6月9日はきっと晴れるから

第2章 27 偶然の一致？

「う～ん…あいつの記録は何も無いのか…？」

カチカチとマウスを操作しながら上野圭一の記事が無いか探し続け…ようやく小さな記事を発見した。

「え…？」

上野圭一は15年前の6月9日に常習賭博罪で逮捕されたと小さな記事が掲載されていた。3年の刑期を言い渡されていた。その後刑務所に収容されていたのだが、刑期の終了する前に獄中で病死したと僅かな記録が残されているのみだった。

「あいつ…死んでいたのか…」

だけど、事件は同じ6月9日に起きている。
そして俺はこの日から高校を卒業する迄の間、児童養護施設で育ったのだ…。

「結局、彩花は6月9日に誰かに殺され…俺はこの日から施設で育つという事実に代わりはないってことなのか…？これが運命ってやつなのか…？」

いいや、絶対にそんなことはない。必ず俺は彩花を助け出すと決めたのだから。

「もう一度、彩花が殺害された事件の記事を見直してみるか…」


俺は更に彩花を殺害した椎名正雄と南彩花の個人的な情報が無いか、検索を続けることにした―。



＊＊＊＊

午後4時半―


ガチャッ

不意に研究室の扉が開かれ、講義を終えた宮田教授が戻ってきた。

「戻ったぞ、上野。何か収穫はあったか？」

「お帰りなさい、教授。ええ…収穫と言えるほどのものかどうかは分かりませんが…」

「まぁいい。話はコーヒーでも飲みながら聞こう。上野、濃いコーヒーを淹れてくれるか？」

教授は散らかった机の前に座ると早速コーヒーを注文してきた。

「分かりました。少々お待ち下さい」

デスクの上に置かれた電気湯沸かし器を持つと給湯室へ向った―。



＊＊

「どうぞ、教授」

ノートPCに向っている教授の前にコーヒーが注がれたマグカップを置いた。

「ああ、ありがとう」

「言われた通り、いつもよりも濃いコーヒーを淹れました」

「どれどれ…」

教授は早速コーヒーを口にし…眉をしかめた。

「…随分濃いじゃないか…」

「ええ、いつもより濃いコーヒーをお望みのようでしたから」

「う～む…確かにそうは言ったが…まぁいいか。それじゃ上野、まず分かったことを教えてくれ」

教授は両手を机の上で組むと、俺をじっと見つめてきた―。



＊＊＊＊

「ふむ…なるほど…。それでは彩花さんは椎名と出会う前はやはりあのアパートに住んでいたんだな？」

教授が神妙そうな顔つきで俺を見る。

「ええ、それだけではありません。俺があのアパートに引っ越して2日後に越していたんですよ」

「何と…そうだったのか」

「ええ、それで思ったのですが…」

コーヒーをグイッと飲むと自分の考えを述べた。

「ひょっとすると…少年時代の俺と彩花が引っ越してきた日に知り合っていれば…運命は変えられたんじゃないかと思ったんです」

「どういうことだ？」

教授が眉を寄せた。

「はい、彩花はどうやら椎名に言われるままにあのアパートを引っ越したようなんです。椎名が何と言って引っ越しをさせたかは知りませんが…。そこから2人の仲は急速に良くなっていった」

「なるほど」

「そして2人はその後、恋人同士になり…最終的に椎名は…彩花を殺害した」

「…そうだな」

「教授、だから今度のタイムトラベルは…俺があのアパートに引っ越す直前に戻ろうと思います」

俺はまっすぐ教授の目を見つめた―。