上 下
129 / 221

8-3 運命は味方してくれない

しおりを挟む
 イアソン王子をお待たせするわけにはいかないので、約束の時間の20分前にフロントへやって来た。
私の持っている服の中では比較的まともな服装をしてきたはずなのに、やはり集まっていた人々から好奇の目が寄せられる。

そして時折聞こえて来るヒソヒソ話。

「まぁ、あの子の服装は何でしょう?」
「随分貧しそうな娘だ」
「ひょっとして宿泊客の使用人かしら…」


なるべく目立たないように一番壁際の奥の席に座り、じっと正面口を見つめて王子を待っていた。

すると、客室に続く廊下からお金持ちそうな4人家族が現れた。
彼等は幸せそうに、楽し気に話をしながらこちらへ向かって歩いて来る。

何て…絵に描いたような幸せな家族なのだろう…そう思って見つめていると、徐々に彼らの姿がはっきり見えて来た。

「え…?」

そして私は気付いた。そこにはアンドレアさんとミレーユさんの姿があったからだ。

あの2人に見つかったら色々まずい事になりそうだと思った私は咄嗟に顔を見られないように俯いた。そして早くここから去ってくれる事を祈っていたのに…。

「まぁ!イアソン様っ!」

ミレーユさんの嬉しそうな声が聞こえて来た。


「え…?そ、そんな…」

恐る恐る顔を上げると、カウンター付近でカステル家がイアソン王子と話をしている姿があった。イアソン王子は護衛の人を連れているのか、背後にはスーツ姿の2人の男性が立っている。

一体何の話をしているのだろう…?

緊張の為か、心臓がドクドクいい始めた。もう…イアソン王子は私に会うのをやめて、カステル家と行動して貰えないだろうか…?

私は心から祈った。
けれども、現実は残酷だ。私の願いなど、通る筈も無かった。


 イアソン王子はミレーユが色々話しかけているのに、キョロキョロと辺りを見渡している。

…きっと私を探しているのだ。

どうしよう?こんな時…私はどうすればいいのだろう?

イアソン王子が私を探しているので自分から声を掛けに行くべきなのか…?
それともカステル家に遠慮して、彼等がイアソン王子の元を去るまでじっとしているべきなのか…。

「でも駄目ね…やっぱりあの方は王太子様だし、イアソン王子のお陰でこのホテルに泊まることが出来るのだから…」

凄く気が重いけれども、私は観念してイアソン王子の元へと向かった。



「ねぇ、イアソン様。私と今日はお出かけしましょうよ~」

ミレーユさんがイアソン王子に訴えている声が近付いて来た。

「悪いけど、今日は無理なんだ」

そんなミレーユさんを相手に困った様子のイアソン王子だったけれども、私が近付いて来る姿に気付いたのか、呼びかけて来た。

「ロザリー!そこにいたのか?」

するとミレーユさんをはじめ、両親とアンドレアさんが一斉に私を振り向く。

「あ!貴女は…!」

ミレーユさんが敵意むき出しの目で私を睨みつけて来た。

「ロザリーじゃないか。そうか…イアソン王子の待ち合わせの相手はロザリーだったのか?」

「何だと?」
「何ですって?」

すると、2人の両親が私を驚きの目で見つめて来た―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

処理中です...