上 下
133 / 221

8-7 有無を言わさない態度

しおりを挟む
「聞けば聞くほど…気の毒な身の上だね」

イアソン王子がため息をついた。

「…」

私は何と答えれば良いか分からず、俯いているとやがて馬車が止まり、御者が馬車の扉を開けてくれた。

「どうやら着いたようだね…降りようか?ロザリー」

そしてイアソン王子は手を差し伸べてきた―。



 降り立ったのは大きなブティックだった。目の前の白い石造りの建物のガラス窓からは女性物のワンピースドレスが売られている様子が見て取れた。


「イアソン王子…本当にこのお店で買うつもりなのですか…?」

恐る恐る尋ねた。

「ああ、当然じゃないか」

「で、でも…とても高級そうですよ?この様な高級なブティックで…」

言いかけてそこで私は口を閉ざした。何故ならイアソン王子が冷たい視線で私を見ているからだ。

「ロザリー…まだ分からないのかい?俺はこの国の王太子であり…君は王族の血を引く人間なんだ。そんな格好ではあのホテルにこの先、後一月近くも滞在出来ると思っているのかい?」

「そ、それは…」

だからこそ、私はあんな分不相応なホテルに宿泊したく無かったのに…。私の希望としては何処か安いアパートをイアソン王子に借りて貰って…そこで静かに冬期休暇を過ごそうと思っていたのに…。

「時間が惜しい。早く店に入ろう」

そして私はイアソン王子に連れられてブティックの中へと入って行った。



「まぁ…ようこそ、ハーバート様」

対応してくれた女性はドレスの裾をつまみ、深々とイアソン王子に頭を下げた。

「ああ、この女性に合うドレスを20着用意してくれ」

えっ?!20着っ?!聞き間違いでは無いだろうか?

「はい、かしこまりました。ではお嬢様、こちらへどうぞ」

女性は私を店の奥へと案内しようとする。

「あ、あの…イアソン王子。いくら何でも20着は…」

言いかけようとすると、イアソン王子は口を開いた。

「時間が惜しい、俺はここで待っているか早く済ませてくれないか?」

その言葉は有無を言わさないものだった―。



****

 私は店の奥にあるフィッティングルームという部屋に連れてこられた。その部屋の中には2人の若い女性が待っていた。

「ではこれからお嬢様のサイズを図らせて頂きます」

メジャーを持った女性が私に声を掛けてきた。

「は、はい…よろしくお願いします」


そして、私のサイズ測定が始まった―。



「ではサイズは確認しましたので、今この店にある同じサイズのドレスを運んでまいりますのでお待ち下さい」

最初に私達を出迎えてくれた女性が頭を下げ…サイズを測ってくれた女性達と共に部屋を出ていってしまった。

「私…自分で選びに行かなくていいのかしら…?」

1人、フィッティングルームに残された私は思わずポツリと呟いた―。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

婚約者様にお子様ができてから、私は……

希猫 ゆうみ
恋愛
アスガルド王国の姫君のダンス教師である私には婚約者がいる。 王室騎士団に所属する伯爵令息ヴィクターだ。しかしある日、突然、ヴィクターは子持ちになった。 神官と女奴隷の間に生まれた〝罪の子〟である私が姫君の教師に抜擢されたのは奇跡であり、貴族に求婚されたのはあり得ない程の幸運だった。 だから、我儘は言えない…… 結婚し、養母となることを受け入れるべき…… 自分にそう言い聞かせた時、代わりに怒ってくれる人がいた。 姫君の語学教師である伯爵令嬢スカーレイだった。 「勝手です。この子の、女としての幸せはどうなるのです?」 〝罪の子〟の象徴である深紅の瞳。 〝罪の子〟を片時も忘れさせない〝ルビー〟という名前。 冷遇される私をスカーレイは〝スノウ〟と呼び、いつも庇護してくれた。 私は子持ちの婚約者と結婚し、ダンス教師スノウの人生を生きる。 スカーレイの傍で生きていく人生ならば〝スノウ〟は幸せだった。 併し、これが恐ろしい復讐劇の始まりだった。 そしてアスガルド王国を勝利へと導いた国軍から若き中尉ジェイドが送り込まれる。 ジェイドが〝スノウ〟と出会ったその時、全ての歯車が狂い始め───…… (※R15の残酷描写を含む回には話数の後に「※」を付けます。タグにも適用しました。苦手な方は自衛の程よろしくお願いいたします) (※『王女様、それは酷すぎませんか?』関連作ですが、時系列と国が異なる為それぞれ単品としてお読み頂けます)

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

処理中です...