32 / 376
3-2 苦手な存在
しおりを挟む
朝食後―
エルウィンはイライラしながら外出用の青い防寒マントを羽織り、城の外目指して歩いていた。何故防寒マントを身にまとっているのか…それはある場所へ行く為である。
「全く忌々しい…今年もあいつらをこの城に…神聖な『アイゼンシュタット城』に招き入れるなど…!」
エルウィンは娼婦を酷く毛嫌いしていた。
派手な衣装にキツイ香水の匂いを振りまき、男の部屋を出居りしている姿を子供の頃から見ていれば嫌悪感が湧いてくるのは当然であった。しかもその娼婦のせいで…エルウィンの家族は崩壊しかけてしまった過去がある。その為、彼が彼女たちを憎むのも無理は無かった。
「!」
長い廊下を歩いていると、エルウィンはこの城で働く若いメイド達の集団に出会ってしまった。彼女達は皆黒のロングワンピースにエプロンドレス姿という出で立ちである。
メイドたちは雪が降ってきたた為、越冬の準備をしていたのだ。
(くそっ…!何てタイミングが悪いんだ…!)
この城の城主である自分がメイドと鉢合わせをしたくないという理由で引き返すのは癪だった。
彼女達もまた、いざと言う時は武器を持って戦う戦闘要員である。アイゼンシュタット城にとって、大切な使用人たちではあるのだが…それ以外に彼女たちは特別な重要使命を持っている。その使命というものが、潔癖なエルウィンに取ってはどうしても我慢出来なかったのだ。
(もういい…あんなメイド達など…かまうものか…っ!)
エルウィンはそのまま廊下を歩き続けると、すぐにメイド達に気付かれた。
「まぁ、エルウィン様ではありませんか。ご挨拶させて頂きます」
1人のメイドがロングスカートの裾をつまんで挨拶をした。
「エルウィン様。ご挨拶申し上げます」
「いかがお過ごしだったでしょうか?」
「どちらへいらっしゃるのですか?」
次々とメイド達はエルウィンの傍に集まり、挨拶をしてくる。若く、美しく、そして何よりも強い彼はこの城で働くメイド達にとって憧れの存在であったのだ。
エルウィンは群がってくるメイド達が鬱陶しかったので、質問に答える事にした。
「食料貯蔵庫の様子を見てくるだけだ。じゃあな」
ぶっきらぼうに言った。
「はい」
「失礼致します」
「御用があればいつでもお申し付け下さい」
メイド達が次々と返事をする声を背中に聞きながら、エルウィンはそれだけ告げるとその場を足早に歩き去っていく。
「…全く…朝から不愉快な…!」
廊下を歩きながらエルウィンは忌々しげに言った。
赤らめた顔に熱い視線で自分を見つめてくるメイド達は彼にとって、不快でしか無かったのだ―。
****
「おかしいな…エルウィン様は一体どちらにいらっしゃるのだ…?」
その頃、シュミットはエルウィンを探す為に城内を歩き回っていた。重要書類があるのだが彼しかサインをする事が出来ない書類だったのだ。
エルウィンを探す為に廊下を歩いていると、先程彼が出会ったメイド達が客人を迎え入れる為の部屋の準備をしていたのだ。
「お仕事ご苦労さまです、皆さん」
シュミットは早速メイド達に挨拶をした。
「こんにちは、シュミット様。」
「こんにちは」
「ごきげんよう」
メイド達も次々と挨拶を反してくる。
「ところで…エルウィン様を見かけませんでしたか?」
シュミットの質問に代表して1人のメイドが質問に答えた。
「エルウィン様なら、先程防寒マントを羽織ってここを通り過ぎて行きました」
「え?防寒マントを羽織って…?外に行かれたのだろうか…?」
「ええ、食料貯蔵庫の様子を見てくると言っておられました」
「食料貯蔵庫…?」
メイドの言葉にたちまちシュミットの顔色が青ざめていく。
「た、大変だ…っ!」
シュミットは上着も着ないで城門へと駆け出した。
(食料貯蔵庫のある場所は…アリアドネ様が働いているすぐ側だっ!ひょっとすると鉢合わせをしてしまうかもしれないっ!)
エルウィンはアリアドネの顔を知らない。しかし、あの場所で働く女性たちの中では彼女は異質の存在である。
(なんとしてもお2人が会わないようにしなくては―!)
シュミットは食料貯蔵庫目指して走り続けた―。
エルウィンはイライラしながら外出用の青い防寒マントを羽織り、城の外目指して歩いていた。何故防寒マントを身にまとっているのか…それはある場所へ行く為である。
「全く忌々しい…今年もあいつらをこの城に…神聖な『アイゼンシュタット城』に招き入れるなど…!」
エルウィンは娼婦を酷く毛嫌いしていた。
派手な衣装にキツイ香水の匂いを振りまき、男の部屋を出居りしている姿を子供の頃から見ていれば嫌悪感が湧いてくるのは当然であった。しかもその娼婦のせいで…エルウィンの家族は崩壊しかけてしまった過去がある。その為、彼が彼女たちを憎むのも無理は無かった。
「!」
長い廊下を歩いていると、エルウィンはこの城で働く若いメイド達の集団に出会ってしまった。彼女達は皆黒のロングワンピースにエプロンドレス姿という出で立ちである。
メイドたちは雪が降ってきたた為、越冬の準備をしていたのだ。
(くそっ…!何てタイミングが悪いんだ…!)
この城の城主である自分がメイドと鉢合わせをしたくないという理由で引き返すのは癪だった。
彼女達もまた、いざと言う時は武器を持って戦う戦闘要員である。アイゼンシュタット城にとって、大切な使用人たちではあるのだが…それ以外に彼女たちは特別な重要使命を持っている。その使命というものが、潔癖なエルウィンに取ってはどうしても我慢出来なかったのだ。
(もういい…あんなメイド達など…かまうものか…っ!)
エルウィンはそのまま廊下を歩き続けると、すぐにメイド達に気付かれた。
「まぁ、エルウィン様ではありませんか。ご挨拶させて頂きます」
1人のメイドがロングスカートの裾をつまんで挨拶をした。
「エルウィン様。ご挨拶申し上げます」
「いかがお過ごしだったでしょうか?」
「どちらへいらっしゃるのですか?」
次々とメイド達はエルウィンの傍に集まり、挨拶をしてくる。若く、美しく、そして何よりも強い彼はこの城で働くメイド達にとって憧れの存在であったのだ。
エルウィンは群がってくるメイド達が鬱陶しかったので、質問に答える事にした。
「食料貯蔵庫の様子を見てくるだけだ。じゃあな」
ぶっきらぼうに言った。
「はい」
「失礼致します」
「御用があればいつでもお申し付け下さい」
メイド達が次々と返事をする声を背中に聞きながら、エルウィンはそれだけ告げるとその場を足早に歩き去っていく。
「…全く…朝から不愉快な…!」
廊下を歩きながらエルウィンは忌々しげに言った。
赤らめた顔に熱い視線で自分を見つめてくるメイド達は彼にとって、不快でしか無かったのだ―。
****
「おかしいな…エルウィン様は一体どちらにいらっしゃるのだ…?」
その頃、シュミットはエルウィンを探す為に城内を歩き回っていた。重要書類があるのだが彼しかサインをする事が出来ない書類だったのだ。
エルウィンを探す為に廊下を歩いていると、先程彼が出会ったメイド達が客人を迎え入れる為の部屋の準備をしていたのだ。
「お仕事ご苦労さまです、皆さん」
シュミットは早速メイド達に挨拶をした。
「こんにちは、シュミット様。」
「こんにちは」
「ごきげんよう」
メイド達も次々と挨拶を反してくる。
「ところで…エルウィン様を見かけませんでしたか?」
シュミットの質問に代表して1人のメイドが質問に答えた。
「エルウィン様なら、先程防寒マントを羽織ってここを通り過ぎて行きました」
「え?防寒マントを羽織って…?外に行かれたのだろうか…?」
「ええ、食料貯蔵庫の様子を見てくると言っておられました」
「食料貯蔵庫…?」
メイドの言葉にたちまちシュミットの顔色が青ざめていく。
「た、大変だ…っ!」
シュミットは上着も着ないで城門へと駆け出した。
(食料貯蔵庫のある場所は…アリアドネ様が働いているすぐ側だっ!ひょっとすると鉢合わせをしてしまうかもしれないっ!)
エルウィンはアリアドネの顔を知らない。しかし、あの場所で働く女性たちの中では彼女は異質の存在である。
(なんとしてもお2人が会わないようにしなくては―!)
シュミットは食料貯蔵庫目指して走り続けた―。
39
お気に入りに追加
2,848
あなたにおすすめの小説
【完結】 婚約破棄間近の婚約者が、記憶をなくしました
瀬里
恋愛
その日、砂漠の国マレから留学に来ていた第13皇女バステトは、とうとうやらかしてしまった。
婚約者である王子ルークが好意を寄せているという子爵令嬢を、池に突き落とそうとしたのだ。
しかし、池には彼女をかばった王子が落ちることになってしまい、更に王子は、頭に怪我を負ってしまった。
――そして、ケイリッヒ王国の第一王子にして王太子、国民に絶大な人気を誇る、朱金の髪と浅葱色の瞳を持つ美貌の王子ルークは、あろうことか記憶喪失になってしまったのである。(第一部)
ケイリッヒで王子ルークに甘やかされながら平穏な学生生活を送るバステト。
しかし、祖国マレではクーデターが起こり、バステトの周囲には争乱の嵐が吹き荒れようとしていた。
今、為すべき事は何か?バステトは、ルークは、それぞれの想いを胸に、嵐に立ち向かう!(第二部)
全33話+番外編です
小説家になろうで600ブックマーク、総合評価5000ptほどいただいた作品です。
拍子挿絵を描いてくださったのは、ゆゆの様です。 挿絵の拡大は、第8話にあります。
https://www.pixiv.net/users/30628019
https://skima.jp/profile?id=90999
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します
佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚
不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。
私はきっとまた、二十歳を越えられないーー
一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。
二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。
三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――?
*ムーンライトノベルズにも掲載
愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!
香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。
ある日、父親から
「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」
と告げられる。
伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。
その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、
伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。
親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。
ライアンは、冷酷と噂されている。
さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。
決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!?
そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる