上 下
1 / 25

第1話 違和感だらけの世界に生まれて

しおりを挟む
 青空の下、初夏の清々しい風が吹いている。

「フフ…今日もいい天気ね。外でランチをするには絶好の日和だわ」

 ここは広大な緑の敷地に覆われた学園、王立アカデミ―『フローレンス』の敷地内。
この学園に通う私は校舎の裏手にある小高い丘の上を目指して歩いていた。

右手には自宅から持参してきたバスケットが揺れている。

私の様に自宅からランチを持参し、尚且つ外で1人食事をするような生徒は恐らく誰もいないだろう。
何しろ、この学園は子息令嬢だけが通うことのできる名門校なのだから。


 けれど私はこの学園…いや、今の自分が置かれている環境に生を受けて18年も経ちながら、未だに馴染めずにいた―。


****

 私、アリーナ・バロー(18歳)はバロー家の伯爵令嬢の長女としてこの世に誕生し…驚くべきことに、生まれた時から言葉を理解し、周囲の者達を驚かせた。

「素晴らしい!この子はきっと天才に違いないっ!私たちの言葉をもう理解しているなんて!絵本とおもちゃどちらが良いと差し出せば、迷わず絵本を指さしたのだぞ?!」

「まぁ、あなたったら…でも、長男のカイゼルに比べると本当に育てやすい子だわ。おむつが濡れても泣くことなんてないのよ?自分で濡れているときはおむつを指さして教えてくれるし、1人にしておいても全然平気でいられるのだから」

お父様とお母様は大喜びしているけれども、絵本とおもちゃなら断然に絵本の方が良いに決まっている。
それにおむつが濡れているからって、見境なく泣くなんて恥ずかしい真似が出来るはずがない。何しろ自分で自由に動けるのなら自分で交換したいくらいなのだ。

1人にしておいても全然平気?
いえ、むしろ一人にして下さい。赤ちゃん言葉とおもちゃで構われても私はちっとも嬉しくない。

それよりも早く母乳とおむつから解放されたい…。


と言うわけで、私は生まれて僅か10カ月と言う異例の速さでおむつを外すことが出来た。



また、離乳食ではこんなこともあった。

それは私が生後5か月になった頃の出来事だった。

「は~い、初めての離乳食ですよ~」

母が父と共に、初めての離乳食を持って部屋を訪れた時のことだった。

その時私はあまりにも退屈だった為に、天井からぶら下げられたシャンデリアの蝋燭の数を数えていた。

「は~い、アリーナちゃん。初めてのお食事ですよ~」

母が満面の笑みを浮かべて私の口元にスプーンを持ってきたのだが…。

「アイテ(貸して)」

母が手にしていたスプーンを握りしめると、自ら口に運んだのだ。

「キャアッ!」

驚いた母が手を離したすきに、スプーンを奪って私は自らテーブルの上に置かれたお皿から離乳食をすくって一心不乱に食べ始めた。

「ンマッンマッ!(美味しい、美味しい!)」

「「…」」

流石にそれらの行為は、父と母をドン引きさせてしまったのは言うまでも無かった。

こんな調子で私は周囲の人たちが驚くほどの速さで、天才?ぶりを発揮していった。
しかし…私がとったこれらの行動には全て意味があった。
それは誰かにいちいち世話を焼いてもらうのがいやだったからであり、出来ればこの違和感しか感じない世界で、出来るだけ1人になりたかったからだ。


そして、私のそんな努力?が実を結んだのか…5歳になる頃には完全に私は周囲から孤立していたのだった―。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました

toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。 一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。 主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。 完結済。ハッピーエンドです。 8/2からは閑話を書けたときに追加します。 ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ 応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。 12/9の9時の投稿で一応完結と致します。 更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。 ありがとうございました!

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

闇黒の悪役令嬢は溺愛される

葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。 今は二度目の人生だ。 十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。 記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。 前世の仲間と、冒険の日々を送ろう! 婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。 だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!? 悪役令嬢、溺愛物語。 ☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!

神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう....... だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!? 全8話完結 完結保証!!

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

【完結】公爵令嬢は王太子殿下との婚約解消を望む

むとうみつき
恋愛
「お父様、どうかアラン王太子殿下との婚約を解消してください」 ローゼリアは、公爵である父にそう告げる。 「わたくしは王太子殿下に全く信頼されなくなってしまったのです」 その頃王太子のアランは、婚約者である公爵令嬢ローゼリアの悪事の証拠を見つけるため調査を始めた…。 初めての作品です。 どうぞよろしくお願いします。 本編12話、番外編3話、全15話で完結します。 カクヨムにも投稿しています。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

処理中です...