6月9日はきっと晴れるから

第2章 47 運命に関われ

「実は…今回のタイムトラベルで、初めて彩花の母親に会ったんです」

ハンドルを握りながらポツリポツリと語り始めた。

「何？そうだったのか？！それで…一体どんな女だった？」

教授は彩花の母親に興味を持ったのか、何故か食いつき気味に尋ねて来た。

「う～ん…どんな…と聞かれても、別に普通の中年女性でした。あ…でも少し派手な雰囲気はありましたね」

「そうか…。でも、南さんの母親が連絡を受けて現れたっていうことは…つまり、彼女はその気になれば母親と会える環境にあったということになるな」

「そうですね…」

「そう言えば、上野。お前は知らないのか？何故南さんがずっと一人暮らしをしていたのか」

「知っていますよ。親父から暴力を振るわれている俺に彩花は話してくれましたから。自分も母親の連れて来た男から頻繁に暴力を振るわれてきたって。だから俺の辛い気持は良く分かるって…」

彩花が俺の頭を撫でながら慰めてくれたことを思い出すと、胸に熱いものがこみあげてくる。
彩花は…自分が辛い子供時代を過ごし…誰の助けも得られなかった。だからこそ、不遇な状況に置かれていた俺を助けて…。

「…っ」

思わず歯を食いしばると、隣に座る教授が声を掛けてきた。

「どうした？上野。自分の子供時代の過去を思い出して…少しセンチな気分になってしまったか？」

「…よしてくださいよ。からかうのは」

すると教授は真面目な顔つきになった。

「いや。別にからかっているわけじゃない。つまり俺が言いたいのは…お前は子供時代にそうやって南さんに助けてもらったんだろう？」

「は、はい…」

「だったら、どうすれば南さんを6月9日に救えるのかをよく考えろ。いいか？彼女は今までお前が遡った過去で、必ずその日に死んでいるんだ。お前の父親以外の人物に殺されたり…あるいは不可解な死を遂げたり…」

「そんなこと…分かっていますよ！」

「いいから聞け！上野っ！俺が言いたいことは…そんなことではないっ！」

教授が珍しく声を荒げた。

「教授…」

「いいか？上野。南さんは…必ず6月9日に亡くなっている。彼女はこの日に死ぬことは…恐らく運命なのかもしれない」

「運命…運命ですってっ？！彩花はただでさえ不遇な子供時代を過ごし…安月給で真面目に働く女性なのに…運命で6月9日に死ぬなんて…あんまりじゃありませんかっ！まだ…たった25歳なのに…！」

「そうだ、まだたった25歳なのに南さんは死んでしまう運命を持っている。だからこそ、中途半端な介入では駄目なんだよっ！」

「それじゃ…一体どうしたらいいんですか…？」

「つまり…彩花さんの運命を動かせるほどに…もっと深く関われと言いたいんだよ」

「え…？！」

丁度信号が赤信号に変わったので俺はブレーキを踏みと、教授を見た―。