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7-5 汽車のチケット
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「よし、そうと決まれば帰国する日時を早めることにしよう。本当は明後日帰国する予定だったけど、ロザリーを迎える準備をしなくてはならないからな。夜行列車に乗って帰ることにしよう」
「え?そんな…私の為に予定を変更して頂くのは申し訳無いです」
慌ててイアソン王子に言った。
「そんな事気にすることはない。だったら、こう考ればいいじゃないか。いずれロザリーは大公妃になるんだろう?今から君に恩を売っておけば、王家の利益に繋がる…。だから俺は君に親切にしようとしている。これならどうだ?」
「イアソン王子…」
イアソン王子が私に親切にしようとしているのは、自分の利益を得るため…。そう考えれば、確かに気が少しは楽になれる。
「分かりました…。それでは宜しくお願い致します」
イアソン王子に頭を下げた。
「よし、決まりだ。とりあえず俺はこれから色々準備があるから、また後で訪ねるから、今日はもう何処にも行くなよ?」
「分かりました」
頷くと、イアソン王子が言った。
「それじゃ、また後でな」
そして踵を返し、イアソン王子は男子寮へと去って行った。
「…部屋に戻りましょう」
イアソン王子の後ろ姿を見届けると、私も自分の寮へ足を向けた―。
****
部屋に戻った私は追加で荷造りの準備を始めながら思った。ひょっとして、私の今の身なりでイアソン王子の国へ行った場合、王子に恥をかかせてしまうのではないだろうかと。けれど私はまともな服を持っていない。アルバイト代はまだ然程溜まっていないので満足に服を帰るほどの金額は満たしていない。
「…」
立ち上がり、机に向かうと引き出しをそっと開けてみた。中にはユーグ様から頂いた小切手が入っている。一瞬手を伸ばしかけ…その手を引っ込めた。
やっぱり駄目だ。この小切手に手をつけるわけにはいかない。もし…これに手をつけてしまえば、私はユーグ様の物だと認めてしまう事になる。自分の中でそう決めていた。
やっぱり、まだ私は…こんな状況になってもユーグ様との賭けに一縷の望みを持っていたのだ―。
****
午後4時半―
コンコン
不意に窓ガラスが叩かれる音が聞こえた。
「?」
訝しんで窓に視線を送ると、そこには厚手のコートを着込んだイアソン王子の姿があった。
「イアソン王子」
急いで窓を開けた。
「ロザリー、君の分の汽車のチケットを手配したよ。渡しておくよ」
白い息を吐きながらイアソン王子が私に茶封筒を手渡してきた。
「ありがとうございます、あの…汽車代は…」
「そんなもの、俺が請求すると思うかい?仮にも俺は王子なんだぞ?」
イアソン王子が少しだけムッとした様子で言った。
「そうですよね…。申し訳ございません。失礼致しました」
頭を下げた。
「別に気にしなくていい。明日の午前9時の『ヘンデル』行きの汽車に乗るんだ。それに乗れば午後3時には到着する」
「分かりました」
「到着したらホームで待っていろ。俺が迎えに行ってやるから。それじゃ俺はもう行くよ」
イアソン王子は笑顔で言った。
「ご親切にありがとうございます」
封筒を受け取ると頭を下げた。
「気にすることはない、それじゃあな」
そしてイアソン王子は私に手を振ると、立ち去って行った―。
「え?そんな…私の為に予定を変更して頂くのは申し訳無いです」
慌ててイアソン王子に言った。
「そんな事気にすることはない。だったら、こう考ればいいじゃないか。いずれロザリーは大公妃になるんだろう?今から君に恩を売っておけば、王家の利益に繋がる…。だから俺は君に親切にしようとしている。これならどうだ?」
「イアソン王子…」
イアソン王子が私に親切にしようとしているのは、自分の利益を得るため…。そう考えれば、確かに気が少しは楽になれる。
「分かりました…。それでは宜しくお願い致します」
イアソン王子に頭を下げた。
「よし、決まりだ。とりあえず俺はこれから色々準備があるから、また後で訪ねるから、今日はもう何処にも行くなよ?」
「分かりました」
頷くと、イアソン王子が言った。
「それじゃ、また後でな」
そして踵を返し、イアソン王子は男子寮へと去って行った。
「…部屋に戻りましょう」
イアソン王子の後ろ姿を見届けると、私も自分の寮へ足を向けた―。
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部屋に戻った私は追加で荷造りの準備を始めながら思った。ひょっとして、私の今の身なりでイアソン王子の国へ行った場合、王子に恥をかかせてしまうのではないだろうかと。けれど私はまともな服を持っていない。アルバイト代はまだ然程溜まっていないので満足に服を帰るほどの金額は満たしていない。
「…」
立ち上がり、机に向かうと引き出しをそっと開けてみた。中にはユーグ様から頂いた小切手が入っている。一瞬手を伸ばしかけ…その手を引っ込めた。
やっぱり駄目だ。この小切手に手をつけるわけにはいかない。もし…これに手をつけてしまえば、私はユーグ様の物だと認めてしまう事になる。自分の中でそう決めていた。
やっぱり、まだ私は…こんな状況になってもユーグ様との賭けに一縷の望みを持っていたのだ―。
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午後4時半―
コンコン
不意に窓ガラスが叩かれる音が聞こえた。
「?」
訝しんで窓に視線を送ると、そこには厚手のコートを着込んだイアソン王子の姿があった。
「イアソン王子」
急いで窓を開けた。
「ロザリー、君の分の汽車のチケットを手配したよ。渡しておくよ」
白い息を吐きながらイアソン王子が私に茶封筒を手渡してきた。
「ありがとうございます、あの…汽車代は…」
「そんなもの、俺が請求すると思うかい?仮にも俺は王子なんだぞ?」
イアソン王子が少しだけムッとした様子で言った。
「そうですよね…。申し訳ございません。失礼致しました」
頭を下げた。
「別に気にしなくていい。明日の午前9時の『ヘンデル』行きの汽車に乗るんだ。それに乗れば午後3時には到着する」
「分かりました」
「到着したらホームで待っていろ。俺が迎えに行ってやるから。それじゃ俺はもう行くよ」
イアソン王子は笑顔で言った。
「ご親切にありがとうございます」
封筒を受け取ると頭を下げた。
「気にすることはない、それじゃあな」
そしてイアソン王子は私に手を振ると、立ち去って行った―。
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