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第1章 7 父親
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ピンポーン
私は震える指先でインターホンを鳴らした。すると、ドスドスと足音がこちらへ近づいて来る。
ガチャッ!
乱暴にドアが開かれ…私の前に30代と思しき男性が眼前に現れた。男性は一瞬驚いた様子で私を見つめ、そして次に隣にいるたっくんに視線を移した。
「あ…」
途端にたっくんの目に脅えが走る。
「卓也…」
「ご、ごめんなさいっ!」
しかし―。
「卓也っ!何所へ行ってたんだっ!お父さん…心配していたんだぞっ?!」
突如男性は身を屈めると、たっくんを強く抱きしめてた。
え…?
たっくんに暴力を振るっていたんじゃなかったの…?
「卓也ぁ…家に戻ってみると、お前がいなくてどれだけ心配したと思っているんだよ…」
たっくんの父親は愛し気にたっくんの事を抱きしめている。ひょっとするとこの人は他人の前ではたっくんを溺愛しているフリをしているだけかもしれない。虐待を受けて来た私の目を騙せるものか。でも、と言う事は…私がいればたっくんの身の保証は安全なのではないだろうか?
「あ、あの…」
私が声をかけると、父親はたっくんを抱きしめていた手を離して立ち上がった。
「失礼ですが…どちらさまでしょうか?卓也を連れ出したのは貴女ですか?」
連れ出した…。
人聞きの悪い言い方をする人だ。
私の態度次第ではたっくんに暴力を振るうかもしれない…。
なので低姿勢で出る事にした。
「申し訳ございません。私は隣のアパートに住んでいる者です。出掛けていて留守にしておりまして、部屋に戻った時にこちらのアパートのドアが開いていたのです」
「開いていた…?妙だな…?」
男性の身体からは先程からずっときついアルコール臭が漂っている。それならこちらでドアが開いていたといい切ってしまおう。
「はい、開いておりました。そこで偶然見てしまったのです。卓也君が床の上で倒れている所を。部屋には誰も居る気配も無かったので…大変申し訳ないとは思いましたが、人命救助の為に部屋に上がり込んでしまいました。そして酷い怪我をしていた卓也君を連れて…メディカルセンターに受診しに行ってきたところです」
すると父親は目を見開いた。
「何だって…?医者に連れて行った…?」
そして改めてたっくんを見て、初めて包帯姿に気付いたようだった。
「ま、まさか…治療を受けさせて来たのか?!」
父親は私を見た。
「はい、そうです。…酷い怪我をしていましたから」
「何だってそんな勝手な真似を…」
その目に怒りが宿る。怖かったけれども、私は震えを隠して言った。
「親御さんの不在中に勝手な事をした事は申し訳なく思っております。ただ、怪我があまりにも酷くて…見るに耐えかねたのです。なので私の独断でメディカルセンターに連れて行きました。卓也君は行くのを嫌がっておりましたけど」
「そう…ですか。それはご迷惑をおかけしてしまいましたね」
少しも心が込められていない言い方だった。
「いえ。こちらこそ、勝手な真似をして申し訳ございませんでした。それでは失礼致します」
頭を下げて立ち去ろうとした時―。
「お姉ちゃん」
それまでずっと口を閉ざしていたたっくんが突然声を掛けてきた。
「何?たっくん」
「たっくん?」
父親が訝しげにつぶやくのが聞こえた。けれど、私は敢えて聞こえないフリをした。
「あ、あの…ありがとう…」
「いいのよ、お大事にね」
それだけ言うと私は足早に立ち去り、自分の部屋の扉を開けて中へ入った―。
私は震える指先でインターホンを鳴らした。すると、ドスドスと足音がこちらへ近づいて来る。
ガチャッ!
乱暴にドアが開かれ…私の前に30代と思しき男性が眼前に現れた。男性は一瞬驚いた様子で私を見つめ、そして次に隣にいるたっくんに視線を移した。
「あ…」
途端にたっくんの目に脅えが走る。
「卓也…」
「ご、ごめんなさいっ!」
しかし―。
「卓也っ!何所へ行ってたんだっ!お父さん…心配していたんだぞっ?!」
突如男性は身を屈めると、たっくんを強く抱きしめてた。
え…?
たっくんに暴力を振るっていたんじゃなかったの…?
「卓也ぁ…家に戻ってみると、お前がいなくてどれだけ心配したと思っているんだよ…」
たっくんの父親は愛し気にたっくんの事を抱きしめている。ひょっとするとこの人は他人の前ではたっくんを溺愛しているフリをしているだけかもしれない。虐待を受けて来た私の目を騙せるものか。でも、と言う事は…私がいればたっくんの身の保証は安全なのではないだろうか?
「あ、あの…」
私が声をかけると、父親はたっくんを抱きしめていた手を離して立ち上がった。
「失礼ですが…どちらさまでしょうか?卓也を連れ出したのは貴女ですか?」
連れ出した…。
人聞きの悪い言い方をする人だ。
私の態度次第ではたっくんに暴力を振るうかもしれない…。
なので低姿勢で出る事にした。
「申し訳ございません。私は隣のアパートに住んでいる者です。出掛けていて留守にしておりまして、部屋に戻った時にこちらのアパートのドアが開いていたのです」
「開いていた…?妙だな…?」
男性の身体からは先程からずっときついアルコール臭が漂っている。それならこちらでドアが開いていたといい切ってしまおう。
「はい、開いておりました。そこで偶然見てしまったのです。卓也君が床の上で倒れている所を。部屋には誰も居る気配も無かったので…大変申し訳ないとは思いましたが、人命救助の為に部屋に上がり込んでしまいました。そして酷い怪我をしていた卓也君を連れて…メディカルセンターに受診しに行ってきたところです」
すると父親は目を見開いた。
「何だって…?医者に連れて行った…?」
そして改めてたっくんを見て、初めて包帯姿に気付いたようだった。
「ま、まさか…治療を受けさせて来たのか?!」
父親は私を見た。
「はい、そうです。…酷い怪我をしていましたから」
「何だってそんな勝手な真似を…」
その目に怒りが宿る。怖かったけれども、私は震えを隠して言った。
「親御さんの不在中に勝手な事をした事は申し訳なく思っております。ただ、怪我があまりにも酷くて…見るに耐えかねたのです。なので私の独断でメディカルセンターに連れて行きました。卓也君は行くのを嫌がっておりましたけど」
「そう…ですか。それはご迷惑をおかけしてしまいましたね」
少しも心が込められていない言い方だった。
「いえ。こちらこそ、勝手な真似をして申し訳ございませんでした。それでは失礼致します」
頭を下げて立ち去ろうとした時―。
「お姉ちゃん」
それまでずっと口を閉ざしていたたっくんが突然声を掛けてきた。
「何?たっくん」
「たっくん?」
父親が訝しげにつぶやくのが聞こえた。けれど、私は敢えて聞こえないフリをした。
「あ、あの…ありがとう…」
「いいのよ、お大事にね」
それだけ言うと私は足早に立ち去り、自分の部屋の扉を開けて中へ入った―。
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