上 下
69 / 376

5-12 欲にまみれたランベール

しおりを挟む
「フフフ…邪魔な男たちは全員外に出たな…」

ランベールは城の窓から外を眺めて笑みを浮かべた。

「よし…では行くとするか…」

そしてランベールは大股である場所へと向かった―。


****

 その時、マリアは仕事場で機織りをしていた。すると地下通路の近くで騒がしい声が聞こえたので、何気なく目線を移し…目を見開いた。

何とそこにはランベールが立っており、領民達に何やら険しい表情で怒鳴りつけている姿があったのだ。

「ランベール様っ?!」

それを目にした時、マリアの脳裏に数年前のある苦い出来事が思い出された―
****

 あれは今から3年前の事…。エルウィンがこの城の城主になり、初めての越冬を迎える年の出来事だった。

エルウィンは厳しい冬を迎えるにあたり、近隣の領民達を城に招く提案をしてきたのだ。それは初めての試みであったが、反対する者は誰もいなかった。
そして一番近い宿場町の領民達を受け入れ、アイゼンシュタット城から衣食住を提供することにしたのである。その代わりに城で働くという条件を提示された領民達はこの作業場で下働きの者たちと共に働いていた。

 宿場町からやってきた領民達はほとんどが30代以上の大人たちばかりであったが、その中でまだ15歳のあどけなさの残る可愛らしい少女がいた。
彼女は両親を病気で亡くし、たった1人で宿場町で暮らしていたのだ。働き者の少女はここで皆に可愛がられていた。

そして…そんな噂が城にまで届いてしまった。

ある日、ランベールがこの仕事場に現れたのだ。そして少女をメイドにしてやろうと言葉巧みに城へ連れて行ってしまった。
結局、その日…少女は仕事場へ戻ってくることは無かった。

そして翌日、少女は下着同然の姿で雪の中に倒れいてる所を発見された。

飛び降り自殺だった。噂によると、前日ランベールの部屋からは少女の泣き叫ぶ悲鳴が半日聞こえていたと言う―。


****

「ランベール様…?一体何をしにここへ…?あ…まさか…!」

勘の良いマリアはすぐに理解した。
恐らくランベールがここへ来た目的はただ一つ、アリアドネを自分の寝所に連れて行こうとしているのだと。
卑怯者のランベールは城中の男が外に雪かきをしに出たのを見計らってやってきたのだ。
邪魔な男たちがいない隙を狙ってここへやってきたのは一目瞭然だった。

「た、大変だわっ!」

自分のような身分の低い者がランベールに対抗できるはずはない。マリアは傍らに置いた防寒着に袖を通すと、扉に向かって駆け出した。

雪かきをしている男たちに助けを求める為―。



****


「た、大変よっ!アリアドネッ!ランベール様があんたを探しているわっ!」

突然、仕事をしていたアリアドネとセイラの前にイゾルネが駆けつけてきた。

「えっ?!」

アリアドネはあまりにも突然の話で恐怖が走る。

「ま、まさか…ランベール様はアリアドネを…?」

セイラが声を震わせてイゾルネに尋ねた。

「ああ…間違いない。アリアドネを寝所に連れていくつもりだ」

「そ、そんな…!」

アリアドネは恐怖で身がすくんだ。

「と、とにかくどこかにアリアドネを隠さないとっ!」

「ええ、そうね!このままではアリアドネが危険だわっ!」

イゾルネの言葉にセイラは頷くと、アリアドネを立たせた。

「アリアドネ。とりあえず、あの奥にある箱の中に身を隠すのよ!後は私たちがうまいことやってあげるから…」

セイラは粉袋を収納する空き箱を指示した。

「はい…!」

しかし…。

「どこへ逃げようというのだ?」

背後で恐ろしい声が聞こえた。

アリアドネ達が振り向くと、そこにはニヤリと笑みを浮かべたランベールの姿がそこにあった―。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】 婚約破棄間近の婚約者が、記憶をなくしました

瀬里
恋愛
 その日、砂漠の国マレから留学に来ていた第13皇女バステトは、とうとうやらかしてしまった。  婚約者である王子ルークが好意を寄せているという子爵令嬢を、池に突き落とそうとしたのだ。  しかし、池には彼女をかばった王子が落ちることになってしまい、更に王子は、頭に怪我を負ってしまった。  ――そして、ケイリッヒ王国の第一王子にして王太子、国民に絶大な人気を誇る、朱金の髪と浅葱色の瞳を持つ美貌の王子ルークは、あろうことか記憶喪失になってしまったのである。(第一部)  ケイリッヒで王子ルークに甘やかされながら平穏な学生生活を送るバステト。  しかし、祖国マレではクーデターが起こり、バステトの周囲には争乱の嵐が吹き荒れようとしていた。  今、為すべき事は何か?バステトは、ルークは、それぞれの想いを胸に、嵐に立ち向かう!(第二部) 全33話+番外編です  小説家になろうで600ブックマーク、総合評価5000ptほどいただいた作品です。 拍子挿絵を描いてくださったのは、ゆゆの様です。 挿絵の拡大は、第8話にあります。 https://www.pixiv.net/users/30628019 https://skima.jp/profile?id=90999

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

当て馬失恋した私ですが気がついたら護衛騎士に溺愛されてました。

ぷり
恋愛
 ミルティア=アシュリードは、伯爵家の末娘で14歳の少女。幼い頃、彼女は王都の祭りで迷子になった時、貧民街の少年ジョエルに助けられる。その後、彼は彼女の護衛となり、ミルティアのそばで仕えるようになる。ただし、このジョエルはとても口が悪く、ナマイキな護衛になっていった。 一方、ミルティアはずっと、幼馴染のレイブン=ファルストン、18歳の辺境伯令息に恋をしていた。そして、15歳の誕生日が近づく頃、伯爵である父に願い、婚約をかなえてもらう。 デビュタントの日、レイブンにエスコートしてもらい、ミルティアは人生最高の社交界デビューを迎えるはずだったが、姉とレイブンの関係に気づいてしまう……。 ※残酷な描写ありは保険です。 ※完結済作品の投稿です。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

処理中です...