス…手を離してくれる…?」
アリアドネは未だにダリウスの腕の中にいた。
「あ?ああ。ごめん」
ダリウスが手を離すと、アリアドネは距離を取ると言った。
「…困るわ…あまり…スティーブ様の前でこういう事をされると…」
アリアドネの言葉にダリウスは眉をしかめた。
「…何故だい?まさか…スティーブ様に気があるとでも?」
「いいえ、そう言う事ではないわ。ただ…私は本来、エルウィン様の妻となるべくこの城にやってきたのだもの…。その事をスティーブ様もシュミット様もご存知なのよ?だから…こんな勘違いされるような真似は…しないでもらいたいの」
「アリアドネ。まさか君は…エルウィン様の妻になろうと考えているのか?」
ダリウスの声が震えている。
「まさか!だって…私はエルウィン様から拒絶されたのよ?それはありえないわ。でも…」
(エルウィン様に…妙な誤解はされたくない…。)
それがアリアドネの本心だった―。
37
お気に入りに追加
2,848
あなたにおすすめの小説
【完結】 婚約破棄間近の婚約者が、記憶をなくしました
瀬里
恋愛
その日、砂漠の国マレから留学に来ていた第13皇女バステトは、とうとうやらかしてしまった。
婚約者である王子ルークが好意を寄せているという子爵令嬢を、池に突き落とそうとしたのだ。
しかし、池には彼女をかばった王子が落ちることになってしまい、更に王子は、頭に怪我を負ってしまった。
――そして、ケイリッヒ王国の第一王子にして王太子、国民に絶大な人気を誇る、朱金の髪と浅葱色の瞳を持つ美貌の王子ルークは、あろうことか記憶喪失になってしまったのである。(第一部)
ケイリッヒで王子ルークに甘やかされながら平穏な学生生活を送るバステト。
しかし、祖国マレではクーデターが起こり、バステトの周囲には争乱の嵐が吹き荒れようとしていた。
今、為すべき事は何か?バステトは、ルークは、それぞれの想いを胸に、嵐に立ち向かう!(第二部)
全33話+番外編です
小説家になろうで600ブックマーク、総合評価5000ptほどいただいた作品です。
拍子挿絵を描いてくださったのは、ゆゆの様です。 挿絵の拡大は、第8話にあります。
https://www.pixiv.net/users/30628019
https://skima.jp/profile?id=90999
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します
佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚
不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。
私はきっとまた、二十歳を越えられないーー
一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。
二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。
三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――?
*ムーンライトノベルズにも掲載
愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!
香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。
ある日、父親から
「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」
と告げられる。
伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。
その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、
伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。
親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。
ライアンは、冷酷と噂されている。
さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。
決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!?
そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる