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3-2 苦手な存在

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 朝食後―

 エルウィンはイライラしながら外出用の青い防寒マントを羽織り、城の外目指して歩いていた。何故防寒マントを身にまとっているのか…それはある場所へ行く為である。

「全く忌々しい…今年もあいつらをこの城に…神聖な『アイゼンシュタット城』に招き入れるなど…!」

 エルウィンは娼婦を酷く毛嫌いしていた。
派手な衣装にキツイ香水の匂いを振りまき、男の部屋を出居りしている姿を子供の頃から見ていれば嫌悪感が湧いてくるのは当然であった。しかもその娼婦のせいで…エルウィンの家族は崩壊しかけてしまった過去がある。その為、彼が彼女たちを憎むのも無理は無かった。


「!」

長い廊下を歩いていると、エルウィンはこの城で働く若いメイド達の集団に出会ってしまった。彼女達は皆黒のロングワンピースにエプロンドレス姿という出で立ちである。
メイドたちは雪が降ってきたた為、越冬の準備をしていたのだ。

(くそっ…!何てタイミングが悪いんだ…!)

 この城の城主である自分がメイドと鉢合わせをしたくないという理由で引き返すのは癪だった。
彼女達もまた、いざと言う時は武器を持って戦う戦闘要員である。アイゼンシュタット城にとって、大切な使用人たちではあるのだが…それ以外に彼女たちは特別な重要使命を持っている。その使命というものが、潔癖なエルウィンに取ってはどうしても我慢出来なかったのだ。

(もういい…あんなメイド達など…かまうものか…っ!)

エルウィンはそのまま廊下を歩き続けると、すぐにメイド達に気付かれた。

「まぁ、エルウィン様ではありませんか。ご挨拶させて頂きます」

1人のメイドがロングスカートの裾をつまんで挨拶をした。

「エルウィン様。ご挨拶申し上げます」
「いかがお過ごしだったでしょうか?」
「どちらへいらっしゃるのですか?」

次々とメイド達はエルウィンの傍に集まり、挨拶をしてくる。若く、美しく、そして何よりも強い彼はこの城で働くメイド達にとって憧れの存在であったのだ。

エルウィンは群がってくるメイド達が鬱陶しかったので、質問に答える事にした。

「食料貯蔵庫の様子を見てくるだけだ。じゃあな」

ぶっきらぼうに言った。

「はい」
「失礼致します」
「御用があればいつでもお申し付け下さい」

メイド達が次々と返事をする声を背中に聞きながら、エルウィンはそれだけ告げるとその場を足早に歩き去っていく。

「…全く…朝から不愉快な…!」


廊下を歩きながらエルウィンは忌々しげに言った。
赤らめた顔に熱い視線で自分を見つめてくるメイド達は彼にとって、不快でしか無かったのだ―。



****


「おかしいな…エルウィン様は一体どちらにいらっしゃるのだ…?」

その頃、シュミットはエルウィンを探す為に城内を歩き回っていた。重要書類があるのだが彼しかサインをする事が出来ない書類だったのだ。

エルウィンを探す為に廊下を歩いていると、先程彼が出会ったメイド達が客人を迎え入れる為の部屋の準備をしていたのだ。

「お仕事ご苦労さまです、皆さん」

シュミットは早速メイド達に挨拶をした。

「こんにちは、シュミット様。」
「こんにちは」
「ごきげんよう」

メイド達も次々と挨拶を反してくる。

「ところで…エルウィン様を見かけませんでしたか?」

シュミットの質問に代表して1人のメイドが質問に答えた。

「エルウィン様なら、先程防寒マントを羽織ってここを通り過ぎて行きました」

「え?防寒マントを羽織って…?外に行かれたのだろうか…?」

「ええ、食料貯蔵庫の様子を見てくると言っておられました」

「食料貯蔵庫…?」

メイドの言葉にたちまちシュミットの顔色が青ざめていく。

「た、大変だ…っ!」

シュミットは上着も着ないで城門へと駆け出した。

(食料貯蔵庫のある場所は…アリアドネ様が働いているすぐ側だっ!ひょっとすると鉢合わせをしてしまうかもしれないっ!)

エルウィンはアリアドネの顔を知らない。しかし、あの場所で働く女性たちの中では彼女は異質の存在である。

(なんとしてもお2人が会わないようにしなくては―!)

シュミットは食料貯蔵庫目指して走り続けた―。


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