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9-4 初めての画材屋さん
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少年が港から去った後も私は暫くの間、その場にとどまり彼の描いた色鉛筆画と目の前の港の光景を見比べていた。
「すごい…色鉛筆だけでこんなに上手に描けるなんて…羨ましい…」
私は日々の生活と家庭勉強に勤しんでいたので、芸術的な物に触れる機会など、全くなかった。
貴族令嬢や裕福な家庭に恵まれた少女達は、ピアノやダンスのレッスン、お茶の淹れ方や礼儀作法を学んでいることだろうが、私にはそのような教養は一切無い。こんな状況で高校卒業後はユーグ大公の元に嫁がなければならないのだ。
青い空にはカモメが空を飛び回っている。
「鳥が羨ましいわ…」
思わずポツリと本音が口から飛び出してしまった。
私にも鳥のような翼があれば…自由気ままに好きな場所へ飛んでいけるのに…。けれど今の私は翼をもがれた鳥かごの中の鳥のような状態だ。
学生である今が一番自由になれるチャンスなのかもしれない。
けれど、私が逃げだせば実家に迷惑が掛かってしまう。
何より父は私と全く血の繋がりも無いのに、母の執事だったというだけで母を連れて誰も知らない土地へ逃げ…私を産んで亡くなった母の代わりに今までずっと育ててくれたのだから…。
親不孝な真似だけはしたくなかった。
「…」
やがて風の向きが変わったのだろうか?先ほどに比べて、肌寒くなってきた。
「何だか寒くなってきたわ…ホテルに戻りましょう」
名前の知らない少年からもらった風景画をポシェットにしまい、私は港を後にした。
****
辻馬車乗り場を探しながら、港町をぶらぶら歩いていると画材屋さんが目に入った。
「画材屋さん…」
先ほど貰った風景画と、一心不乱に絵を描いていた少年の姿が思い出される。
「私も…絵を描いてみようかしら…」
色鉛筆とスケッチブック程度なら予算内で買えるかもしれない…。そう思った私は店の扉を開けた。
カランカラン
扉に取り付けられたベルが静かな店内に響き渡る。
「いらっしゃいませ」
すると奥の方から声を掛けられた。振り向くと店の奥にカウンターがあり、1人のおじいさんがこちらをじっと見つめていた。おじいさんはスケッチブックを手に、何か描いているようだった。
「何かお探しですか?」
眼鏡をかけた優し気なおじいさんが尋ねてきた。
「あの…一番お手頃価格の…スケッチブックと、色鉛筆はありますか?」
私の予算はせいぜい出せても1200ダルク。これ以上高ければ諦めるしかない。
「一番安いスケッチブックと色鉛筆…と言う事ですよね…?」
おじいさんは少し考えこむと、立ち上がった。
入り口から入って左側の壁には本棚が立てられ、恐らくスケッチブックと思しきものが陳列されている。
「スケッチブックなら、これが一番お手軽価格ですよ」
おじいさんは本棚から1冊のスケッチブックを取り出した。それは青い表紙のリング式のスケッチブックでサイズは両掌を合わせた位のものだった。
「色鉛筆は12色セットのこちらがお勧めです」
スケッチブックが並べられている下段は引き出しになっており、おじいさんが引き出しを開けて、薄い箱を取り出すとカウンターへと移動する。
そこで私もおじいさんの後に続いてカウンターに移動した。
「このスケッチブックと色鉛筆、合わせて丁度1000ダルクになりますが…どうされますか?」
1000ダルクなら予算範囲内だ。
「ください…買います」
勿論、私は即決した―。
「すごい…色鉛筆だけでこんなに上手に描けるなんて…羨ましい…」
私は日々の生活と家庭勉強に勤しんでいたので、芸術的な物に触れる機会など、全くなかった。
貴族令嬢や裕福な家庭に恵まれた少女達は、ピアノやダンスのレッスン、お茶の淹れ方や礼儀作法を学んでいることだろうが、私にはそのような教養は一切無い。こんな状況で高校卒業後はユーグ大公の元に嫁がなければならないのだ。
青い空にはカモメが空を飛び回っている。
「鳥が羨ましいわ…」
思わずポツリと本音が口から飛び出してしまった。
私にも鳥のような翼があれば…自由気ままに好きな場所へ飛んでいけるのに…。けれど今の私は翼をもがれた鳥かごの中の鳥のような状態だ。
学生である今が一番自由になれるチャンスなのかもしれない。
けれど、私が逃げだせば実家に迷惑が掛かってしまう。
何より父は私と全く血の繋がりも無いのに、母の執事だったというだけで母を連れて誰も知らない土地へ逃げ…私を産んで亡くなった母の代わりに今までずっと育ててくれたのだから…。
親不孝な真似だけはしたくなかった。
「…」
やがて風の向きが変わったのだろうか?先ほどに比べて、肌寒くなってきた。
「何だか寒くなってきたわ…ホテルに戻りましょう」
名前の知らない少年からもらった風景画をポシェットにしまい、私は港を後にした。
****
辻馬車乗り場を探しながら、港町をぶらぶら歩いていると画材屋さんが目に入った。
「画材屋さん…」
先ほど貰った風景画と、一心不乱に絵を描いていた少年の姿が思い出される。
「私も…絵を描いてみようかしら…」
色鉛筆とスケッチブック程度なら予算内で買えるかもしれない…。そう思った私は店の扉を開けた。
カランカラン
扉に取り付けられたベルが静かな店内に響き渡る。
「いらっしゃいませ」
すると奥の方から声を掛けられた。振り向くと店の奥にカウンターがあり、1人のおじいさんがこちらをじっと見つめていた。おじいさんはスケッチブックを手に、何か描いているようだった。
「何かお探しですか?」
眼鏡をかけた優し気なおじいさんが尋ねてきた。
「あの…一番お手頃価格の…スケッチブックと、色鉛筆はありますか?」
私の予算はせいぜい出せても1200ダルク。これ以上高ければ諦めるしかない。
「一番安いスケッチブックと色鉛筆…と言う事ですよね…?」
おじいさんは少し考えこむと、立ち上がった。
入り口から入って左側の壁には本棚が立てられ、恐らくスケッチブックと思しきものが陳列されている。
「スケッチブックなら、これが一番お手軽価格ですよ」
おじいさんは本棚から1冊のスケッチブックを取り出した。それは青い表紙のリング式のスケッチブックでサイズは両掌を合わせた位のものだった。
「色鉛筆は12色セットのこちらがお勧めです」
スケッチブックが並べられている下段は引き出しになっており、おじいさんが引き出しを開けて、薄い箱を取り出すとカウンターへと移動する。
そこで私もおじいさんの後に続いてカウンターに移動した。
「このスケッチブックと色鉛筆、合わせて丁度1000ダルクになりますが…どうされますか?」
1000ダルクなら予算範囲内だ。
「ください…買います」
勿論、私は即決した―。
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