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2-4 アリアドネの涙

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「あ、あの…?シュミット様。どうかお顔を上げて頂けますか?」

何故シュミットが自分に頭を下げているのか全く理解が出来なかったアリアドネは戸惑いながら声を掛けた。しかし、シュミットは首を振る。

「いいえ…!今回、このような結果になってしまったのは全て私が判断を誤ってしまったせいなのです!その為にアリアドネ様を傷つけ、ヨゼフさんにも辛い目に遭わせてしまいました。もはやお詫びのしようも無い程です!」

「シュミットさん…落ち着いて下さい。何があったのか、教えて頂けますか?」

ついに見かねたヨゼフが声を掛けた。

「は、はい…分りました…」

シュミットはゆっくり顔を上げるとこれまでの経緯を全て話し始めた。


 以前から『レビアス王国』を狙っていた隣国が、蛮族として知られているカルタン族を雇って戦線布告をして来た事。そこでアイゼンシュタット城が挙兵し、彼等を追い払ったことで王国の危機を救った事。その報奨金として1億レニーとステニウス伯爵のミレーユを妻として与えると書簡を送りつけて来た旨を説明した。

「そう…だったのですか…ちっとも知りませんでした」

アリアドネはその言葉にショックを受けていた。まさか国王陛下からの一方的な命令でステニウス家のミレーユを嫁がせようとしていた事実を初めて知ったからだ。

「アリアドネ様…その辺りの事情は…何も聞かされていなかったのですか?」

シュミットは遠慮がちに尋ねた。

「はい…まさか陛下からの一方的な命令だったなんて…。私はてっきり辺境伯様がお姉さまを妻に望まれて、陛下にお願いしたのだとばかり思っておりましたから…」

「いいえ…。それは違います。エルウィン様は…始めから妻を望んでおられませんでしたから…」

(大体ミレーユ様の評判はとても悪い。何しろここアイゼンシュタット領にまで悪評が届いているのだから…でもその様な話しすらアリアドネ様は御存じでは無かったのだろう…)

シュミットは心の中で苦笑した。

「でも…これでやっと分りました。辺境伯様が何故あの様に激怒されたのか…。望んでもいない妻が勝手に押しかけて来たのですから。私は…追い出されて当然の身だったのですね…」

「いえ!それは違いますっ!」

シュミットは素早く言った。

「エルウィン様は陛下に妻はいらない。報奨金だけ受け取る様に陛下に書簡を出すよに私に申し付けて来たのです。しかし…私には陛下の意図が分っておりました。実はステニウス伯爵家は国王陛下の遠縁に辺る由緒ある家柄なのです」

「え?そうだったのですか?」

アリアドネはそんな事すら知らなかったのだ。

「ええ…それで…このような話をするのは…大変心苦しいのですが…実は社交界でのステニウス伯爵家の御令嬢の評判は…すこぶる悪いのです…」

シュミットは言いにくそうに口を開いた。

「え…?」

その言葉にアリアドネの顔が青ざめる。

「やはり…そうでしたか…」

しかし、ヨゼフはその事を知っていたのだろう。深いため息をついた。

「ミレーユ様は男性遍歴が激しく…独身男性貴族の方々から敬遠されており、いまだに良い縁組に恵まれていないと言う話は我々の耳にまで届いておりました。そこで恐らくステニウス伯爵は国王陛下に縁組を頼まれたのでしょう。そこで選ばれたのが我らが城主であらせられるエルウィン様だったのでしょう…」

「そ、そんな…」

アリアドネは身体を震わせた。

「我々は先のカルタン族との戦いで、武器や防具…かなり破損してしまいました。またここは北部の辺境の地…厳しい冬を乗り越えるにはお金がかかります。報奨金なしでは我らも生活出来ません。もし縁組を断れば報奨金は貰えないでしょう。そこで…私の独断で陛下にステニウス伯爵令嬢を謹んで貰いうけますと書簡を出したのです。エルウィン様には内密に…。きっと嫁いで来られれば流石のエルウィン様でも受け入れて下さるのでは無いかと思っていたのですが…まさかこのような事になるとは思ってもいなかったのです!本当にお詫びのしようがありません…」

シュミットは肩を震わせてアリアドネに詫びた。

「…」

アリアドネはショックで口を聞けなかった。

「アリアドネ…大丈夫か?」

ヨゼフが心配そうにアリアドネに声を掛ける。

「は、はい…大丈夫です…でも、これでは到底…辺境伯様には受け入れて頂けませんよね…?」


ついに…アリアドネの目から涙が零れ落ちた―。
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